3‐33彼はみずからの星を選んだ
「
聴きなれた声がした。
房室に飛びこんできた
「
「だいじょうぶだったか、怖かっただろう」
累神が妙を緊縛していた縄を絶ち、抱き寄せた。
「へいき、です……でも、なんでここが」
「はっ、結局、誰も彼もが僕を裏切るんだな――累神、禍の星のくせして、よくも僕から皇帝の
「辞めたんだよ。
「星辰を殺して、妙まで傷つけたおまえを、俺は許すことはできない。ここで、俺たちの因縁を終わらせよう」
「僕を殺すのか? できるものならばやってみなよ」
だが、錦珠は嘲笑しただけだった。
「僕らは
妙はかねてから、疑念を懐いていた。なぜ、
「僕は殺せないよ、
僅かでも
累神は
累神はためらいなく踏みこむ。
彼を縛り、がんじがらめにしてきた運命の糸をひきちぎって。
「いっただろう。俺は、星には操られない」
錦珠が信じられないとばかりに眼を剥く。銀の髪に挿された歩揺が微か、音を奏でた。視線を彷徨わせてから、彼は強い怒りに
最後の力を振りしぼるように錦珠は、後ろ手で短剣を抜きはなった。
「累神様!」
妙が悲鳴をあげる。
こんな物を投げつけても、あたるとは想わなかった。まして、短剣を弾きとばすなど無理だ。だが、考えている暇はない。
「一緒に死のうよ、累神! 僕らは同じじゃないか」
錦珠の短剣が累神にむかって振りおろされる。累神は錦珠に腕をつかまれていて、身動きがとれない。
妙が破片を投げつけた。
かつんと、星の砕けるような響きがあがる。
放物線をかたどって投擲された破片が、短剣にあたったのだ。だが、小さな破片ひとつでは明確な殺意をもって振るわれた剣を阻むには到らない――はずだった。
「なっ」
短剣がぼろりと、崩れた。
奇蹟か。あるいは。
「なん、で、僕だけ……」
「星は、人が動かす――運命は選び取るものだ」
なにを選び、どう進むか。
「俺は、俺の星を選んだ」
累神が剣をひき抜いた。錦珠は声もなく
妙は累神にかけ寄り、抱きつく。
張りつめていた緊張がいっきにほどけ、涙があふれだしてきた。
「累神様……よかった、ほんとうに」
「終わった。いや、終わらせたよ。……あんたのおかげだ」
妙を力強く抱きとめて、累神は双眸を綻ばせた。
穏やかに燈る
妙は累神の胸にもたれながら、ありがとうございますと涙に濡れた声を洩らす。これで星辰も月華も心穏やかに眠れるはずだと。
「
禍でも福でもない、彼だけの星を。
「ああ」
つかんだら、離さないといわんばかりに強く抱き締めて。
「……俺の星はあんただよ、
累神は笑った。
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