第10話 積み重なる経験
その後も俺は……帰るまでにこれでもかと厨二病をイジられ村へと帰還した。
痴話騒ぎのような男達の大きい声に恐る恐る村人も住居から姿を現してくる。
「ッ! マックスさん!」
その中で俺を見つけるとリファさんは緊迫した表情と共に足早で駆け付けてくる。
「スタンピードは……?」
「ご安心を。俺達が全て倒しました」
「ほ、本当ですか!?」
「えぇ、一匹残らず残滅に成功しました。もう怯える生活はしなくていいですよ」
信じられないという表情を浮かべるが、俺と男達の希望に溢れる顔にリファさん含む村人達も勝利を確信した。
「救われ……た?」
「そうだよ……私達は救われたんだ!」
「「「やったァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」」」
喜びを分かち合うように抱き合いながら涙を流す人々。
その光景を眺めていると俺は改めて異世界に来たことを痛感する。
「マックスさんありがとうございます! 貴方が来てくれて本当に良かった!」
笑顔と涙でグチャグチャになった顔を浮かべ、リファさんは感謝を述べた。
ここまで純粋で邪心のない笑みは久々に見たな。
「おぉ英雄殿!」
リファさんのお爺……じゃなくて父であり村長であるベルスさんは杖を付きながら大粒の涙を流して俺の手を握る。
「本当に……よくやってくれた……! 貴方はこの村の救世主です!」
「いや、そんな救世主だなんて」
「よしっこの功績を讃えて英雄殿に早速銅像を作ろう!」
はっ?
えっど、銅像?
「それは良い考えですね!」
「賛成だぜ!」
「異議なしです」
「よしっやろう!」
「「うおおおおおっ!」」
「おいバカ止めろォォォォォォォォォ!?」
こうして俺は……晴れて【スキルラ村の英雄】として祀られることになってしまった。
銅像化はどうにか懇願して避けれたが……俺の黒歴史がまた一つ増えた。
あんな厨二病なだけの恥ずかしい姿を銅像になんかされたくねぇよッ!
もう視姦! 新手の視姦だ!
「あっそうだマックスさん、これ今回のクエストの報酬です」
そんな一刻も早く逃げたい中、リファさんが背後から声を掛け報酬を俺に差し渡した。
「金貨一枚?」
差し出されたのは……銀貨でも銅貨でもなく更に希少価値の高い金貨であった。
「報酬は銀貨二枚と銅貨十枚では? これは貰いすぎに……なってしまうというか」
「貴方はこのスキルラ村、そして私達の命を救ってくれたのです。その功績に報いるのに銀貨や銅貨は不敬に当たります」
「いやでも」
「どうか受け取ってください! 受け取ってくれなければ私達の心も収まりません!」
「わ、分かりました。じゃあご厚意ってことで有り難く」
ここまで懇願されたら断ってしまう方が失礼だよな。
リファさんの圧に折れ、俺は報酬である金貨を受け取った。
「マックスさん……この度は本当にありがとうございます。この恩は一生忘れません」
「そんな気にしなくてといいですよ。俺は依頼されたことを完遂しただけです。それ以上でもそれ以下でもない」
「フフッ……ちょっと意外ですね。謙遜する冒険者ってあまり聞かないので」
俺の態度に笑みが溢れたのか口元に手を当てながらクスっと笑うリファさん。
無意識に謙遜しちまうのは日本人であるが故の弊害でもあり、良いところかもな。
まぁいい、万々歳の終わり方だ。
「じゃリファさん、俺はここで。また機会があったらお会いしましょう」
「えっもう行かれるのですか? これから村人皆で宴を行うつもりなのですが……マックスさんも是非」
「あぁいや……俺はいいです。ギルドに報告もしなくてはならないので。それじゃ!」
「あっちょ!」
止めようとするリファさんを半ば強引に振り切り俺はスキルラ村を後にした。
宴に興味はあるがこれ以上あの場にいたらきっと酔っ払った者達に厨二病を弄られる。
あぁ無理無理無理無理、そんな羞恥プレイをするつもりは毛頭ない。
それに……流石に休みたいし、リエレル王国の文化を知っておきたい。
特有の文化を味わってこそ、異世界の醍醐味ってやつだ!
しかしこの疲れた身体で長距離歩いて帰るのはダルいな……あっそうだ。
「闇の力よ、我を異空間へ誘い邪を淘汰した聖なる
上級の闇魔法の一つでありその名の通り自身を異空間を使い瞬時に移動する転移能力。
ブラックホールのようなリングが出現すると瞬く間に俺を包み始め、数秒もかからず俺はリエレル王国の手前までワープした。
「っと……本当に便利だな闇魔法」
人がいない場所でならこのワープ魔法はかなり使えるかもしれないな。
時間短縮するのにこれ以上の方法はない。
日が沈み始める中、俺は再びリエレル王国へと足を運んだ。
街灯が光る綺羅びやかで紅灯緑酒な歓楽街は夜になって更に活気が増えている。
「とりあえず食事と入浴、それと宿だな」
まずは腹ごしらえをして風呂に入りたい。
さっきの戦闘で汗まみれだし……特に臭いとかはしないが気分的にサッパリしたい。
「すみませーん、オススメの店はありますか?」
「はいよ! ウチの店の料理を食べていきなさい!」
近くにいた豪快な女性に声を掛けると、彼女は快活に返事をしながらおすすめの飲食店を紹介してくれた。
どうやら彼女が店員として働いている肉屋専門の店らしい。丁度いい、疲れた身体には肉が定番だ。
「うわっ美味そっ……!」
店内に入るや否や、香ばしい匂いが鼻腔を刺激し、オススメを注文するとまるで漫画肉のような牛の肉がドンッと出される。
食欲がこれでもかと掻き立たれ思い切りかぶりつくと肉汁が噴水のように溢れた。
肉の味が舌を唸らせ、空っぽだった腹を満たしていく。
今死んでもいいくらい美味い……安上がりな牛丼とは段違いなくらい肉の深みがある。
最高だ、これこそ異世界! 腹八分目に到達すると料金を払い肉屋から離れた。
「次は宿屋か!」
腹を満たしたら急に眠くなってきた。
これは早く宿見つけないと疲労でぶっ倒れ野宿になっちまう。
「あっちも宿屋、こっちも宿屋……あぁぁもうここにするか!」
宿と言っても恒河沙数なほどに存在し右も左も全て宿屋なエリアもある。
一軒一軒回ってたら朝になってしまう数に俺は直感で目に入った宿を選択。
千鳥足のような歩き方で扉を開けるとカランコロンと鈴が鳴る音が鳴り響いた。
「いらっしゃいませ!」
明るい声と共に出迎えたのは栗色の髪をした少女。
俺より年は下だろう、まだ幼さが抜けきっていない顔が年齢を物語っている。
「男一人、一泊したいのですが」
「了解しました! 料金は銅貨ニ枚です! しかしお客さん見る目ありますね〜ここは入浴付きの宿なんですよ」
「えっマジ!?」
っしゃ、ラッキー!
風呂に入りたいと思っていだがまさか入浴付きだとは思わなかった。
この好機を逃すまいと即座に俺は料金を支払い一番の窓際の部屋を陣取る。
早速俺は服を脱ぎ捨ててタオル一枚になると浴室へと入った。
「うおぉっ広っ!」
そこには一般家庭の浴槽の十倍はある巨大な湯船があった。
これが噂に聞くジャグジーってやつか? 泡が出てるし……凄いな異世界。
「あぁぁぁ……気持ちいい……」
肩まで浸かり身体の芯まで温まると俺は思わずため息が漏れた。
こんなに広い風呂なんて久々だからなぁ……仕事の疲れが吹っ飛ぶぜ。
一通りの疲れを洗い流すと俺はベットへとダイブし月明かりが照らす空を見つめた。
「これからどうすっかなぁ」
スキルラ村での一件をギルドに報告し報酬を貰ったものの、これからの方針が全く決まっていない。
冒険者としてここに居座るか、それともこの旅に出てこの世界を回るか。
可能性は無限にある。
「まっなるようになれか!」
だが俺は吹っ切れた。
そもそも別に明確な計画プランを持って動く必要性はない。
ここは会社ではなく異世界、俺の好きな選択で好きなように生きれる。
ソウルではあるがこのマックスに憑依していればバレることもない。
だからわざわざ律儀に考えておく意味もないのだ。
「さて、明日からも新しい異世界ライフ満喫するぞッ!」
希望に満ち溢れた未来に胸を高鳴らせ俺は目を瞑った。
そう、明日も今日と同じようにクエストを受けて金を貰って生活満喫しているはず。
満喫……していたはずなんだ……。
「あれ? うわっ残飯君じゃ〜ん! 何で生きてんだ?」
「よくまだここに顔を出せたな! あれほどボコボコにしたってのに!」
「気持ち悪っ、ウケるわ!」
翌日……えぇ現在、ギルド紹介所で複数の若者に何故か悪質に絡まれてます。
どうして……どうしてこうなったァァァァァァァァァ!?
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