第3話 闇のソウル
「しかし……結構動けるんですねこの姿」
さっき女神も言っていたが俺は概念ではあるこの身体を自由に動かせるらしい。
手足はないが浮遊するように好きに移動できる。最初は違和感があったが段々と慣れてきてしまった。
「で、俺は何をすると? そんな危険な力がいきなり国だの行ったらアカンでしょ」
『そうですね……まっとりあえずは自らの身体のシステムを理解しておきましょう。まずは戦闘』
そう言うと女神はカッコつけた動きで指を鳴らす。
すると平和そのものであった野原にいきなり狼のようなモンスターが現れる。
骨をも噛み砕くような牙を尖らせ、漆黒の毛に見を包み、こちらを睨んでいる。
「なにこの発情狼!?」
『ロンリーウルフ、この世界にいるモンスターの一つですよ。ご安心をそこまで強くないですから』
「いや強いとか強くないとかじゃ……」
きっと強さ的には概念である俺のほうが圧倒的なのだろう。
しかしそれでも殺意マックスの狼を目の前にするのは恐怖でしかない。
まだ小学生だった頃に近所の番犬に足を噛まれたトラウマが蘇る。
『ケンイチさん、こっちを見て』
「ん?」
そう過去に浸っていた時、突如女神は俺にいきなり手をかざすと光とともに何かを流し込んでいく。
「うっ!?」
頭がおかしくなるほどのプログラムのような文脈が思考を巡り始めた。
ダーク・ドライヴだのマッド・リブレスだのよく分からん文章が脳内に流れていく。
数秒もすると女神は手を放し、混乱する俺を見て満足気な笑顔を浮かべた。
「ちょ、何すんだ!?」
『今の時間で闇魔法に分類される魔法詠唱を全てインプットさせました。闇であればお好きにいつでも使用できますよ』
「はっ? えっ今ので?」
『はい、嘘だと思うのならそこの狼クソ野郎を倒してみてはどうですか?』
この身勝手女神め勝手に色々進めやがって……。
ま、まぁとりあえず今ので闇魔法の詠唱が全てインプットされたんだよな?
「ウビァァァ!!」
そうこう考えている最中、ロンリーウルフと呼ばれる狼は奇声を発しながら地を駆け俺へと襲いかかる。
「チッ! あぁもうやるしかねぇか!」
まだよく分かってないがとにかく目の前の障壁を倒すしかない。
俺は脳内にある文章から適当に一つを選び、詠唱を放った。
「ダーク・ドライヴ!」
そう必死に唱えた次の瞬間。
巨大な魔法陣が目の前に出現。
ビォンという音と共に深紫のレーザーがウルフの頭を撃ち抜く。
視認できないほどの音速で放たれた魔法は一瞬にして相手を無力化させた。
「倒し……た?」
あまりにも刹那的な出来事に理解が追いつかない。
そう唖然としている俺に女神は淡々と話しかける。
『どうですか? 戦闘は先程インプットした詠唱を唱え魔法を放てばある程度の敵は瞬殺出来ます。それがソウルの力、源ってことで全ての闇魔法にバフがかかってます』
「バフ……ですか」
ヤベェ力だぞ……コレ。
いやこの世界の闇魔法の水準をまだ知らんから何とも言えんが強いことは分かる。
だってあんな凶暴な狼を一撃だぞ? 唱えれば大体は瞬殺って一種のチートだ。
しかも詠唱一覧には
ダーク・ドライヴ・パーミラス
ダーク・ドライヴ・ログロレス
ダーク・ドライヴ・メゾルディッダ
だのどう考えても上位互換なのもある。
これは確かに……世界が混乱すると言われても納得がいってしまう。
『さて……闇魔法はこれ以外にもたくさんあります。力を扱いやすくし、世を生きる為にできる限りの魔法を覚えましょう』
そこからはスポ根マンガもビックリの鬼トレの連続。
女神がモンスターを生み出しては俺が新たな闇魔法で倒す。それの繰り返し。
休む暇なく力を使い続けるのは地獄だったが……そのお陰で大体の魔法は覚えられた。
だが……そんな時、ある疑問が浮かんだ。
「ちょっと待ってスキリアさん」
『は? 何ですか?』
「あの……魔法を使えるようになるのはいいんですけど、そもそも俺、禁忌の力だから使うとこ誰かに見られたらアウトなのでは?」
そう、スキリア曰く、俺は立場的に誰かに正体がバレれば争乱確定になる存在。
闇魔法を使いこなせたとしても見られたら即アウトで使うタイミングが全くないのだ。
しかもこんな禍々しい外見だ。使わずとも見られれば怪しまれる。
あぁ最悪だ……宝の持ち腐れという言葉がこれほど似合ってる状況はない。
『まぁ確かに、その姿で人前に出るのはタブーな行為ですね』
「そうでしょう? だから別に魔法覚えたところで……魔力を抑えれるかつ人間になれるなんて都合のいい方法があれば別ですが」
『あぁそれなら一応ありますよ?』
「あんの!?」
あったのかよ都合のいい方法!?
何だよ勝手に絶望しちまったじゃねぇか!
「ならそれ教えてくださいよ早く!」
『いやしかし……あまりオススメは出来ないというか、副作用が』
「副作用?」
『まっ百聞は一見にしかず。ついてきてください』
「あっちょっと!?」
スキリアは勝手に手招きすると俺を何処かへと連れていこうとする。
嫌な予感満載だが……俺はついていくしかなかった。
スキリアは何かを探知している素振りを見せながら草原を抜けた先の不気味な洞窟へと歩を進める。
「何処まで行くんですか……?」
『あと少しです。探知魔法で丁度いい器が見つかりましたから』
「器?」
その言葉に疑問を抱いているとスキリアは唐突に足を止める。
すると迷いなしにある場所を色白の細長い指でさした。
「イッ!?」
目の前の光景に俺は絶句する。
「し、死体!?」
そこにはボロ雑巾のように傷だらけな銀髪の少年の死体があった。
肌的に恐らくは高校生ほどの年齢。
完成された中性的な顔立ちは男の俺から見ても見惚れるほどだ。
手、足、胸には鉄の防具が装着され上から黒いジャンバーを羽織っている。
「ちょ何見せるんですか!」
天使のような顔立ちだが傷が痛々しくあまり直視は出来ない。
気が動転する俺に対しスキリアは淡々と死体を見ながら話していく。
『さっき魔力を抑えながら人間態になる方法があると私は言いました。それは遺体に憑依することで蘇生を行うことです』
「はっ?」
『要は乗っ取り。どうやらソウルには人間の遺体、つまり空っぽな器に憑依し魔力を人間の細胞と同化することで力を抑え、人間の身体を手に入れられる機能があるようです』
あぁダメだ、何言ってるか分かんねぇ。
まぁでも……この遺体に憑依すれば何とかなるかもしれないってことだよなきっと。
『クエストに挑み敗北し死んでしまった冒険者と言ったところでしょう。器にするなら丁度いい。このまま放置しても他のモンスターに食われるだけでしょうからね』
「今の姿よりも良くなるなら直ぐにでもやりたいですけど……その副作用って?」
そうだ、副作用なるものが一体どういうシステムなのかが気になって動くに動けない。
『危険極まりないものではありません。しかし……人によっては恥ずかしいというか』
「恥ずかしい?」
『それは__』
そう口を開こうとした次の瞬間、スキリアの身体がいきなり光り始める。
『ッ! しまった、もう制限時間か……』
「えっ?」
『申し訳ありませんケンイチ様……私がサポート出来る期間はここまでのようです』
「はぁっ!?」
えっここでチュートリアル終わり!?
ちょっと待てよまだ色々と聞きたいことあるんだぞ!?
『ここにいられる時間はもう十秒もないようです。残念ですが……ここからはユウイチさんご自身の努力となります』
「ちょ待って! ならせめて副作用についてだけは!」
そうだそれだけはせめて聞いておかないと色々と困る!
『そうですね……人間に憑依する際の副作用、それは魔法を使う時に感情が__』
ピシュン!
「あっ」
全てを言い切る直前に……光が消え失せ、既にスキリアの姿はなかった。
「オォォォォォォォイ!? あともう少しだったろ! 感情が何だよ!?」
俺はただ叫ぶしか出来なかった。
いやホントマジであとちょっとだったのにに……。
だが無情にも俺の叫び声は虚しく洞窟内に響き渡るだけ。
遂に俺はこの異世界に来て完全に一人だけになってしまった。
「マジかよ……」
途端にめっちゃ寂しくなってくる。
別れを惜しんでいても何も始まらないのは分かっているがそれでも寂しい。
いや……今はやるしかない。
俺自身の選択でこの世界に来たんだ、ならもう自分なりにやってやる!
「んでどうするかだな、この遺体を」
この遺体に憑依するか……しかしスキリアは消える寸前に『感情』と言っていた。
つまり副作用は感情に関わるということでいいんだよな?
なんか怖いが……まぁ危険極まりないものではないと言っていたし何とかはなるか。
それにどの道、これ以外に方法もないわけだし腹括るしかない。
「よし!」
迷いを振り払い意を決して遺体へと近づき、恐る恐る触れる。
すると遺体は突然眩く輝き始め、俺は思わず目を瞑ってしまう。
数秒後、光が収まると同時に俺はゆっくりと目を開いた。
「……ん」
視線の先にあるのは先程の遺体であった少年の手。
俺が頭で「動かせ」と命じると意のままにその手は自在に動く。
「成功したのか?」
恐る恐る立ち上がり自分自身の身体を触ってみる。
少年らしい細マッチョな肉体に人間であろうことを示す手足や骨の感覚が伝わる。
どうやら憑依は成功したようだ。
「これが新しい肉体……」
スキリアが警告していた副作用は特に起きていない。感情はいつも通り。
そして何故か傷だらけの身体も治っている。細胞とシンクロした際に完治したのか。
「いい身体付きだな……って、なんかねぇのか? この遺体の名前わかるやつ」
なんでもいい、とにかく名前が知りたい。
元々は他人の身体なのだから自分の名前である「ケンイチ」と名乗るのは危険だ。
仮にこの身体の知り合いに遭遇したら怪しまれるし、頭イカれたと思われる。
そう思い、俺はこの身体が所持しているであろうバックを弄る。
「おっ?」
すると赤黒い血がついたギルドカードのような物が見つかった。
大きさは免許証と同じくらいで右には自分の写真、そして左には詳細が書かれている。
スキリアから授かった言語能力を利用してこのカードを解読するとこう書かれていた。
名前:マックス・アナリズム
年齢:16
性別:男
ユーザーランク:D
レベル:12
タイプ:魔法使い
使用属性:光、闇
「マックス……それがこれの名前か!」
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