第2話 禁忌の力に……なりました
「グフっ!?」
奈落に突き落とされたような衝撃。
思わず目を見開くとそこには絶景な丘陵地帯が広がっていた。
「凄っ……これが異世界……」
先程までの天国のような部屋とは打って変わり心が踊る絶景が目に焼き付く。
生い茂る草木、幻想的な朝日、そして空を舞っている謎の龍のような生物。
これだ、これぞ正しく異世界転生というやつの理想形だ! 王道パターンの世界だ!
「よっしゃぁ! 第二の人生を」
『無事転生しましたか』
「ん?」
突然、耳に入る繊細な声。
何事かと振り向くと
「うわっ!?」
そこにはスキリアが俺を見下ろしていた。
「えっ何でいるんですか!?」
『いきなり異世界転生して「さぁお好きなように!」というのは流石に酷でしょう。ですので数時間程ですが貴方をサポートしようと思いましてね』
「す、数時間?」
『いくら女神だろうと世界に直接干渉できるのは数時間が限界です。その前に色々やれるべきことをやりましょう』
あぁ、チュートリアルってやつか!
しかし気前のいい女神様だな……いや女神なんだからそれくらいして当然なのか?
まぁ何でもいい、数時間とはいえサポートキャラがいてくれるのは助かる。
「てか女神様、俺どうなってます?」
さっきから不思議に思っていたのだが……何故だか身体の感覚がない。
腕の感覚も足の感覚も、散々ムスコから性欲を発散させた右手の感覚も。
神経が切れてしまったと思うくらい感覚がないのだ。
『あぁ……えっと……』
ん? 何だ?
何気ない質問だと思うのだが何故だか女神は答えづらいような顔を浮かべる。
『あのケンイチさん、先程どのような姿で転生するかは分からないと私が言ったのは覚えていますか?』
「えっ? あぁはい覚えてますけど」
『実はあれ……世界によっては生物にすらならないこともあるんです』
はっ?
えっ生物じゃないパターンあるの?
じゃもしかしてまさか今の俺って植物にでもなっているのか!?
「それつまり……俺は動物じゃないと?」
『先程この世界を調べ、貴方の外見を確認しましたが……生物ではないです』
「ちょ、ちょっと待って!? じゃあ俺花にでもなってるんですか!」
『いえそんな綺麗なものじゃないです』
「じゃあ木ですか!?」
『いや木でもないです。寧ろそれのほうがマシですね。なんと言えばいいか……概念になってしまったというか』
「が、概念?」
待って何を言ってるんだこの人。
いきなり概念と言われて「あぁコレですね!」ってすぐ分かる奴いねぇだろ。
「ま、まぁとりあえず貴方の姿はこのようになっています」
そう言って女神は長方形の鏡を魔法で生み出すと俺自身に向ける。
そこに写っていた俺の姿は……確かに概念のようなものだった。
「えっ?」
まるで焔のような漆黒色の何か。
辺りには赤、橙、黄、緑、青、紫と様々な色の炎が自分自身の辺りを舞っている。
説明しづらいが……黒くペイントされた人魂と言えばいいのだろうか。
「これ……俺?」
『はい』
「マジで?」
『マジです』
「ガチで?」
『ガチです』
「へぇそう……はぁぁっ!?」
思わず絶叫するしかなかった。
とりあえず叫んどかないと気が狂う。
「なんこれ!? 塊!? 魂!? どういこうとですかコレは!」
『えっと簡潔に説明させてもらうと、ケンイチさんはこの世界の闇のソウルになりました』
「はい?」
何だ闇のソウル?
なにその凄い厨二臭い言葉は……聞いただけで鳥肌立ったんだが。
共感性羞恥を抑えながら女神の話を拝聴していたが……要約するとこうだ。
この世界は魔法が存在しランクは初級、中級、上級、そして最高クラスの超級。
火、水、風、土、雷、光、闇、そして希少性の高い無属性の八つに分けられる。
属性の一つ一つにはソウルと呼ばれる魔法の源とも言える概念が存在する。
ソウルがあるから魔法が使え、消えてしまうと消えた属性の魔法は使えなくなる。
そして俺は……八つのソウルの一つである闇のソウルになっているという。
「じゃあ俺はソウルになったと?」
『はい、魔法の始祖でもあるソウルは禁忌の力と呼ばれ、貴方の存在が世界に明かされれば大争乱に陥るでしょう』
「なるほど……ん? 大争乱?」
『えぇ、だって闇魔法の源ですよ? そんな強大な力、誰だって欲しくなりますし激しい争奪戦となりますね。権力者達の』
「ハァァァ!?」
おいふざけんなよ、何でそんなクソほどにヤバいのに転生したんだよ!?
普通転生ってチート貰いつつも、平穏に暮らせるのが定番だろうがッ!
「ふざけんなよ! なんかこう……融通効かないんですか! 俺嫌ですよこんな危険な存在で生きるのは!」
『無理に決まってるでしょ……転生前にどんな姿、立場になろうと構わないと言ったのはそっちじゃないですか。今更文句言わないでくださいよ悪質クレーマーですか?』
「いやそうは言ったけども! まさかこんな概念になるとは思わないじゃないですか! 世界中何処探しても「あっ俺概念になるな」って分かる奴いませんからァ!」
『まぁそれは貴方の想像力が足りなかったってことで自省してください』
なんで俺が反省しなきゃならねぇんだよこのクソ女神!?
いやでもまぁ……勝手に人間か動物になるだろうって思ってたのは俺だしキレるのは違うか。
転生だって何も生物の形でなるとは限らないんだ。こんなことだってあり得るはず。
「はぁ……まぁ分かりましたよ。その代わり出来る限りはサポートしてくださいよ?」
『もちろんでございます。さっまずは動きましょう。大丈夫、そんな姿ですがしっかり動けますから』
あぁもう……とにかく俺は闇のソウルってことでどうにか生きていくしかない。
絶望に苛立ちながらも俺は概念となった身体を受け入れるしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます