第14話 アトム・スマッシャー
「こいつがアトム・スマッシャーかッ!」
「実物……ヤバくねぇか?」
「デカすぎだろ聞いてねぇぞ!?」
「おい、全員体勢を整えろッ!」
狂瀾怒濤に支配されかけながらも冒険者達は臨戦態勢を形成していく。
まさかここまで大きい存在なんて初見の俺は夢にも思わなかった。
なるほど……だが確かにこの大きさは大人数向けのクエストになるわけだ。
奴を先に倒せば勝ち、ってことだよな?
「さぁマックス君、リビル君、冒険者達、本当の勝負はここからだ。先に奴を倒した者こそ……正義となる」
ステラの言葉に冒険者達を奮起を始め、振動のような雄叫びが次々と上がる。
「っしゃぁ! 奴を倒せば一攫千金!」
「行くぞお前らァ!」
「「「「ウォォォォォォ!!!」」」」
報酬目当てのチー厶は大金欲しさに一斉にアトム・スマッシャーへと駆けていく。
だがそんな希望ある威勢も……直ぐに打ち砕かれる結果となった。
「よっしゃ真っ先に俺が……ん?」
勢いよくダッシュし一番先に相手を狩ろうとする双剣使いの冒険者の男。
巨体を切り刻もうと接近するがガコンという機械らしい音が響き渡る。
何事かと男は顔を見上げるとアトム・スマッシャーは背後にある砲台のような2本のレールを男に向けていた。
次の瞬間、刹那の時間で砲口が光り輝きドグォンという音と共に男を焼き殺した。
断末魔を上げる暇もなく原型を留めないほどに男はドロドロと溶け、絶命する。
「う、嘘……だろ!?」
「あんな簡単に人を……ッ!」
「ヒィッ!?」
一瞬にして恐怖に染まる決戦の地。
威勢は直ぐにも消え去り、中には腰を抜いて失禁している者までいる。
なんだあの攻撃……レールガンか?
おいおい異世界でそんなSFのような殺し方ありなのかよッ!
「怯むなッ! 落ち着いて対処すれば問題はない、魔法使い、僧侶は遠距離から一斉射撃! 剣士達は斬り込めッ!」
チームリーダーの男は何とか体勢を立て直そうとするが、混乱は広がっていく一方。
何とか冷静さを保っている者達は果敢にアトム・スマッシャーへと攻め込むも
「フレアバレット!」
「ウォーター・アロー!」
「メガ・スラッシュ!」
全て機械の皮膚に無慈悲にも弾かれる。
『キラァァァァァァ!』
反撃とばかりにアトム・スマッシャーは叫びを上げると、身体を変形させレールガンに代わって二門の放射器のような物を向ける。
火炎のような物が発射され薙ぎ払うかの如く、冒険者達を次々と焼死させていく。
「ぐぁぁぁっ!」
「熱い熱いィィィィィィ!」
聞くに耐えない阿鼻叫喚の嵐。
地獄という言葉を体現している。
僅かな時間で四十人ほどいた冒険者は半数まで減少してしまう。
「て、撤退だッ! 分が悪い!」
「クソッ逃げるしかない!」
壊滅的な被害を受けたチー厶は撤退を余儀なくされる。
異常な強さにまだ無傷である『アルコバレーノ』にも動揺が広がった。
「ヤバいぞこれだと俺らのチー厶も!」
「リビル様一度撤退しましょう! このままでは私達も被害を!」
「……まれ」
「えっ?」
「黙れッ!!」
リビルは必死に説得しようとする取り巻き達を一喝し、怒りの眼差しで睨み付ける。
あれは完全に冷静さを見失ってるな。
「俺は奴を真っ先に倒さなきゃならないんだよ、ここで引いてあの雑魚に先を越されたらどうする! 末代までの恥だッ!」
「しかし命を失っては元も子も」
「おいサフィ……お前は俺が負けるとでも思ってるのか? このエリートの俺が」
「そ、そういう訳では」
「なら俺に指図するなッ! 黙ってろッ!」
怒りに支配されているリビルは大剣を持ち直し、アトム・スマッシャーと相まみえる。
完全に頭に血が上っているな……そこまでして俺に負けるのは屈辱的なのか。
「カオス・スマッシャーは俺が倒す。俺はエリートなんだよ……あんな残飯に負ける訳がねぇんだよォォォォォ!」
周りの制止を振り払い、激情を原動力にリビルは駆け出していく。
激しく跳躍すると大剣には赤黒い炎が纏われ始める。
「ヘル・スラッシュ!」
一刀両断しようと頭を目掛けて一気に振り下ろす。
だが突如、アトム・スマッシャーの頭部に付いている一本角が伸びていき、ドリルのように回転を始める。
『キラァァァァァァ!』
彼を嘲笑うかの如く、回転するツノを振り上げると渾身の一撃を簡単に相殺した。
「なっ!?」
攻撃は大きく弾かれ、リビルは体勢を崩し困惑の顔に染まっていく。
生まれた大きい隙を逃すことはなくアトム・スマッシャーは頭突きを食らわせるよう突進を行う。
「しまっ……がぁぁぁッ!?」
空中での無防備な体勢から逃れる術はなく、直撃を受けてしまい、勢いよく吹き飛ばされた。
「リビル様!?」
「リビルッ!?」
地面を抉るほどに叩きつけられ何度も転がりながらも、何とか立ち上がるがダメージからか膝をつく。
「ぶぐっ……こいつゥゥゥ!!!」
激しく吐血するもリビルは再び立ち上がり大剣を持ち替え強襲を行う。
プライドが良くも悪くも心を保たせているが……これ以上の抗いは無駄なことだった。
「ぐぶっ!? がぁぁ!?」
アトム・スマッシャーの機械的な武器に苦しめられ、リビルは次々と攻撃を食らう。
遂には鋼鉄の皮膚に大剣が破壊され、鋭利な足でもう一度、地面へと叩きつけられた。
「あ、が……ッ」
「リビル様ァァ! 」
遂に力尽きたのか、リビルは立ち上がれなくなる。
ボロボロでありながら命に別状はないがもはや戦える状態でもない。
「クッソ……まだァ!」
「駄目ですリビル様これ以上は!」
「チクショ……チクショォォォ!」
完膚なきまでの大敗にサフィに抱えられながらリビルは叫び散らす。
「そんなリビルが……」
「リ、リビルがこれなら私達は……!?」
「ヒィッ!? 来るなァァァ!!」
リーダーが一方的に蹂躙された現実に『アルコバレーノ』は完全に戦意喪失する。
彼ら、彼女らも精神的にまともに戦えるような状況じゃない。
……このまま、何もしないで奴らが惨殺される所を拝んでやろうか。
別に罪悪感とかはない、俺が手をかける訳でもないし同情なんて全くしない。
血祭りに上がるとこを見るのもまた一興かもしれない。
だがそれだけでいいのか? 殺されるという一時的な苦痛だけでいいのか?
この身体の持ち主であるマックスは何度も生き地獄の屈辱を味わったはずだ。
抗えず、醜態を晒され、ずっと苦汁を飲んでいたんだと思う。
その地獄の日々のやり返しを一瞬の痛みと苦しみだけで終わらせていいのか?
いや違う、奴らにも味あわせてやるんだ。
受けてきた時と同じような苦しみを、ならば……ここで死なせない、敢えて生かす。
「……ッシャァ!」
気合を入れる声を上げ、俺は無双を続けるアトム・スマッシャーへと歩き出した。
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