第24話 ダンサー・イン・ザ・ダーク

「リビル様ここは私がッ! こんな野蛮人が……エリートであり高貴な私達を蹂躙することなどあり得ないことです! あり得てはいけないことォォォォ!」


 こんな状況でも未だにプライドが働き、蔑む口調で罵倒するサフィ。

 彼女の得意分野である水属性の魔法陣を生み出し詠唱を始める。


「深海を支配する水龍よ、私に力を! アクア・ウェーブ・ドラゴンッ!」


 巨大な魔法陣から放たれた無数の水龍は辺りを飛翔し、強靱な牙を光らせ一斉に襲いかかる。


 悪に鉄槌を下すと言わんばかりの威厳と正義が混じったような魔法。

 ……実に不愉快だ。


「我が深淵なる闇の力に抱かれ眠るがいい、ダーク・ドライヴ・メゾルディッダ」


 厨二病混じりの詠唱で魔法陣を生成すると闇の光線が一気に射出される。

 ドリルのように尖った無数の光線は水龍達へと直撃し穴という穴を空けていく。


 やがては勢いがなくなり、俺の身体に噛みつく前に水龍は崩れ去った。


「なっ上級の水魔法が!?」


「貴様の手品はもう終わりか?」


「くっ……! 聖なる水よ、悪しき者を撃つ力を与えた給え、アクア・ドライヴ!」


 今度は水で作られた波動砲を放つもそんな威力の魔法、全く持って意味を成さない。

 

「無駄な所業だ、ダーク・ドライヴ」


 軽く初級魔法を放ち彼女の魔法を相殺。

 その勢いのまま、放った闇の光線はサフィの肩を射抜く……!


「ぐぅっ!?」


 芸術のように血は飛び出し、白を基調とした僧侶服を赤く染め上げていく。

 

 ステップ2、躊躇わず迅速に。レイから教えられた言葉通りに俺は膝をつく彼女に向けてトドメの魔法陣を即座に生成する。


「審判の刻だ。力を解き放ち、罪深き魂に裁きを下さん、アビス・エッジ!」


 手のひらを握る動作と共に一本の禍々しい槍が形成されていく。

 一切の迷いを捨て、サフィの頭部に目掛けて槍を投擲する……!


「がっ」


 黒い閃光は一直線に進み、サフィの前額部を貫いた。  

 断末魔を上げることなく、穴が空いた部分から潮吹きのように血を上げゆっくりと倒れゆく。


「サフィ!? おいサフィしっかりしろ! 目を覚ませよ何勝手に倒れてんだよッ!? このクソ女がッ!」


「無駄だ、その女人はもう醜いただの肉の塊である」


「ッ! 嘘……だろ」


 遂に一人となりサフィを失ったリビルは殺意と恐怖が絡み合った形相を浮かべる。

 こいつは……楽には死なせない。


 一度厨二病を解除すると俺は自らの言葉でリビルへ激情をぶつけた。


「クズっていうのは……何処まで進んだとしてもクズに変わりはないってことがようやくわかったよリビル。お前に慈悲はない」 


「クソ……クソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソォォォォォォォォォォォォ!!」


 狂乱的な叫び声を鳴り響かせ、リビルは大剣を持ち直し接近する。


「スマッシュ・ブラストッ!!」


 大剣に炎を纏わせ業火の斬撃を我武者羅に放ち続ける。

 その攻撃に戦術なんてものはなく、Aランクとは思えない子供のようなやり方だった。

 

「俺様は選ばれた人間だァァ!! テメーみたいなゴミカス野郎に負けてたまるかァァァァァァ!!!」


 ……何処までもクズはクズなんだな。

 でもその方が非常にやりやすい。


 厨二病を発動すると迫りくる斬撃に向けて闇の魔法陣から剣を出現させる。  

 先端から黒い液が零れ落ちるグロテスクな剣先を構え、深呼吸を行う。

 

「シャドウ・ハイ・ブレード・シニスター」


 シャドウ・ハイ・ブレードの上位互換にあたる闇の上級魔法。


 詠唱と共に、身体を拗らせ薙ぎ払うように剣を横一文字に振るう。

 漆黒の闇が混ざりあった衝撃波が業火を消滅させ反撃の一閃を繰り出した。


「なッ!?」


 リビルの猛攻を瞬時に相殺させ、逆に彼の大剣に大きなヒビを入れる。

 やがてはガラスのようにガキンという音を鳴らし木っ端微塵に砕けた。


「貴様に逃げ場は存在しない。神にも見捨てられた己自身が犯した罪を後悔するがいい」


「ヒッ!?」


 俺の言葉にリビルの顔には驚愕と苦痛が入り混じった表情が浮かぶ。

 戦意の喪失からか破損した大剣をスルリと落とすと、尻もちをつき後ずさっていく。

 

「止、止めてくれ俺が悪かった……でも違うんだ! これは頼まれたから行ったことで!」


「何?」


「名前は言えねぇけど……お前と『アバランチ』を潰す計画と聞かされて……だから俺は言われた通りにしただけなんだよ! 俺が主犯じゃない!」


 リビルの言葉に俺は足を止め、少しばかり眉をひそめる。

 

 詳細は不明だが彼らは自分達が主導でこの事件を起こしたのではなく、また違う第三者に頼まれ引き起こしたとリビルは言う。


 死を恐れた表情的にその場の嘘ではなく言っていることは事実なのだろう。

 だが……それとこれとは別だ。


「そうか、だから何だというんだ?」


「えっ……?」


「例え真実かどうであろうと、貴様が起こした罪は決して消えることはない。その罪、我が手で厳粛に裁いてやろう」


「ッ!?」


 主導でないにしろ、こいつが俺を潰しにかかり高笑いをしていたのは真実。

 もはや呆れる話、救いはない。


「ま、待てマックス!? 分かったお前の仲間になる下僕みたいに扱ってくれて構わない! それとも金か!? それなら今あるポケットマネーを全部お前に「リビル」」


 必死に命乞いをする彼に向けて、俺は笑顔で一言だけ放つ。


「懺悔は地獄でするがいい」


 その瞬間、魔法陣から漆黒の巨大な球体が出現し彼の身体をドームのように覆う。

 俺が手を上げるとシンクロするように球体もリビルを巻き込み空中へと上昇していく。


「何だコレ!? や、止めろ……止めろォォォォォォォォォォォッ!!」


 殺人のステップ3、殺しに慣れたらユニークさを入れてみろ。

 こいつはどんな面白い殺し方をしても心は傷まない。


 学習通り、ユニークさを入れよう、目の前にいる相手に人権は与えない。


「アビスの闇よ、救い難い愚かな子羊に最悪なる終焉を与え給え、マッド・リブレス・ホライゾンッ!」


「やめっ__」


 手を握りしめると、呼応し闇の球体も一気に収縮し圧縮されていく。

 やがてはリビルの身体を全方位から押し潰し始め、骨の砕ける音が鳴り響いた。

 

「グギゴェェェェェェァァァァァァ!!」


 耳障りな叫び声を上げながら、全身の血液が溢れ出し辺り一面を赤く染め上げる。

 最期は激しく爆散しサフィの遺体に鮮血の雨を降らせた。


「……あの世でも苦しめ、ゴミ野郎が」


 無惨な姿となったリビルに唾を吐き捨て俺はこいつを「殺した」ことを自覚する。


「グット、見事な殺人ね!」


 全てを終えた俺に対してレイの声が脳内で響き渡る。

 俺の殺し方に満足していたのか彼女は笑顔と拍手で出迎えてくれた。


「人権の欠片もない殺し方、私怨の籠りを感じられてとても心が踊ったわ。君はどうやら道を外れた方が生き生きとしてるわね」


「……そうかよ」


「どう? 殺人童貞を卒業した気分は」


「不快感は全くない、寧ろ少しだけ清々しい、これが殺人なのかレイ?」


「そう、それが殺人よ。0から1に踏み込んだ君はもう立派な人殺し。やはり君はレクチャーのしがいがあったわ」


 凄惨な遺体となったリビルとサフィを見つめレイは得意気な表情を全面に出す。

 その顔は、妖艶の中に無邪気さがありとても愛々しい。


 駄目だと分かっているのに彼女へ愛らしさのような物を俺は感じてしまったんだ。


「……これからお前達『アバランチ』はどうするつもりなんだ?」


「言ったでしょう? レッド・アシアンを根絶するって。それが『アバランチ』の意志、リビルの発言的にまだ真相は深そうだし全て終わらせる為に私達は動く」


「それに俺も協力しろ、って話だろ? 復讐を手伝ってもらった代わりに」


「そうだッ!」


 俺の発言にオーバーな動きでレイは自分へと指をさし不敵な笑みを向ける。


「君を嵌めた人物はリビルやジビラだけではない第三者の黒幕がいる。闇はまだ終わっていないの。復讐ならそこまで殺すべきだとは思わない?」


「……そうだな」


 レイの言葉に首肯する。

  

 俺自身もリビルの「誰かに頼まれた」という発言には深く引っ掛かった。

 リビルのクソみたいな私怨だけかと思ったが真意はそこまで浅くないらしい。


 このままじゃレッド・アシアン関係で俺のような被害者がまた生まれるかもしれない。

 無害の人が最悪な目に合うのを


 どうせ元の生活には戻れない。

 人だって殺した。


 なら彼女と協力して全てを根絶する。

 俺を陥れようとした者は全員潰す。


 このまま野放しになんてさせないッ!


「やらせてくれ、俺にも『アバランチ』の理念ってやつをな」


「フフッ……ずいぶんと前向きのようね。その方がこちらもやりやすい」


 俺の意志を感じ取ったのか、レイは満足げな形相を見せ、握手を促すように右手を差し出した。


「決まりね、よろしく頼むわ、闇魔法使いの天才くん」


「……こちらこそだ」


 普通、見栄、もう手に入らない代物を殴り捨て去り、俺は彼女と力強い握手を交わす。

 今は悪を潰すために、別の悪と協力するしか手段はない。

 

 後悔はしない。

 この選択が正しいと信じて進むだけだ。


「さて、それならこれからの話も兼ねて早速戻りますか」


「戻るって何処にだ?」


「決まってるでしょ? 私達のホー厶へよ」













「プッ……アッハハハハッ! どうやらその覚悟は本当のようね」


 レイは堪えきれないといった様子で笑い始める。

 そしてひょいと俺の肩に乗ると耳元に顔を近づけ囁いた。


「気に入ったわ、ようこそ『アバランチ』へ、マックス君」


 もう後戻りは出来ない。

 昨日までの幸せを掴むことは出来ない。

 だが、それしか道はない。


 俺は『アバランチ』の犬になることを決意した。


「さて、それなら早速戻りますか」


「戻るって何処にだ?」


「決まってるでしょ? 私達のホー厶へよ」


 

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