アバランチ編
第16話 幸福の日々
モンスター蔓延る危険エリアの森。
俺はその場で無数のモンスターと対峙していた。
「我が深淵なる闇の力に抱かれ眠るがいい! ダーク・ドライヴ・ログロレスッ!」
お決まりの厨二病セリフと共に迫りくるモンスターへと深紫の光線を放つ。
不規則かつトリッキーな反射で錯乱され複数の敵を一斉に貫く。
『ブラァァァ!』
ゴブリンのような見た目をしたリバルスと呼ばれる緑色のモンスターは次々と光線の餌食となり無力化していった。
一通りの一掃を終えると厨二病を解除し辺りを見回す。
「これでノルマは達成……っと」
アトム・スマッシャーを撃破し、リビルとの因縁を断ち切ってから今日で半年が経つ。
不慣れだった異世界生活も徐々に物にし厨二病の魔法も慣れ始めてきた。
現在はリバルス討伐というクエストを受け丁度達成したところ。
あれからと言うもの、リビルからの干渉はなく嘘みたいに平穏な日々を過ごせていた。
周りの冒険者との関係も悪くはない。
かつて助けたロレンスさんのミネルバ家とは度々お茶会とかして親交を深めている。
相変わらず今でも厨二病な部分にはドン引きの目を向けられるが……まぁもういいか。
「闇の力よ、我を異空間へ誘い邪を淘汰した聖なる
リバルス達の頭部を切り取り、袋へと積めると転移の闇魔法を発動。
ブラックホールのようなリングが出現すると俺を包み一瞬でリエレル王国のギルド紹介所までワープする。
「あっお帰りなさいマックスさん!」
到着したや否や、受付場所から聞き心地の良いハロさんの声が耳を癒やす。
もはや俺にとっても近所のお姉さんのような顔馴染みの関係だ。
「リバルスはどうでしたか?」
「問題なく、これが全部です」
切り取った頭部達を提示するとハロさんは満足げな顔を向ける。
「はい確認しました! しかし今日も成功ですか、噂になってますよ。クエスト成功率百パーセントの凄腕冒険者がいるって」
「止めてください、俺は普通に冒険者としての仕事を真っ当してるだけです」
「謙遜のしすぎは美徳ではありませんよ? マックスさんは凄いんですからもっと自信を持ってください」
俺の長いクエスト受注履歴を確認し、感心するように可愛らしく微笑む。
あの一件以来、俺はクエストの成功率百パーセントを維持し続けている。
特に理由はないがソウルの力を使っていたら必然的にこうなったというところか。
まぁ結果としてリビル達を更に悔しませることが出来てるだろうし万々歳だ。
ハロさんと友人のような良好な関係を築けているしな。
「おいあいつだ、マックスだよ。例の成功率百パーセントの」
「飛び級でDランクからAランクに昇格した奴でしょ? 信じられない話ね……」
「凄いな、あんな若くして頭角を現すとか」
「あのリビルにも勝ったっていうがなんか不正してんじゃねぇの?」
「だがギルドマスターであるステラが容認してるし……ガチなんだろ」
「なんかムカつくな……俺なんて二十五歳でようやくCランクに上がったってのに。十六歳でもうAランクかよ」
俺に向けての冒険者達のヒソヒソと賛否両論の声が次々と上がる。
もはやちょっとした有名人の扱いだが気分がいいな。承認欲求が満たされる。
まぁ中には嫉妬や憎悪の目線もあるが、気にせず無心でスルーすればいい。
「マックスさんの実力ならSランクくらいは余裕で行ける気がしますけどね」
「いえいえ、俺はこのくらいがちょうど良いですよ」
「そうですか? マックスさんなら史上最年少でのギルドマスターだって!」
ギルドマスターか……興味が全くないという訳では無い。
だが冒険者の管理だとかは面倒だ。リビルとも関わらなくちゃいけないかもしれない。
俺は自由に気ままに生きたいからな。
「あっそういえば……もしお時間があったらまたお食事でもどうですか? マックスさんの話は楽しいので!」
言ってはなかったが半年の期間を得てハロさんとはたまに食事をするほどの仲にはなっている。
理由はまぁ自然と仲良くなったというか……恋愛とかじゃなく友人としてだがな。
まっ、こんな美人と楽しく話せるだけでも万々歳だ。
彼女からの誘いに乗りたいが……今日は都合が悪く断るしかなかった。
「すみません、他に用事があるのでまた誘ってください。それじゃ失礼します!」
「あっちょっと!?」
そそくさとその場を後にすると、俺は足早に外へと出る。
周りからの視線に一種の優越感を懐きながらある場所へと向かう。
それは見上げるほどの勝者であることを示す巨大な屋敷であった。
豪華な門には警護兵がおり、俺の姿を視認した途端、朗らかな笑顔を向けた。
「ようこそいらっしゃいました、マックスさん。ロレンスお嬢様がお待ちです」
そう、今のセリフで理解できたと思う。
ミネルバ家の例のお嬢様、ロレンスさんからお茶会の誘いがあったのだ。
しかも今回が初めてではなく、既に何度も俺は招かれている。
「ようこそおいでくださいましたマックスさん!」
「ささっ、是非こちらへ!」
「うわっ……マックスさんだ……本物だよ」
使用人やメイド達は俺を手厚く歓迎しながら黄色い声が上がり、ロレンスさんの部屋へと誘導されていく。
メイドに促され扉を開くとそこには顔馴染の二人の姿があった。
「お待ちしていましたマックス様!」
「ようこそ、ミネルバ家の屋敷へ」
ミネルバ家ご令嬢のロレンスさん、彼女の専属侍女であるキウイさん。
可憐な二人はティーセットを机に置き、俺を出迎える。
「さぁ今日もお聞かせください! マックス様が辿ってきた冒険を、マックス様の華麗な詠唱の数々を!」
「あぁ……はい、分かりました」
何故ここまで親交が深いかって?
全員察してるだろう、ロレンスさんに俺の厨二病が好かれに好かれちまった。
こうして呼び出されては厨二病の話とかを話すことになってる。
「では神殿ではどのような言葉を放って相手を蹂躙したのですか!?」
「えっ……あぁ……っと、フ、フハハハハハハッ! 我の闇に溺れアビスの底へと落ち鎮魂歌を奏でるがいいッ!!」
「おぉ! 素晴らしいッ!」
俺の小っ恥ずかしいセリフに目を輝かせながらロレンスさんは賛辞を送る。
うん……いや嬉しいんだよ? 好かれてるし貴族と良好な関係がきずけてるし。
ただ恥ずかしいッ!
恥ずかしくて恥ずかしくてたまらない!
笑顔が見れるならそれでいいけども!
いつもこういう感じの会話劇だ。
ロレンスさんは楽しみ、キウイさんは温かい目で見つめている。
早く……早く終わってェェェェェェ!!
「ふぅ……いやぁ楽しかったです! 本当にマックス様の話は飽きませんね!」
「そ、それなら良かった……です」
数時間後、ようやく生殺しから開放され厨二病のひけらかしは終わりを告げる。
あぁ色々と疲れた、楽しいんだけどめっちゃ疲れる。
出された高級な紅茶や菓子の味はもはや覚えてない。
「マックスさん、すみません、どうもお嬢様は貴方のことをいたく気に入っているので……ご足労をかけてしまい」
「いえいえ、俺は大丈夫ですよ。楽しんでもらえているなら何よりです」
労ってくれるキウイさんに俺は笑顔で受け答える。
と、貴族と戯れていると時間は既に一時間以上も過ぎていた。
もう少しで出ないと昼食が取れなくなる。
「あっヤバっ、そろそろ行かないと。すみませんロレンスさん、ここらで失礼します」
「えぇもうですか!? もう少しだけお話を……」
「お嬢様、マックスさんにも事情というものがあります。これが最後ではないですし続きはまたの機会にしましょう」
そうキウイさんに諭され不服ながらもロレンスさんは渋々と首を縦に振った。
「マックスさん、今日はとても楽しかったです! ありがとうごさいました!」
「屋敷の者やお嬢様のご尊父様も貴方に好意的な意見を述べています。もし何かあったら是非ミネルバ家へお越しください」
「えぇ、また呼んでいただけたらとても光栄です」
営業スマイルではなく心からの笑顔でロレンスさん達に微笑みその場を後にした。
まっ、このように湯快爽快を過ごしている訳ではあるが……。
「さて、飯でも食うか!」
戯れを終え俺は常連と化している肉屋へと足を運び、今日も肉汁を味わい舌を肥やす。
今回のクエストも中々の額だったので懐は未だに暖かい。
相変わらずの旨さに俺は思わず偶然通りかかった顔馴染みの店長に声をかけてしまう。
「美味い! やっぱりここのステーキは最高ですね、ありがとうございます!」
「いえそんな! 寧ろこっちが貴方に感謝すべきだよ、君が毎日来てくれることでこっちも商売上がったりなんだ」
「えっ?」
「あのマックスが通っている肉屋ってな、最近話題沸騰中の店なんだよ。ほらあそことか見てみな」
指差された方へ視線を移すとそこには行列が出来ていた。
しかもその殆どが俺と同じ冒険者っぽい人達ばかり。
「今巷で大人気でな。味もそうだが何より君のお陰で客が増えたってわけだ」
あぁ確かに最近ここの店人が増えてきたなと思ったらそういうことなのか……。
まさか自分が一種のインフルエンサーになるなんて前世では思ってもいなかった。
「まっこれからもよろしく頼むよ。それじゃあな!」
嬉しい悲鳴を上げる繁盛に上機嫌に鼻を鳴らすと店長は厨房へと戻っていく。
これはもう異世界に来て良かったと思うしかないな。
異世界転生最高! 最高! 最高!
そう俺自身も有頂天な気分になっていたその時だった。
「やぁやぁすっかり有名人じゃないか?」
「へっ?」
もう何度も聞いたハスキーで低音な女性ボイス。
声の方向へと振り返るとそこにはクールな視線を向けているギルドマスターのステラさんが立っていた。
「ッ! ス、ステラさん!」
ポニーテールを靡かせ可憐なオーラを纏う彼女の出現に俺は思わず立ち上がる。
「あぁ畏まらなくていい。偶然ここを通りかかった時に君を見つけてね。ちょっと話がしたくなったのさ。店長少しだけ席を借りるよ?」
有無を言わす前にステラさんは俺の反対の席へと座り頬杖をついてこちらを見つめる。
いけない、彼女の前触れなしの登場に思わず萎縮してしまった。
なんせリビル達『アルコバレーノ』とのいざこざを何とかしてくれた張本人だ。
平穏に生きれてるのもこの人のお陰であり有名になろうとも頭が上がらない。
今話題の冒険者と『剣聖』と呼ばれるギルドマスターの対峙に周りもざわつき始める。
そんな視線を気にもとめずステラさんは世間話を始めた。
「さて、どうだい最近の調子は?」
「まぁ……上々ですかね。貴方のお陰で平穏に生きれてますしキャリアも積めています」
「いいじゃないか。私達ギルドとしても君のような象徴的な人物は冒険者増加に繋がっている。助かっているよ」
「ハハッ……恐縮です」
「一部では次期ギルドマスターなんて言われたりしてね。君も満更じゃないとか。随分と生意気だね」
「えっ、あっいや別にそんな!」
「アッハハハッ! 冗談だよ、別に君がギルドマスターになることに否定はしないさ。相応の実力があるからね。私に並ぶくらいの」
「そ、そうですか……」
悪戯にステラさんは俺へと微笑を向ける。
だが何処か乾いたような、薄情な雰囲気を感じたのは気のせいか?
「まぁそれはいいとして、話は変わるが」
彼女は一度言葉を区切ると興味深そうな表情を浮かべた。
「マックス君、君はチームに所属する気はあるのかい?」
「チー厶?」
「冒険者同士のパーティチー厶だ。ここではチームを作って動くのが主流。ソロプレイヤーである君を巡って上位チー厶では争奪戦が行われているよ」
ステラさんは淡々と説明する。
そういえばこの世界は冒険者はチームに所属するのが当たり前だったな。
すっかりそのこと忘れてた……一人でも何とか出来てるからこそ。
確かに男女問わずよくアプローチをされていたがそういうことか。
しかし仲間は普通に欲しいんだよな。こう絆を育める関係みたいなやつ。
「君はどうするつもりだい? このままソロプレイヤーでいるのか」
「俺は一匹狼になるつもりはないです。仲間は欲しいですしいずれはチームに所属しますよ」
「そうか、それなら君に……君のために一つ警告をしておこう」
「警告?」
その言葉を機に、ステラさんの笑顔が消え真剣な表情へと変化していく。
ただならぬ変わりように俺も思わず生唾を飲む。
「『アバランチ』という名前のチー厶が君の獲得に動いているという噂がある。奴らには絶対に関わるな」
「ア、アバランチ……? 何処のチームですかそれ? そんな名前聞いたことが」
「聞かなくて当然だ。奴らはギルドにも所属していない冒険者のチー厶。全員が犯罪履歴を持つ凶悪なテロリスト集団だ」
「犯罪履歴!? テロリスト!?」
「突然現れては国や組織などに対し独自の理念でテロにも似た破壊活動を行う。その為なら殺しだって平気で行う」
テロリストのチー厶……!?
平気で人殺すってめっちゃヤベェじゃん。
怖っ……絶対に関わりたくねぇ、仲間になんて無理に決まってるんだけど。
「な、何でそんな危ない集団を野放しにしているんですか!?」
「もちろん対処はしていたさ。だが……討伐に向かった冒険者が次々と返り討ちにあってな。被害は百人を超える」
「百人!?」
「奴らは一人一人が実力ある冒険者を蹂躙出来る者達だ。Aランク以上でも歯が立たないだろう」
「だから野放しにしていると……?」
「下手に手を出しても犠牲者が増えるだけからね。だから中断したのさ。辛いがね」
完全な実力差による野放し……一番どうしようもないパターンじゃないか。
「まっ気を付けて欲しいという話だ。君は幅広く顔が知れている。リスクは必ずしもゼロじゃない」
そう言うとステラさんは立ち上がり俺の元を去る間際に一言残す。
「あぁそれともう一つ気を付けて欲しいことがあってな、レッド・アシアンについて君は知っているかい?」
「えっ?」
「知ってるかいと聞いている」
「あぁ……魔力を異常発達させる禁止薬物でしたっけ?」
レッド・アシアン。
魔力を上昇させる代わりに幻覚症状などを生み出す粉末状の赤い危険薬物だったか。
確か俺も都市遺跡の場所でリビルに使用を疑われていたな。
「御名答だ。実はここ最近、冒険者間で出回っているという噂がある。私達も根絶に動いてはいるが君自身も気を付けて欲しい」
テロリスト集団に薬物の蔓延だと……?
治安どうなってんだこの国は!?
いやここは日本じゃなくて異世界、治安が良いとは限らねぇ……か。
「今日のことはしっかり覚えてくれ。ではまた会おう、私のお気に入り君」
最後に意味深なことを残すとステラさんはウインクと共に去っていった。
俺の平穏を脅かす存在がどんどん増えていっている気がする……。
まぁ頭の片隅には入れておこう。これまでに築いた地位を守るためにも。
知らぬが仏というが知らぬ内に犯罪に巻き込まれたら御免だ。
そう心得ながらも気晴らしにもう一度肉へとかぶりつこうとした時だった。
「……マックス」
「あっ?」
何処か聞き覚えのある声。
直感的に嫌な予感が俺の頭に過る。
そしてその直感は……振り向いた瞬間に正解だったことが判明してしまった。
「ッ!」
「久しぶり……だな」
そこにいたのは『アルコバレーノ』のリーダーであるリビルであった。
相変わらずのバンダナを巻いた赤い髪を揺らし、俺を見下ろしている。
見た瞬間に不快感が込み上げていく。
何だコイツ、ステラさんとの約束を忘れたのか?
「マ、マックス今日は話があって「帰れ」」
「えっ?」
「二度とツラを見せんな、何のつもりかは知らねぇが肉が不味くなるから帰れクソが」
俺はそう吐き捨てると席から立ち上がる。
もう我慢の限界だ。
こいつに絡まれて平穏な生活がまた崩れるなんて溜まったもんじゃない。
「ちょ、待て!? 違うんだ俺はお前にクエストを依頼したくて!」
「依頼? なら自分でやれよ。お前Aランクだろ? 協力するかよ」
「待て……待ってくれマックス!」
次の瞬間、俺は目を疑った。
リビルは俺の目の前に来ると唐突に清々しいほどの土下座をしたのだ。
「……は?」
突然のことに呆気に取られてしまう。
一体どういう風の吹き回しだ。
「頼む! 助けてくれ! サフィを……仲間を一緒に助けてほしいんだッ!」
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