第21話 アウトロー・ロード
「……はい?」
「だから君の強さを見込んで『アバランチ』に協力しろと言っているの」
「はぁぁぁっ!?」
何を言っているのか理解できない。
協力しろ? アウトローのテロリスト集団の仲間になれと?
俺も犯罪者になれとでもいうのか、そんなの断固として御免だッ!
「ふざけんな! 誰が犯罪者なんかと手を組むかよ……助けてくれた事は感謝するが」
「そう拒絶しないで。何も仲間になれとは言ってない、一時的に協力関係を敷かないかと提案しているの」
「黙れッ! 俺は……理想の異世界ライフがあんだよ。そんな道に逸れた生き方なんてしたくねぇんだよ!」
「はぁ……まっその反応は当然かしら。でも落ち着いて少しだけ話を聞いてほしい」
激昂した俺にも物怖じせず軽くあやすとレイは一枚の紙を懐から取り差し出す。
そこには今日の日付が記された号外の新聞紙の一面であった。
「これは……」
「ここよ、見てみなさい」
言われるがままに新聞に目を向けると『冒険者マックスまさかの薬物使用! 衝撃走る』と大きく見出しが書かれていた。
レッド・アシアンの使用、所持、売買。
密売組織との密接関係。
『アバランチ』との繋がり。
真実とは違う誇張された内容が……好き放題に俺の顔写真付きで記載されている。
眼球を抉るほどの衝撃的なモノに俺は思わず記事に食い入ってしまった。
「なっ……なっ……何だよコレ」
「数時間前にリエレル国内の報道会社で出された号外よ。今じゃ君は「薬物に堕ちてしまった英雄」って扱いの大罪人よ」
「そんな……こんなの嘘に決まって!」
「別に嘘だと思ってここから逃げても構わないよ? 全員から冷ややかな目で見られ罵倒される覚悟があるならね」
彼女の少しドスの効いた声は冗談を言っているようには聞こえなかった。
新聞を偽造しているようにも見えない。
「それにほら、よく耳をすませて?」
レイの助言に俺は恐る恐る、心臓の高鳴りを抑え耳に神経を集中させる。
すると聞こえてきたのは嫌悪感が混じったような老若男女の会話だった。
「いや……衝撃的だな、まさかあの若造が薬物とはね」
「まぁおかしいとも思ってたさ。あんなに若いのにあそこまで力があるのは何か裏があると思ったよ」
「最低……レッド・アシアンを使ってただなんて私ちょっとアプローチしようと思ってたのに……」
「しかも売買にも関わっていて裏組織とも繋がりがあるって話よ。よくそんなことしておいて有名人を気取ってたわね。気持ち悪い」
「『アバランチ』とも繋がってるとか……本当に危険な奴だ。ゾッとするよ」
「ルーキーの成り上がり伝説は結局のところ薬物に依存した二流の話だったみたいだな」
「もう二度とこの場所に現れないで欲しいものだぜ……あんな人がウチの店の常連だとか肉の品質が落ちる」
街行く人々の会話に耳を傾ける度に胸が締め付けられるような感覚に陥る。
昨日までの明るかった声援は見る影もなく罵声へと豹変していた。
「これが現実、君が今まで築き上げてきた名声は脆く崩れ去った。これからは凶悪な犯罪者の仲間入り」
「ッ……!」
レイの一言に心臓を握り潰されそうになるほどの幻痛に襲われる。
呼吸すらまともに出来ず、身体は震えて動かなかった。
「世論って冷たいわね。たった紙一枚だけで君への評価をガラリと簡単に変えてしまう。善良なイメージのある有名人の君はよりその反動が大きい。皆が君に失望している」
「そんな……俺は……俺の人生は……!」
泡のように呆気なく弾けた軌跡。
膝から崩れ落ちるしかなかった。
もう挽回も出来ない、治安維持部隊は俺を何が何でも有罪にする。蘭塔から逃げ出したことで脱走犯のレッテルも貼られた。
積み重ねてきた事がこんなにも一瞬で消えてしまうと思うと全てが嫌になってきた。
自暴自棄になっても何も変わらないのは分かってる、だがそれ以外に何が出来るんだ。
嵌められた俺を見下ろしながらレイは変わらないテンションで再び口を開く。
「私達としても勝手に名を使われるのは許容できない物でね、このまま笑って見過ごすことは出来ない。だからこそ協力するのは利害が一致していると思うの」
「利害……?」
「私達『アバランチ』は『アルコバレーノ』に報復、そしてレッド・アシアンの根絶が目的。一方で君は復讐を行いたい、利害は一致しているわ」
まるで悪魔のように耳元で囁かれる甘い口調に心が揺れ動く。
確かに俺は復讐をするつもりだ。仲間がいる方がやりやすくなるし心強い。
だが……こいつの仲間になったらどうなってしまう?
俺も犯罪者になるのか? アウトローの仲間になるのか?
そんなの理想的な異世界ライフとは程遠いものだ。完全に道を逸れることになる。
しかし今の四面楚歌な自分に手を差し伸べてくれるのは彼女しかいないのも事実。
「私が君の復讐をサポートしましょう。その代わり私達にもレッド・アシアン根絶に協力してほしい。このままやられたままじゃ……やるせないでしょう?」
葛藤していく心を揺さぶるようにレイが提示する選択肢が俺に決断を迫ってくる。
「私は使える駒は使う主義なの。君の強さを見込んで救出し、協力を申し出ている。君が逆襲を望むのであれば私の手を取りなさい」
レイは俺に手を差し伸べる。
その手を掴めば俺は確実に破滅の道を歩むことになるだろう。
もう昨日までの異世界生活は二度と戻ってこないとを本能が訴えている。
「堕ちてみましょう、共に。その怒りを私が晴らしてあげる」
「ッ!」
彼女の瞳は妖しく光り輝いていた。
まるで悪魔の誘いに乗れば天国へ行けるかのように。
駄目だ……この話に乗っちゃ駄目だ、この選択をしてはいけないと分かっている。
どんな絶望だろうとまともな人間ではあるべきなんだ、そう教わってきた。
……だが、それでいいのか?
俺がこうしてる間にもリビルのクソ野郎はのうのうと生きてやがる。
また苦汁を飲むだけの人生を歩むのか?
それが嫌だったからこの異世界に来たんじゃねぇのか?
「……分かった」
何かがプツンと切れる音がする。
正しいとか、これからどうなるかを考えるのは後回しだ。
今はあいつを潰したい、それだけだッ!
俺は差し出された手にゆっくりと力強く自分の掌を重ねた。
「お前に……協力するッ!」
「フッ、期待していた答えね」
重ねた俺の手をレイは握り返す。
上から見下ろす彼女の瞳は安堵と危険が混ざりあった不思議なものだった。
「なら改めて自己紹介しようか。爽羅・K・レイ・ウェザーリポートよ」
「……マックス・アナリズムだ」
どうせこのままでも濡れ衣着せられて一生追われの身になっちまうんだ。
なら、そんな末路を辿るくらいなら、せめてあいつを殺したい。
「リビルを……殺させろ、俺に」
揺るぎない復讐心を固め、俺はレイに決意をの目を向けた。
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