第15話 厨二無双
「ッ! おい何してんだマックス!?」
「何やってるんですの!?」
「馬鹿かあいつ!?」
歩を進める俺を見て、リビルやサフィや取り巻き達が声を荒げる。
まるでネジの外れた狂人と話しているかのような口調だ。不愉快。
「何って、奴を倒すだけだが」
「はぁ……? てめぇのような雑魚が倒せる訳ねぇだろうが! 遂に頭イカれたか?」
「そうですわ! リビル様の靴の底にも及ばない貴方がッ!」
「ちょっと超級使えるからって自惚れてんじゃねぇぞゴミが!」
「調子こくなよこいつ! 英雄気取りか?」
止まらない俺への罵詈雑言。
これ以上こんなの聞いてたら耳が腐る。
「うるせぇな……黙ってろこのビチクソゴミ軍団がッ! クソ浴びせんぞゴラァ!」
「「「「なっ!?」」」」
俺ことマックスの汚らしい発言にリビル達は驚愕する。
流石に俺もこんなに醜い言葉を使うつもりは最初はなかった。
まぁ今はどうだって良い。
目の前にいる機械をどう叩き潰すかだけを考えるべきだ。
奴は機械による圧倒的火力と装甲のような皮膚による鉄壁の防御力が特徴。
隙のないように見えるが……リビルの戦いを観察したことで一つ気づいたことがある。
四本脚の関節部分、その箇所だけは皮膚が薄くなっていた。
雀の涙ほどの差かもしれないが弱点はそこかもしれない。
「狙うは……そこだな」
冷静であれば勝てない相手じゃない。
やってやる、あいつらの積み重なったプライドを殺してやるんだ。
「お前等、そこで大人しく見ていろよ」
呆然と立ち尽くす『アルコバレーノ』に言い残し、俺は厨二病を発動させる。
もしかしたら疲労でぶっ倒れるかもしれないな……いやそんなの覚悟の上だッ!
「機械に支配された哀しき愚者よ、貴様のような物に
十八番のような厨二台詞と共に、漆黒の魔法陣に手を突っ込むと歪な長剣を引き出す。
まさに闇を体現したようなその雰囲気には「禁忌」という言葉を添えたい。
「さぁ始めようか……執行の時間だ!!」
剣を構えながら加速し、アトム・スマッシャーへと一点集中で迫る。
周りはまだ何か後ろで何か言っていたがそんな姦しい雑音は耳に入らない。
『キラァァァァァ!』
接近に気付いたアトム・スマッシャーは背後のレールガンを放つ。
回避すのは不可能な速度、ならば相殺すればいい。
「ハッ!」
接近する電磁砲を身体を捻らせ、勢いよく長剣で真っ二つに切断。
斬られた電磁砲はバランスを失い都市遺跡へと派手に着弾する。
すかさずアトム・スマッシャーは火炎放射器を放つも
「シャドウ・レイン!」
環境変化の闇魔法を発動し、空中に生み出された雲から放たれる黒い雨が炎を直ぐ様鎮火していく。
『キラァァァァァァァァァァ!』
遠距離攻撃を相殺されたアトム・スマッシャーは鋭利な脚を動かし、自分に目掛けて蹴撃を仕掛ける。
その攻撃を……待っていた。
容易く見切り軽々と避けると、俺は大きく跳躍し奴の脚へ飛び乗る。
そのまま巨体の脚を一気に疾走し、関節部分へと辿り着く。
「さぁ奏でろ、冥府にまで轟く
僅かな隙間。
人の腕一本分しかない皮膚の薄い部分に目掛けて身体を回転させ長剣を斬り込む……!
ズバァン!
『キラァァァァァァァァァァァ!』
鼓膜を震えさせる悲鳴のような鳴き声。
紫の鮮血を撒き散らしながらアトム・スマッシャーの右前足が綺麗に切断される。
「苦痛に悶えている場合か? 戯者よ!」
空中を舞う足へと飛び乗り、俺は蹴り上げるとそのまま左前足へと迫り切断。
両方の前足を失ったアトム・スマッシャーは体勢を崩した。
「嘘だろォ!?」
「あいつ……本当にあのマックスなのか? まるで違うぞ!」
一連の戦闘を見つめていた『アルコバレーノ』達は唖然としている。
「あり得ない……あり得ないあり得ない! あんな奴が俺を上回っているなどあり得ねぇはずだろ!?」
リビルは悪夢を見ているような思うような顔を浮かべ俺の戦いを必死に拒絶していた。
直ぐにでも「夢じゃない現実だ」と言いたいかったががそれは後にしよう。
『キラァァァ……!』
心なしか、アトム・スマッシャーの声の勢いが落ち始めている。
先程までとはまるで違い、苦しそうな雰囲気があった。
だがまだ戦意は折れていない。
両足を失おうとも背後の武装で俺を殺そうとしていた。
ならば……トドメといこう。
「狂宴もここまでだ。深淵へと誘われ終焉の刻を迎える覚悟は出来たか?」
俺は闇のオーラを纏い、長剣を天高く掲げると超級闇魔法の詠唱を始める。
「機械に呑まれし愚者の魂、今こそ解放の時を迎えよ。エンド・オブ・ワールドッ!!」
振り下ろされた瞬間、巨大な魔法陣がアトム・スマッシャー上空へと出現。
黒い太陽のような絶望を表すエネルギーの塊が落下していく。
『キラァァァァァァァァ!』
最後の抗いをするようにアトム・スマッシャーは全武装を使い相殺しようとするが傷一つつけることが出来ない。
圧倒的な質量で夥しい武装を全て破壊し、巨大であるアトム・スマッシャーを跡形もなく押し潰した。
先程までの騒がしさが嘘のような静寂が辺りを包み込む。
「ぐっ!?」
全てを終え、厨二病を解除した瞬間、ぶっ飛びそうなほどの衝撃が心身に伝わる。
「ヤッバ……魔法を使いすぎるのも危険だな……これは」
激しい筋肉痛が神経を痛めつけ、気を抜けば意識を失いそうだ。
やはり超級クラスは使えるとはいえ、反動が凄い。
俺はゆっくりと立ち上がり、未だに呆然と凝視している彼らを睨み付ける。
いつの間にかリビルはサフィに魔法を使われたのか回復していた。
「これでもまだ……そんな偉そうなことをグチグチ言える立場なのか? お前ら」
「「「「ッ!!」」」」
「靴の底以下の奴に出し抜かれる気分はどうだ? 残飯よりも弱い気分はどうだ?」
畏怖に似た感情を顔に浮かべ『アルコバレーノ』の面々はゆっくりと後退りしていく。
「一人一人を半殺しにしたい気分だが……それは止める。お前らみたいなウンコ以下と同じ立場にはなりたくないしな」
「ウンコって……!? お前!」
「黙れ俺が喋ってんだよッ!」
反論しかけたリビルを強引に一蹴する。
こいつの話なんてもう聞きたくもない。
「約束しろ、金輪際弱い奴をイジメんじゃねぇよ。それと俺の前に二度とツラを見せんなこのカスどもがッ!」
「カスだ……? ふざけんなよこいつッ!」
大剣を取り出すと苛立ちと悔しさが混じった感情を爆発させ俺へと歩き出す。
だが次の瞬間、風を切るような音と共に高貴な長身の剣が振り下ろされリビルを遮る。
「そこまでだ」
「ッ……!」
それまで静観していたステラさんは俺達の決着がついた合図を発する。
怒り心頭の顔だったリビルも彼女の登場に少しばかり萎縮した。
「既に決着はついている。これ以降の所業は無意味だよ、リビル君」
「……ざけるな……ふざけるな! まだ勝負は終わっちゃいねェェェェェ!!!」
ステラさんの言葉を無理矢理押し殺すとリビルは大剣を持ち直し俺達へと迫ってくる。
剣先に魔法陣を作り出し、今にも攻撃にかかろうとしたその時だった。
「アルバロス・スラッシュ」
聞き心地の良い音色の詠唱が響き渡るとリビルの大剣は空中へと弾き飛ばされる。
何事かと下を見ると魔法により氷を纏ったステラさんの剣が攻撃を遮断していた。
「なっ!?」
軽く大剣を弾かれ、地面へと突き刺さりリビル自身は尻餅をつく。
華麗な一撃を放つとステラさんは洗練された動きで剣を納剣した。
視認できないほどに速い剣さばき。
周りから『剣聖』と呼ばれる真髄を見させられた気がする。
「言ったはずだ、決着はついたと。これ以降のマックス君に対する攻撃は不当な暴力行為と見なし冒険者資格を永久剥奪する。それでもいいなら攻撃したまえ」
「クッ……!」
言葉と剣技による威圧に言い返す言葉がなくリビルは悔しさを滲ませ、やるせない感情を発散するように激しく歯ぎしりをする。
「もう言わなくても分かることだが……この勝負はマックス君の勝利だ。この審判に異論がある者はいるかい?」
ステラの呼びかけに生き残った面々も誰一人として声を上げない。
リビル達はまだ何かを言いたげだったが最終的には彼女に屈し、押し黙った。
異論のない結果に満足げな顔を作り、ステラさんは俺の方へと振り向く。
「おめでとう、この戦いは君の勝利だ」
これで少しは……非業の死を遂げたマックスへの弔いになっただろうか。
彼女から放たれた勝利宣言に俺はやり遂げたことを改めて自覚する。
「さて勝者には美酒がつきものだ。今回のクエストとは別に私からも褒美を与えよう。マックス君、君は何を望む? 金か? 愛欲か?」
「どれもいりません。ただ俺がさっき言ったことが叶うなら……何もいらない」
別に金やら、権力やら、それは別にいい。
今俺が望んでいることは目の前にいるこのクソ共とおさらばしたいことだ。
そんな俺の意志を汲み取ったのかステラさんは小さく微笑む。
「そうか、ならば『アルコバレーノ』の諸君、ギルドマスターの権限を行使し今後一切のマックス君への干渉や他者への暴力行為を禁止とする。破った場合は冒険者資格を永久剥奪とする」
「なっ、待てよギルドマスター!? それは余りにもッ!」
「敗者に口はなし、返事は? それとも今ここで強制的に永久剥奪するかい?」
「……分かりました」
食い下がろうとしたリビルだがステラさんの言葉のナイフで脅され不服な表情ながら彼女の命令を受け入れた。
「よろしい。では私はここで失礼させて貰おう。また会える日を楽しみにしているよ。特にマックス君」
最後に俺に向けて愛らしいウィンクを送ると、ステラさんは悠々と去っていった。
「……行くぞお前ら」
「ま、待ってくださいリビル様ッ!」
同時にリビルも小さく舌打ちをしながらボロボロになった身体を引きずり『アルコバレーノ』の面々は都市遺跡から消えていく。
「はぁ……疲れたマジで」
全てをやり遂げ、俺は思いっきり背伸びをする。
この世界に来てまだ二日だっていうのにとんでもない展開が起きすぎだ。
ギガ・レビュアズ倒して、スキルス村を救って、リビルとの因縁を晴らして……よくこんなハードワーク熟したな俺。
だが後悔はない。寧ろ清々しい気分だ。
やはり異世界に来て正解だと思う。
「よしっ、上手いもんでも食うか!」
しがらみは振りほどいた。
これでようやく俺自身の理想的な異世界ライフを送れる!
勝利した事実を大切に噛み締めながら明後日の方向へと笑顔を浮かべる。
これからの希望に胸を膨らませ俺はゆっくりと歩き出した。
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