第7話 ミリオンダラー・ベイビー

「なっ……えっ!?」


 唖然とした様子でギガ・レビュアズの頭部を見つめるハロさん。

 俺が頭を出した途端、周りにいた冒険者達は騒ぎ出す。


「お、おい、あれってまさか!?」


「マジかよ!?」


「ギガ・レビュアズの頭部!?」


 ざわめきが止まらない中、ハロさんはようやく冷静になったのか、恐る恐る頭を持ち上げる。

 鑑定するようにまじまじと細部まで見つめると驚きと納得が絡み合った顔を浮かべた。


「信じられませんが……これは確かに本物のギガ・レビュアズの頭部ですね」


「「「はぁぁぁぁぁぁ!?」」」


 その言葉に更に室内は騒がしくなり、俺への視線が増えていく。

 反応を見るに普通の冒険者なら勝てっこないような相手だったのか。


「マックスさん一体どうやってこれを? どうやって貴方が!?」


「あぁ……いやその運が俺に味方をしてくれたというか……ね?」


「運だけで切り抜けれるほどのクエストではないのですが……」


 ヤッバ、悪手選んじまった完全に怪しまれてんじゃん。

 こうなりゃやることは単純、ただ勢いでゴリ押しするのみ!


「まぁそれはいいじゃないですか。それより早く換金をお願いします!」


「えっいやでも」


「お願いしますッ! 本物だって判明したんだから別に問題はないでしょう?」

 

 俺の圧に押されてハロさんは「わ、わかりました」と渋々了承してくれる。

 ハロさんは奥へと引っ込んで数分後、戻ってきた時には金貨が入った袋を持っていた。


「こちらが資産家レイル様からの今回のクエストへの報酬となります。どうぞ」


「エッグ……!?」


 海賊漫画でしかみないような光景。

 ダンベルのように重い袋の中には150枚の純金の金貨がビッシリと入れられている。


 確か馬車内でキウイさんに貨幣制度について質問しこう説明された。


 この世界には金貨、銀貨、銅貨、鉄貨、そして貴族専用の顔パスである白金貨の五つがある。

  

 金貨一枚につき、銀貨百枚。

 銀貨一枚につき、銅貨十枚。

 銅貨一枚につき、鉄貨十枚。


 庶民の商売の取り引きの大半は銀貨、銅貨、鉄貨で行われており、金貨での取り引きは貴族でなければ滅多にない。


 庶民の一般年収は貨幣にして金貨十二枚ほど。つまり俺は……簡単に言えばとんでもない金額を手に入れたという訳だ。


 すげぇな冒険者……こんなにも一発て億万長者になれるとか前世の俺からすれば夢のような話だ。


「えっこれ全部貰えるんですか?」


「一部、公的サービスの税金で国に取られますが……大半は貴方のポケットに入ります。使い道は酒でも女でもご自由に」


 酒や女に使うつもりはないが……これだけあれば当面、宿代や食事には困らないな。

 まっ何かあった時ように貯金するか。浪費するのは癖がつきそうで怖い。


 人目を気にしながら俺は成金の証である金貨達を自前の袋にしまう。

 さて大金が手に入ったがどうするか……この金に甘えて自堕落生活でもしようか?


 いや、それは絶対に違う。ニート生活する為に異世界に来たわけじゃない。

 とすると……やっぱりクエストだよな?

というか冒険者なら休まずに働かねぇと。


「ハロさん、その他のクエストって何処で受けられますか?」


「はっ? 今なんと?」


「い、いやその今から他のクエストは受けられないかなって。まだ昼ですし」


「こんだけの大仕事達成したのにもう別クエストを受けるのですか!? ストイック過ぎません……? トップランカー達でさえ大仕事の後は酒に溺れて痴話騒ぎしてますよ」


 えっそうなの!?


 大仕事の後は休んでどんちゃん騒ぎか……前世の俺とは無縁の生活だな。

 仕事が終わってもまた仕事をしなきゃっていう思考になっちまったのはブラック企業努め故の弊害か。


 しかし俺はこの世界をもっと知りたい。

 その為にはクエストを受け、もっとアグレッシブに動かなくてはならない。


 クエスト自体も楽しいしな、今のところ。


「それでもクエストをやらしてください。別にクエストの後はどんちゃん騒ぎしなきゃいけないなんて決まりはないでしょう?」


「そ、そうですけども……しかし今はあまり稼げる依頼はありませんよ? 国やギルド運営直々の依頼はなく辺境の村からのものばっかりで」


 ハロさんは立ち上がると掲示板にある無数の紙から何枚かを取り、俺の前へと並べた。


 右から薬草取りに、護衛、弱モンスターの討伐と、確かにギガ・レビュアズに比べたら遥かに見劣りするものだ。


 報酬も銅貨や鉄貨などばっかりであり稼ぐという観点だけなら及第点とは言えない。


「ん?」

  

 そんなクエスト依頼の中のある紙が俺の目に止まり引き離さなかった。


 スタンピード・ブレイク

 依頼主:タッド・リファ(農民)

 場所:スキルス村

 目的:魔獣による行進からの護衛

 報酬:銀貨二枚、銅貨十枚

 適正ランク:B〜C


 紙には『スタンピード・ブレイク』と妙にスタイリッシュな言葉が記されている。

 何だこれ? 洋画のタイトルか?


「スタンピードってなんすか?」


「あぁそれですか、定期的に起こる災害のようなもので。突然強力なモンスターの大群が町や村に押し寄せてくる現象のことですよ」


 へぇ大群が寄ってくるのをスタンピードっていうのか。カッコいい発音使いやがって。

 

「それがこのクエストと?」

 

「はい、噂だと辺境ですが既に幾つかの村では壊滅的な被害を被ったとか……しかし難易度の高さの割に報酬が低いということで受ける冒険者が全くいないんですよ。まっ辺境の村からの依頼なんで……仕方ありませんが」


 確かに報酬は悪い。 

 だけど……だからと言ってそんな理不尽を無視するのは胸糞が悪いな。


「ハロさん、このクエスト受けます」


「えっ本気ですか!? こんな割に合わないような仕事を!?」


「割に合わない仕事には慣れてます。それに壊滅が迫ってる村を見過ごす訳にもいかないでしょう?」

 

 割に合わない仕事は前世でいくらでもしている。こういう理不尽はお手の物!


 ハロさんはまだ何か言いたげだったが、これ以上言っても無駄だと思ったのか渋々承諾してくれた。


「はぁ……わかりました。それじゃあギルドカードを貸してください。に報告しますので」


「ステラさん?」


「何を惚けているんですか? まだ妙齢ながらこの国一番の剣聖でありここのギルドのマスターですよ」


「剣聖……ギルドマスター……」


 ハロさんの説明によると水色のポニーテールが特徴である女性とのこと。

 その美しい容姿と若さと強さから巷では人気を博している人物。


 ギルドマスターか……なんか異世界らしい言葉だな。是非とも一度会ってみたい。


「ではマックスさん、ギルドカードを」


「えっ? あっはい!」

 

 数分後、人の目を気にしながら待っているとハロさんは俺のカードと共に現れる。


「認証は完了しました。報酬の支払い方法は直払いですのでスキルス村で受け取ってください。もし後々に不正が発覚した場合は冒険者資格剥奪となるのでご注意を」

 

 不正したら剥奪ね……そういうとこは結構しっかりしているのか。

 まっ高額報酬のクエストなら嘘ついて受け取りたくもなるわな。


「了解しました。じゃ行ってきます!」


「……マックスさん」


「ん?」


「変なことを聞きますが……本当にマックスさんなんですよね?」


 えっ何、なんか疑われてる?  

 ハロさんが向ける視線は疑念とそれを否定する感情が混じっているようだった。


「あぁいやすみません変なことを。昔のマックスさんはもっとというか」


 ヤッバ、マジかよ。


 ハロさんの話的にマックスは俺が憑依する前は弱気で内気な性格だったらしい。

 しまった、冒険者って言うくらいだから全員血気盛んなモノだと勝手に思っていた。


「ほ、ほら人ってコロッと変わりますし、そちらにとってもアグレッシブな方がやりやすいんじゃないですか?」


「そうですが……まぁクエスト頑張って来てください。くれぐれも無理はしないように。杞憂な言葉かもしれませんが」


 ハロさんの心配を他所に俺は笑顔を向けながら足早にギルドを後にした。

 

 不味いな……キャラ性格を間違えた。

 そりゃ元の弱気なマックスを知っている人からすれば不自然な言動だったな。

 普通の口調でコレだ。魔法使って厨二病が発動したら使ったら完全に怪しまれるッ!

 

 だが何故、弱気な性格なのに無謀にもSランクのクエストなんて受けたんだ?

 しっかり死んでいたし、勝機があったとは到底思えないが……。


 まぁいい、今はクエストに集中だ。

 

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