第17話 リビルの懇願
「サフィ……仲間……?」
サフィって確かリビルの隣りにいたあの媚びてた僧侶美人か。
それに仲間って『アルコバレーノ』のあいつらのことか?
「頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼むッ!」
「ちょおいお前!」
機械のように何度も連呼する異質な光景に周りも何事かと冷たい目を向け始める。
こいつ……何なんだ? 俺に負けるのは末代までの恥とか言ってたこいつが公衆の面前で土下座だと?
「チッ、あぁもう分かった! 分かったから土下座すんの止めろバカッ!」
このままにしておくのも他の客に迷惑。
妥協の中の妥協で折れた俺はリビルを自分の席へと引き込んだ。
「で、何なんだ一体。伝わるように説明してくれ」
リビルをどうにか落ち着かせると事情を聞くことにした。
いきなり来て「助けて」と言われても意味不明すぎるからな。
「わ、悪いないきなりこんな」
「良いから早く言え」
「あぁ……」
リビルの口から語られた内容は予想以上に厄介なものだった。
『アルコバレーノ』は先日、あるレッド・アシアンと関わりがある密売組織の討伐でクエストに向かっていた。
だが密売組織の討伐中、横槍のようにあるチー厶からの強襲を食らい壊滅的な被害を被ってしまう。
大敗を喫したリビルは目を覚めるといつの間にかリエレル王国で突っ伏しており自分以外のメンバーが消えていたという。
そして現在、絶賛行方不明中だと。
「きっとサフィ達はそのチー厶につれ去られたんだと思う……確定ではないが」
「お前らが大敗? 一体何処のチー厶だ? 密売組織の討伐を妨害するなんてどんな野蛮チー厶なんだよ」
「そ、それは」
俺にとっては何気ない質問だったのだがリビルは突然、口を吃らせ黙ってしまう。
「何だよ黙ってよ。言ってくれねぇと分かんねぇだろ」
「……強襲してきた相手のチー厶名は『アバランチ』だ」
「はっ? はぁっ!?」
まさか過ぎる回答。
俺の思考は一瞬にして停止した。
「お、お前今なんて言った?」
「だから『アバランチ』だ! 奴らが俺達を襲ってきたんだよ!」
おいおいおいおいおい嘘だろオイ!?
何で寄りにもよって『アバランチ』なんだよ、さっきステラさんから「絶対に関わるな」って言われたばっかだぞ!?
「お前なんてとこと戦ってんだよ!? 『アバランチ』って相当な実力者揃いのアウトロー集団なんだろ!」
「俺だって戦いたくて戦った訳じゃない! いきなり襲撃されて戦うしかなかったんだ……きっとレッド・アシアンを売り捌く組織の壊滅を阻止したかったんだろう」
確かに相手は犯罪者集団、麻薬売買に関わっていてもなんら不思議な話じゃないか。
「サフィ達を連れ去ってお前だけを残した理由は?」
「俺だけ開放されたのは見せしめとかだろう……『アバランチ』に関わるとこうなることをギルドに示す証人として」
「ならお前のお仲間は?」
「分からない、生きているか、死んでいるのか、だが俺は生きてる可能性を信じて助けたいんだ!」
「まさか……その為に俺も協力しろと?」
「そうだ! 頼むお前の力が必要なんだ、報酬ならいくらでも出す!」
再びリビルは頭を下げて頼み込む。
正直、俺は迷っていた。
この男を助ける義理など全く無い。
むしろこいつのせいで俺の生活が脅かされようとしていると言っても良い。
「頼む……あいつらは俺の大切な仲間なんだ……見捨てたくねぇんだ! お前にこれまであんなことしておいて頼み込むのは都合がいいことは分かってる。それでも……!」
だが、どうする?
今ここでこいつを見捨てるのがベストな選択だと思う。
しかしそれでリビルから逆恨みを抱かれたら溜まったもんじゃない。
それにこれは『アバランチ』を倒せる絶好の機会だったりしないか?
関わるなと言われているがそんな危険な集団に怯えながら生きるのも辛い話だ。
「……分かったよ。ただし条件がある」
「じょ、条件でも何でも聞く!」
「今回は俺自身も『アバランチ』とかいう犯罪集団を止めたいという利害の一致からだ。お前に情を入れ込んだ訳じゃない。だからこの件が終わったら金輪際俺に関わるな」
「わ、わかった! ありがとうマックス!」
よし、これで良い。
成功の良し悪しに限らずこうやって恩を売っておけば奴も恨みは抱かないはずだ。
俺もこいつと縁を切ることが出来る。
平穏な生活に元通りだ。
「んで居場所は何処なんだよ」
「ここから東に少し行った所にある廃墟になった街だ。そこで『アバランチ』に襲われたんだ」
「分かった、じゃあギルドにも申請を」
「待てギルドには報告するな!」
「はっ? 何言ってんだお前」
「ギルドへのクエスト依頼申請は何日かの時間がかかる。俺は一秒でも早くあいつらを助けたいんだ! 大丈夫、報酬は俺から払う」
馬鹿なのかこいつは。
ギルドに申請せずに勝手に動けばペナルティで下手をすれば資格剥奪もあり得る。
だが……確かにそんな切羽詰まった状況で何日も待つのは酷なことか。
「……もしこのことがステラさんにバレてもお前が全部責任を取れよ?」
「分かっている、絶対にお前を巻き込まないと約束する」
「クソッ、わーったよ」
いやいやだが俺は周りに聞こえない程度の声でリビルの懇願を受け入れる。
まぁ良いさ。どの道俺の平穏ライフを脅かす存在は潰すつもりだったんだ。
それが少しだけ早まるだけのこと。
「んじゃ早速行くぞ」
「あ、あぁ!」
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