第5話 イタい副作用との同居生活

 はっ? えっ? 厨二病?

 何それ意味がわかんない何で厨二病になっちまうんだよ!? なんちゅう副作用だ!


 いや戦闘狂になるだとか、サイコパスになるだとかよりかはマシなんだが。

 だが……これはスキリアの言っていた通り恥ずかしくてたまらない!


 最初は普通に闇魔法が使えてたのは適合が終わってなかったとかそんな理由だろう。


「魔法使うとこうなるって……人前で絶対に出来ねぇよ……」


 幸いとして、ここは洞窟内。周りに人間は誰一人としていない。

 だがこれから魔法を使う度にあんな恥ずかしいセリフ吐くと先が思いやられる。

 

 俺が学生とかで厨二病大好きならこの副作用は何も問題なかったはずだ。

 だが俺はもう社会人だ! そういう時期は俺にもあったが既に終わってるし黒歴史!


 恥ずかしいって思っちまうからこの副作用はだいぶ精神的にキツいぞ……。

 外見上は俺ではなくマックスが発している訳だがそれでも羞恥心は凄まじい。


「ダァァァァ! もう仕方ねぇ! これで生きてやらァァァ!」


 こうなりゃ吹っ切れるしかない。


 ソウルの状態だと魔力が抑えられず面倒なことになる。

 キツい副作用付きだがこの厨二病と共存していくしか方法がない。


「さて……まずはこの頭回収しねぇとな」


 俺は頭だけ綺麗に残っているギガ・レビュアズを見つめる。

 何事にも証拠は必要だ。これを持ち帰らないと報酬は貰えないだろう。


 だが直でこの頭を持つのはなんか嫌だ。

 しょうがない、確か闇魔法に袋を作る奴があったからそれ使うか。


「フハハハハハハハハッ! 闇よ、この下劣なる生物をパンドラの箱へと閉じ込めよ! シャドウ・カテドラル!」


 また俺の意志が外れると恥ずかしいセリフをぶちまけながら詠唱を行っていく。  

 禍々しくも洒落た袋が生成され頭部はブラックホールのように吸い込まれ収納されていった。

 

「……これ一回ごとにこうなんのか」


 魔法を終えると主導権は俺に切り替わる。

 こんなこと何度もやりたくねぇよ!

 早く慣れないと俺の精神が持たないかもしれない、いや持たない。


「よし……じゃあ行くか」


 袋を肩に担ぐと辿ってきた道を戻り暗闇に支配されていた洞窟から抜け出す。 

 ずっと暗い場所にいた為、眼孔に入り込んだ太陽光が眩しい。


 ここに転生した時は朝日だった太陽も真上に昇っている。  

 数時間程度はもう経っているのだろう。


 何か地理に関する情報はないのかとマックスのバッグを隅々まで探すと……洞窟とはまた別の地図が見つかった。


「リエレル王国?」


 物持ちが悪く所々破れているが最低限の情報は分かる。

 リエレル王国か……きっとこのマックスがいた国だろう。ここから北に十三キロか。


 ちょっと遠いがまぁ歩けなくない距離。

 

「おっしゃ、長旅じゃい!」


 頬を強く叩き、気合を入れ直す。


 距離は長いがこの先に異世界の人間がいると思うとワクワクが止まらん!

 興奮が冷めやらぬ内に俺は歩を進めた。


「いや〜絶景! 絶景!」

 

 別になにか劇的な光景がある訳ではない。


 周りにあるのは生い茂った草原に健康的な葉を生やしている低木の数々。

 雲ひとつない青々とした空には鳥達が優雅に飛翔している。

 

 だが……素晴らしい!  都会の喧騒をまるで感じさせない景色が好きなんだよ。

 何よりも空気が美味い。自然豊かな場所に来ると気持ちが安らぐ。


 歩いているだけで五感にヒーリング効果がこれでもかと染み込んでくる。

 本当に異世界に来て正解だった。さて気分がいいしスキップでも「キャァァァァッ!」


「ウォ何ッ!?」


 何だよいきなり!?

 穏やかだった心に一気に緊張が走る。


 鼓膜を刺激したのは甲高い悲鳴。声質的に恐らく女性の声。

 しかもかなり近い位置……俺は足を止め辺りを見回す。


「あっちか?」


 俺は左方向に目線を向ける。

 すると草木の奥に影が見え隠れしていた。

 あんな悲鳴を聞いて無視もできず、急いで駆け付けると驚愕の光景が広がっていた。 


 楽園のような場所には相応しくない甲冑を着た兵士の死体の数々。

 赤黒い鮮血で緑の草原を上塗りしている。


「んだよコレ……!?」


 更に奥に目をやると豪華な馬車の近くに二人の女性がいた。


 一人はまだ幼く青い繊細な髪を靡かせている少女。

 金がかかっていそうなドレスを見る限りきっと何処かのお姫様だろう。


 もう一人は赤いポニーテールで二丁の大きな銃を持った女性。雰囲気的に騎士か?

 メイドのような服装の上から軽く動きやすさを重視したような防具を装着している。


「お嬢様下がって! ここは私が!」


「駄目キウイ! 貴方が死んじゃう!!」


 死が迫っているような緊迫した表情。

 彼女達の反対側には……人間の大きさを遥かに超えた二足歩行のモンスターがいた。


「ブォォ……イイメスダ。ショクリョウニスルニハサイコウダ」


 あれはオークか? それとも鬼?

 デスボイスのように低い声で片言な言葉を発している。

 緑色の図体を動かし、醜悪な笑みを浮かべよだれを垂らし、二人を見下ろしていた。

 

「この化け物がッ!」


 威勢よくキウイと呼ばれる騎士は銃をぶっ放し弾丸の雨をモンスターに浴びせる。


「ムダナコトヲ」


 だが無慈悲にも弾丸は巨体の腕で弾かれ、代わりに拳が襲いかかる。


「ぐぶぁ!?」


 ドゴォ! という凄まじい音が鳴り、木にめり込むほどに殴り飛ばされる。


「キウイッ!」


「お嬢……様」


「ムダダトイッタハズダ。アンシンシロ。セメテイッシュンデコロシテヤルヨ」


 モンスターは勝ち誇った笑みと共に絶望の顔を浮かべる二人へと近づいていく。


 多分、あのままじゃ殺される。

 打開するには俺が助けるしかない。


 しかし……人前であんな厨二病の恥ずかしい言動をするのは……。

 

「エェイ! 人の命に比べりゃ少しの恥なんて安いもんだッ!」


 躊躇している暇はない。

 俺は勢いよく走り出し、厨二病になることを代償に魔法を唱える。


「闇よ、絶望なるデスティニーを打ち破り栄光を顕現せよ! ダーク・ドライヴ!」

 

 深紫の光線が精確に発射され、モンスターの横っ腹を鮮やかに貫く。


「グボァッ!?」


「「えっ……?」」

 

 モンスターは焼けるような激痛により膝から崩れ落ち、彼女達は困惑の声を上げた。

 鮮血吹き出る穴の空いた腹部を抑えながらモンスターは純粋な殺意の目をかっぴらく。

 

「ダレダ……キサマハァ!」 


「無垢なる女人を傷つける俗物の貴様に名乗る必要など、この我にはないッ! 貴様には神に懺悔をする値打ちすら存在せん」


 ……やっちまった。人前で厨二病をぶち撒けてしまった。もう後戻りはできない。

 もうこうなればヤケクソだ! もう何とでもなれ! 好きにあのモンスターを倒せッ!


「ゾクブツダド……ニンゲンゴトキガエラソウナクチヲオォォォォォ!」


 怒り狂った怪物は腕をブン回し、木々を薙ぎ倒し突進を始める。


「雑魚が吠えるな。我が漆黒の一撃によって天誅を下そうではないか。とくとその眼に焼き付けるが良い! ダーク・ドライヴ・パーミラス!」


 左腕から放たれた光線は先程よりも大きく、鋭い形をしながら突撃。

 槍を投擲したように心臓部分を貫通し、背後の木々を何本も薙ぎ倒した。


「コン……ナ……!」


 最期の言葉を話すこともなく力尽き、モンスターは草原へと倒れ二度と起き上がることはなかった。

 

「……あぁ疲れた」


 どっと疲れが押し寄せる。

 戦闘というより厨二病を晒した精神的疲労が大きい。黒歴史また増えちまった……。


「お嬢様!」


 そう恥ずかしさに悶ているとキウイと呼ばれていた女性はあの青髪のお姫様が隠れていた馬車へと近付く。 


「お嬢様! お怪我はごさいませんか!?」


「う、うん私はなんとも……キウイは?」


「ご安心を。少し強く打ち付けましたが特に怪我などはごさいません」


「良かった……本当に」

 

 安堵の息を吐き、少女は胸を撫で下ろす。

 その光景を見て俺もホッとした。

 よかった無事で。もしプライドが邪魔して何もしなかったら一生後悔する所だった。


「ところで……貴方は誰ですか?」   


 キウイさんが俺に話し掛ける。

 

 二人が俺に向ける視線は助けてくれた感謝と得体のしれない存在が混じった、そのような複雑なものだった。


 まぁそうだよな、いきなりこんなどこの馬の骨かも分からない男が現れたら。


「あぁすみません、俺はケンイ……マックス・アナリズムという者です」


 危ねぇ本名言いかけた……。

 とりあえずどうなるか分からないがとにかく俺は騎士の方にギルドカードを提示した。


 キウイさんはマジマジとカードを見つめると納得したような笑みを浮かべた。


「なるほど冒険者の方でしたか。誠に感謝申し上げます、助けていただいて」


「えっ? いやいや! そんな感謝されるほどのことでもありませんよ!」


 な、なんか直ぐに信頼してくれたぞ。

 ギルドカードめっちゃ使えるじゃん! 

 やっぱ身分証明書の提示ってここでもむっちゃ役に立つんだな。


「あ、あの!」


 突然、馬車内で震えていた青髪のお姫様が恐る恐る俺に近付いてくる。

 護衛である彼女が感謝を述べたため安心したとかだろう。


「あ、ありがとうございます! 助けていただいて……」


 そう言うと少女は可憐なドレスで深々とお辞儀をする。

 こう純粋にお礼をされたのはいつぶりだろうか……ヤバっ、なんか泣けてきた。


 ここ近年はほぼ罵声しか浴びて来なかった俺にとってこれは来るものがある……!


「い、いや大丈夫、人間がするべきことをしたまでですから」


 込み上げてきた涙をどうにか抑え平然を装い二人に笑顔を向ける。

 ところで……この二人は何なのだろうか?


「そういえばお二人は?」


「あぁすみません、私はミネルバ家に仕える侍女、キウイ・ラングレーです。そしてこちらは」


「ミ、ミネルバ家令嬢のロレンス・ミネルバです! 本当にありがとうございます!」


 ロレンス・ミネルバさん、やっぱり令嬢っていうからにはかなりの貴族か。


 んでこっちのキウイさんが侍女、侍女!? 

  

 えっ侍女って所謂お手伝いさんみたいなのじゃないの!? 

 こんな武装してるものなの!? いやでも令嬢の側にいるのだから武装してても別におかしい話ではないか……。


「この恩は返しきれません、他国主催のパーティーからの帰路にてリパルス・キラーに襲われてしまって……兵士達も全員このような有り様で」


 リパルス・キラー? 

 あぁさっき俺が倒したオークみたいなモンスターの名前か。

 しかし令嬢に仕えるような兵士が全滅って結構強いモンスターだったのか?


 まぁ助けれたなら万々歳だ。

 そんな中、キウイさんは何かを考えた素振りを見せると申し訳なさそうに目を向けた。


「すみませんマックス様、その助けてもらった上でこんなことをお願いするのは失礼だと承知の上で……私達を護衛していただけないでしょうか?」


「えっ? 護衛?」


 護衛って……いやだが俺はリエレル王国に行くつもりだし申し訳ないが断るしか。


「ここから十キロ先にという国家がありまして。貴方の力を見込みそこまで護衛をしてくれないかと……もちろん相応の報酬はさせてもらいます」


 前言撤回、話が変わりました。

 これはラッキーだぞ、この二人もリエレル王国に向かおうとしてるのか! 

 丁度いい、この地図だけじゃ不安だったんだ。この好機は逃さない!

 

「分かりました、引き受けましょう!」 


「ほ、本当ですか!? ありがとうございます!」


 快く俺は快諾し、護衛を兼ねて馬車の御者席に乗らせてもらうことになった。

 真隣にはお嬢様であるロレンスさんがいるのは恐縮至極するがまぁ大人しくしてればいい。


 白い太陽が湖を照らし、水面は汚れのないダイヤモンドのように光り輝いている。

 予想外の幸運を勝ち取り、俺達はリエレル王国へと目指すこととなった。

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