3‐27「さあ、神サマとやらを殴りにいきましょうか」
「
宮につくなり、
遺書には達筆な字で様々なことが書かれていた。母親にたいする御礼からはじまり、みずからが殺されることがあれば、第二皇子である
「
「
そこには累神のことが書かれていた。正確には累神の星について、だ。
「星辰は昨年から熱心に占星の研究をしていました。これがその研究の結果だと」
占星師はこの星の動きに基づいて、
だが、そうではなかったという。
「星辰の割りだした星の周期によれば、累神様が御産まれになられた直後、
にわかには信じられないはずだ。産まれた時から累神を縛り続けてきた予言が、星辰の遺書で覆るなんて。
「間違いないのか?」
「私も眼を疑いました。ですが、あの星辰が計算を誤るとは考えられません。星辰の明敏さは、士族も
(ああ、これは嘘だ)
真実だったら、星辰は今際の時に累神に伝えたはずだ。
異境では、嘘をつき続けたせいで真実を信じてもらえなくなった羊飼いの話があるらしいが、これはその逸話の真逆だ。
日頃から聡明で嘘などつかなかった星辰の言葉だから、誰もが疑わない。
妙は視線をふせて、肯定を表す。
(累神様だったら、嘘を真実に変えられると信頼して、星辰様は最後の最後に嘘を遺したんだ)
「直ちにこのことを公表しましょう。累神様には新たな皇帝となられる権利があることを明確にするのです。星辰を暗殺した錦珠を皇帝にするわけには参りません。私を含めた士族、幇は、累神様の後援を致します」
彗妃の声の端々からは強い怒りが感じられた。愛する息子を奪われた母親の
「いや」
だが、累神は頭を振る。彗妃が眉を曇らせた。
「まさか、累神様には、皇帝になられるおつもりがないと?」
「そうじゃないさ。だが、まだ時期じゃない」
「即位式がせまっています。今、公表せずにいつ、知らせるというのですか」
「現段階で星の誤りを公にしても、宮廷巫官が認めるはずがない。証拠隠滅をされるだけだ。だったら、最高の舞台で公表し、民を証人にするべきだ」
「民を? 御言葉ですが、民は累神様が禍の星に産まれついたことで廃されたことも知らないものばかりですよ。第一皇子は放蕩者だとしか考えていないはずです」
「だからこそだよ」
「彗様にご助力を賜りたいことがあります」
「なんでしょうか」
「噂を振りまいてくださいませんか」
怪訝そうに彗妃が眉を動かす。
「
いまさら錦珠にまつわる悪評を拡げても、強硬派に反抗する者の工作だと疑われて終わりだ。
「この頃、不穏なことが続いているとだけ。たとえば、ですね、魚の大量死があったとか、鳥の群が落ちてきたのをみたとか」
「それだけ、ですか?」
「それだけです。ただ、できるかぎり、実しやかに」
妙が人差し指をたてて、微笑みかけた。
実害がなくても、
関係のないことを結びつけたがる民の心理を、逆手に取るのだ。皇帝が錦珠にきまってから異常が続いているとなれば、民は天が錦珠のことを認めていないのではないかと疑うに違いない。
そうなれば、こっちの舞台だ。
「さあ、神サマとやらを殴りにいきましょうか」
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