第25話 トゥ・マッチ・ペイン
「ホー厶?」
「フフッ、付いてきて」
レイの可愛らしい手招きに連れられ、俺はリビル達の惨状を後にする。
しばらく歩かされるとレイは突然、足を止めた。
「着いたわ」
そこは……サドルクの森から少しだけ離れた場所にある何の変哲もない汚らしい無人の小屋だった。
壁や天井の木々は腐っており、地面には得体のしれない植物が生えている。
はっきり言って気持ちが悪い。
「えっここ……? 『アバランチ』って金欠なのか?」
「いやこんなゴミ小屋をアジトにするわけないでしょうが……ここは転移地点よ」
「転移地点?」
「アジトへ瞬間移動する魔法を設置した場所って言えば分かるかしら」
汚らしい扉を蹴飛ばすとレイは俺の腕を掴み、小屋の中へと入り込んでいく。
完全に足を踏み入れた次の瞬間、突如地面に純白の魔法陣が出現する。
「なっこれは!?」
「ジッとしてなさい。動くと酔うわよ」
彼女の言われた通り大人しくしていると空間が歪み始め、まるでタイムマシーンのように背景が変化していく。
やがて視界が完全に切り替わる頃には、先程とは打って変わった綺麗な酒場のようで大きな部屋に立っていた。
「ッ!」
「驚いた? ここがリエレル王国用のアジトよ。様々な箇所に転移魔法を設置して足跡がつかないようにしているのよ」
「スゲェ……これも無属性魔法なのか?」
「そうよ、知らなかったの? 無属性は怖いほどに自由だってね」
闇魔法に依存していた俺にとって他の魔法に関してはほぼ学んでいなかった。
だがしかし……これはえげつないな。転生するなら無属性のソウルになるのも良かったかもしれない。
「ほらっ来て、いつまでそこにいるの?」
「あっ、ちょっと!」
呆然としていた俺の手を強引に掴むと彼女は部屋の奥に進んでいく。
室内は静寂が包んでおり俺達以外に人がいるような気配はない。
「他の『アバランチ』はいないのか?」
「ここにはあと三人いるわ。今は別の任務でいないけど」
「ここには……?」
「『アバランチ』は国境を超えたグループ。全ての国に私と同じメンバーがいる。この国は田舎寄りだからあまり多くのメンバーは派遣されてないんだけどね」
世界規模でのチー厶……か。
どうやら俺が思っているより『アバランチ』は大きい存在らしい。
「『アバランチ』が派遣された理由はレッド・アシアンの壊滅か?」
「そうよ、私達はあの赤い悪魔を根本から残滅する為にここへと降り立った。あんな代物、誰も幸せにはならないからね」
「それは『アバランチ』独自の理念か?」
「力による厄災の残滅、それが『アバランチ』の理念よ、その為の手段なら人殺しは有効的な手段の一つとなる。反する者は力を持って制裁を行うことが……主義よ」
レイの言葉に俺は彼女が普通ではない領域にいることを改めて自覚する。
聞こえはいいが……結局のところ、やろうとしているのはテロ組織と変わらない。
反抗する者は容赦なく殺す。
今回もリビルを含め俺と同じようにレッド・アシアンに関わる人物全員を殺すつもりだろう。
だが……卑劣なクズの集まりな『アルコバレーノ』や金とプライドで動く治安維持部隊に比べれば遥かにマシなのは皮肉だ。
「まっその事は念頭に入れておきなさい。相互理解を深める為にね」
猫耳を揺らしながらレイはゆっくりと奥へと進んでいき、やがて一つの部屋の前に立つとノックをする。
「入るわよ」
返事を待たずにドアを開けると図書室のような場所には一人の少女がいた。
年齢は十代後半ぐらいだろうか? 身長はやや低く、腰まである長い金髪ツインテールに整った顔立ち。
黒を基調としたゴスロリファッションを着こなし上品な椅子に長坐位で座っている。
少女はレイの言葉にも目を動かさず、ただ黙々と本を読んでいた。
「今日の本は? 推理ものかしら?」
「……」
フレンドリーなレイの言葉にもまるで人形のように全く反応しない。
数分経ってもその状況は変わらず気まずい空気が流れていく。
「相変わらず無視するわね……ごめんなさいね、今この子大好きな読書中みたいで」
「いや俺はいいが……誰なんだこの娘は『アバランチ』なのか?」
「そうじゃない人はここにいないわ」
「……んっ?」
レイとの掛け合いに、そこでようやく俺の存在に気付いたのか、少女はパタンっと本を閉じてこちらを見つめてくる。
「貴方誰ですか? いつからいたんですかクソのダボズガ不審者?」
「クソのダボズガ不審者……!?」
一度も聞いたことのない罵声言葉を放ち少女は上目遣いで怪訝な目を向ける。
しかし数秒後、何かを考えると「あっ」と声を上げポップな動きでこちらへと迫った。
「あぁ貴方がM少年ですか。レイのお気に入りである」
「え、M少年?」
「貴方の名前はマックス・アナリズム、イニシャルはM、だからM少年」
独特過ぎるネーミングセンスに思わず「はぁ……」と腑抜けた返事をしてしまう。
そのセンスに見合ったように彼女自身も不思議ちゃんのような雰囲気を纏っている。
『アバランチ』って全員がハイテンションな奴らと思っていたがそうでもないのか?
「紹介するわ。彼女は『アバランチ』が誇る情報屋の一人:フェイス・ノータイムよ。体力は弱いけど、代わりに超が付くほどの記憶力と情報収集能力に長けているの」
「情報収集ってまさかリビルのあの写真を撮影した情報屋って……?」
「そうよ、正体は彼女、全ては彼女のお陰であり、この国の大半はこの娘の範疇にある」
「ピース」
レイからの紹介にフェイスと呼ばれる少女は無表情でピースサインを俺に向けた。
こんな娘が情報収集を……人は見かけによらないとはこの事か。
「本来『アバランチ』以外の人間がこの場所にいるのは不愉快極まりないですがレイの名の下に特別に許容しましょう。私はフェイス・ノータイム。以後よろしくお願いします。M少年」
「あっ俺は「知ってますよ。貴方の詳細は全て調べ済みです」」
俺が細かな自己紹介をしようとするとフェイスは遮るように言葉を被せてきた。
調査本のような物を本棚から一冊取り出すと機械のように彼女は語り始める。
「マックス・アナリズム。年は十六歳で白髪が特徴。厨二病の闇魔法の使い手で半年前から頭角を現し次世代ルーキーと持て囃されていたが『アルコバレーノ』の罠により失墜。現在は『アバランチ』に協力。未だに童貞であり好きな性癖プレイはアナ「ちょ!?」」
「分かった! 分かったから性癖を暴露するのは止めてくれッ!?」
「そうですか? 貴方の一週間の平均的な自慰行為の回数も言うつもりだったのですが」
「絶対に言うんじゃねぇよッ!? プライバシーってものを考えろ!」
「まぁ仕方ありません。自尊心というモノを尊重致しましょう」
残念そうに眉を少し動かすと、丸裸になるほどに調べられた俺の調査本を閉じる。
何なんだよこの娘は……自由過ぎんだろ。
「まっ不思議ちゃんってことで許してあげて? 『アバランチ』はこういう感じの人達ばっかだから」
「それは構わないが……何でここに来たんだ? この娘を紹介する為なのか?」
「お見合いなどの遊びは後でしなさい。今は情報を貰うためよ」
レイは手招きでフェイスの向かいの席へと俺を誘う。
その誘導に従い大人しく着席すると二人の美少女はシリアスな顔を浮かべた。
「で、今度は何の情報をお求めで?」
「レッド・アシアンの計画者、それに関わる人間、組織全て。『アルコバレーノ』に提案を持ちかけた人物も……ね」
「またまたこれは、注文の多いこと」
レイからの要望の多さに呆れつつもフェイスは本棚から何冊かの本を取り出す。
テーブルの上に並べると、何かを選別するようにページを捲っていく。
すると力強い目をこちらへと向け、その気迫に俺の心臓も早くなっていく。
「レッド・アシアンの開発者……『アルコバレーノ』を巻き込んだ人物……それは」
「それは?」
今か今かと、フェイスの言葉を待ち、思いっきり息を呑む……。
「まだ分かりません」
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