第4話 マックスと厨二病

 どうやらこの遺体の名前はマックスと言うらしい。

 年齢が十六ってことはまだ高校生になったばかりくらいか……そんな若いのに死んでしまうなんて。


 冒険者ってそんな壮絶なのか?


 ……ってそういう考察は後だ。まずはマックスという少年の詳細をより探らねば。

 カードを黒いジャンバーのポケットにしまうと更にバックから持ち物を物色する。


「紙?」


 しばらく探しているとノートサイズの埃を被った紙を見つけた。

 まるで宝の地図みたいな雰囲気あるが……どうもそうではねぇな。


「クエストの名前?」


 ギガ・レビュアズの討伐

 依頼主:レイル・ミリダス(資産家)

 場所:アストロス洞窟

 目的:鉱石採掘事業への弊害の除去

 報酬:金貨百枚

 適正ランク:S


 紙にはそうでかでかと記載されている。


 うん……見ただけで分かる、絶対このモンスター強いやつやん!

 「ギガ」とかついてるやつって大体強いんだから! 金貨も依頼主が資産家だからか凄い枚数だし!  


 てか適正ランクAって書かれてるが……確かマックスのランクDだったよな? 

 何でこんな見合わないクエスト受けてんだ……死にたがりか?


 まぁしかしクエストの最中で死亡。このアストロス洞窟って場所にギガ・レビュアズがいるって解釈するのが妥当だよな。


「……やってみるか」


 となるとやるべきことはただ一つ。

 この身体の持ち主の代わりに俺がクエストを成功させギガ・レビュアズを倒す。


 闇魔法により慣れるため、副作用というのを確認するため、理由は色々あるが何より。


「金がねぇと!」


 金が欲しい。お金の大切さは社会人になって嫌というほど実感させられた。


 生きていくために金は必要不可欠。このクエストをクリアすれば金貨が大量に貰えるし丁度いいチャンスだ!


 まさに一石二鳥。


「そうと決まれば早速」


『ギィイイイイイイイイ!!』


「うおぉっ!?」


 意気込んだ瞬間にいきなり背後から何かの声が聞こえた。

 俺は慌てて振り返るとそこには


「イッ!?」


 全長三メートルはあるだろう巨大な紫色のミミズがこちらを睨んでいた。


 いや気持ち悪ッ!? 

 鳴き声も見た目も全てがパーフェクトで生理的に無理! 虫苦手だから尚更!


 えぇ嘘でしょ……モンスターってこんなにも気持ち悪いやついるの?


「戦うのキッツ……」

 

『ギィイッ!』


「あっちょ待って! まだ心の準備がァ!」


 俺の言葉を無視して巨大ミミズは勢いよく突っ込んできた。

 だぁぁもうやるしかねぇ殺す!


 俺は咄嵯に地面を強く蹴り背後へと回り込むと、漆黒の魔法陣を生み出す。

 

「マッド・リブレスッ!」


 直後、禍々しいオーラを纏った黒い霧状のものがミミズに直撃し、その巨体を地面に押し潰し一撃で倒す……!


 今のは闇属性魔法の初級攻撃魔法の一つでたるマッド・リブレス。

 効果は重力を纏った黒い霧で相手を押し潰すというもの。


 初級のため大したものないがソウルのバフがかかってるお陰で絶大な威力となった。

 

「しかし……副作用って何なんだ?」


 強い魔法が使えるのはいいのだが、やはりスキリアの言っていた副作用が気になる。

 今のところ別に何か心身に影響が出ている訳ではない。


 副作用が起きなかったのか?

 それともスキリアの杞憂だったのか?


 ……まぁ起きないに越したことはない。

 これはポジティブに捉えるようにしよう!


 そう楽観視しながら俺はマックスのバッグに入っていたこの洞窟用の地図を頼りに辺りを捜索する。


「ここか……?」

 

 敵を倒しながら足りない脳で何とか地図を解読し俺は洞窟の最深部へと辿り着く。

 何故最深部かって? そりゃボスは最深部にいるのがお約束だろ。


 つまりこのギガ・レビュアズも最深部にいるってことだ!

 ……分かってるよ、安易ってことは承知してるがそれしか思いつかなかったんだよ! 悪いかよクソがッ!


「さて……行くか」


 良くも悪くもこの世界に対してほぼ無知なのが幸いとしてあまり怖さはない。

 きっと危険なモンスターなのだろうがあまり想像出来ない。


 俺は迷わず暗闇が支配する最深部へと進んだその時


 バシュ!


「うわっ!?」


 何かが放たれた音とともに槍のような針が顔スレスレを横切った。 

 自分の背後へと着弾した針は破裂音を轟かせながら壁を木っ端微塵に破壊する。


 何事かと顔を振り向かせるとそこにはサソリのような巨大な異径のモンスターがいた。


「こいつが……ギガ・レビュアズ?」


 体長は数十メートル程、全身が紫の甲殻で覆われており、背中には無数のトゲ。

 そして尻尾の先端には先程の鋭い針があり、明らかにヤバイ雰囲気を放っている。


『ギャァァァァァ!』


 まるで超音波のような鼓膜を刺激する咆哮を響かせ獲物を見つけたように俺を睨む。

 きっとギガ・レビュアズはコイツだ。なら倒せばクエストは成功だよな?


「シャァ! 来いッ!」


 非現実的でゲームでしか見ない状況に俺は武者震いをし、興奮が跳ね上がる。

 もの凄くワクワクしている! その勢いのままに先手必勝で倒そうとしたが……


『ギャアアッ!』


「ッ!」


 ギガ・レビュアズは突如身体を大きく揺らすと、尾の先の針をこちらに向け、針の先が青白く発光し始める。


 直感で分かる、あれ食らった不味い。


 危険を感じた俺は急いでその場から飛び退くと、一瞬遅れてギガ・レビュアズの放った光線が地面に大きな穴を開けた。


「エッグ……」


 毒効果が付随しているのか、光線が直撃した場所はドロドロと溶けていく。

 アレに当たったら間違いなく即死だな。


「ん?」


 ふと視線を上げると目の前にはギガ・レビュアズが既に突進し今度は口から紫色の液体を吐き出してきた。


「ちょ、まっ!?」


 咄嵯に横に転がり間一髪で避けるものの、その後も多彩な攻撃を次々と仕掛けてくる。

 でかい図体に反して非常に素早く、一撃一撃のパワーが即死級。


「こいつ反撃させないつもりかッ!」


 不味いな……このまま必死に避けてるだけじゃいずれは体力が切れる。

 ならば持久戦に持ち込まれる前に倒す!


 付近にあった石を勢いよくギガ・レビュアスの額に目掛けて蹴り上げ怯ませる。

 一瞬生まれた隙に俺は距離を取ると魔法陣を生み出した。


「ぶちのめすッ!」


 そう一途に思い魔法を詠唱しようとした……その時だった。

 

 ドクン__。 


「ッ!?」


 な、何だ心臓の鼓動が早くなってる……?

 それだけじゃない何かが俺の中を疼いているような感覚が脳に伝わる。


 苦しいだとか痛みはない。だが何かが燃えるような感覚が上り詰めていく。


「何だよコレ……は……」


 次第に身体が動かなくなり為す術もなく膝をついてしまう。

 何が何だか分からぬまま、次の瞬間

 

「フッ……ハハッ……フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」


 突如、

 えっ何、何が起きてる? 俺の意思ガン無視でなんか笑い出したぞこの身体!?


『ギァ……?』


 その状況に殺意むき出しだったギガ・レビュアズも困惑したような鳴き声を上げる。 

 いや困惑してぇのはこっちだって! するとこの身体はまた言葉を勝手に喋りだす。


「神にも等しい世界の真理に挑んだ愚かな下等生物よ、我が闇の炎に包まれながら逝くがいいッ!」


 ゆっくりと立ち上がるとギガ・レビュアズに向けて不敵な笑みとともに指をさす。

 何だこの鳥肌立つ古典的な厨二病なセリフは……どうなってんだよ!

 

 まさかこれが副作用? いやこれが一体なんの……ハッ!?

 俺はスキリアの言葉を思い出す。


『そうですね……人間に憑依する際の副作用、それは魔法を使う時に感情が__』

 

 ある可能性が俺の脳内に過る。

 感情……これは俺の考察だが……恐らくは正解している、副作用の正体は

 

 魔法を使う時にになること__。

 

 そして使用している時は俺の意思に反して厨二病が発動し身体が勝手に動く。

 馬鹿馬鹿しく信じられない話だが……そう捉えなければこの状況を説明出来ない。


 ウソだろ……勝手にイタいセリフ吐く奴になって暴走するとか本気なのか!?

 ちょっと時間が欲しいが厨二病が発動したこの身体はまた動き出してしまう。


「闇よ、我が名の元にセイクリッドなる力を与え、哀れな羊をアビスへと迎え入れろ、シャドウ・スパニッシュ!」


 無駄に長くカッコつけた言葉と共に、巨大な魔法陣が地面から出現。

 闇に染まったハサミのような刃物が現れ、ギガ・レビュアズの尻尾を一撃で切り取る。


『ギャァァァァァ!』


 悲鳴のような鳴き声が木霊し、緑の血液が潮吹きのように飛び散った。

 間髪入れず、俺の身体は再び巨大な魔法陣を生み出す。


「今宵の贄はお前だ! さぁ血肉を捧げ我に賛美歌を奏で給えッ! カオス・ディメンション!」


 刹那、魔法陣が眩しい光を放ち、虹色の刃を何個も纏った黒い球体が現れる。

 辺りを粉砕しながらギガ・レビュアズの胴体を無慈悲に破壊した。


『ギャァァァァ!』


 空間に最期の断末魔が響き渡り、悲痛な顔をしたギガ・レビュアズの頭部だけ残った。


「っと!?」


 同時に勝手に動き喋っていた身体に再び俺の意思が戻る。

 魔法を終えた瞬間いきなり俺に権利が戻った為、つい尻もちをついてしまった。

 

「倒した……よな」


 目の前に転がるギガ・レビュアズの頭が戦いが終わったことを示している。

 普通なら勝利の美酒を味わい安堵に包まれたいが……それどころじゃない。


「厨二病になっちまうって……嘘だろォォォォォォォォォ!?」

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