3‐23「どうか、皇帝になられてください」
刺客だ。
「近寄ったら、斬りますよ!」
刺客は妙の抵抗を鼻さきで笑い、倉のなかに踏みこんできた。妙は斧を振りあげ、刺客に挑む。だが、軸のぶれた攻撃はかんたんにかわされてしまった。
刺客の剣が風をきり裂いて、
もうだめだ――諦めて、妙は瞼を
「
「累神、様……」
刺客を倒した累神が妙を抱き締める。累神も微かに震えていた。
「よかった、……ほんとに」
「
「星辰、もうだいじょうぶだ、よく頑張ったな」
「あ、哥……様、ご無事、だったんですね」
「ああ、なんともない。帰ろう」
「ありがとう、ございます」
星辰は安堵したように微笑した。だが、か細い息と一緒にまた命の雫がごぽりとあふれだす。彼の服は、喀き続けた血潮で、しとどに濡れていた。
「
みずからの死期を理解したように。
星辰は強い眼差しをして、累神の腕をつかむ。
「哥様、どうか、皇帝になられてください」
累神が戸惑った。
「ぼくは、
累神は瞳をゆがめて、頭を振る。
「違う、そうじゃない。おまえが皇帝になるんだ。俺はおまえを皇帝にするため、
そうか。
妙が理解する。
これが累神のついていた嘘か。累神はもとから、みずからが皇帝になるつもりなどはなく、星辰を皇帝にするために動き続けていたのだ。
「ぼくは、もう、ながくなかったんです。あの後、医官たちに余命宣告を受け、ました……もって、あと五ヵ月程だと」
「嘘だ……祭りだって、参加できたじゃないか。これからも一緒にいろんなところに連れていってやるって約束しただろう!」
累神が声を嗄らして、懸命に訴えかけた。
星辰は穏やかに微笑む。
「
ひとつ、言葉を紡ぐのもつらいのか、星辰の声は細かくちぎれていた。
だが、なおも懸命に
せまる死を感じながら、星辰は最後まで微笑みを絶やさなかった。
「だから、
夢、だと。
そういったきり、星辰は黙する。
「星辰? ……星辰、星辰!」
累神は星辰を抱き寄せ、声をかけ続けた。だが、星辰が再びに哥様、と唇を動かすことは、なかった。
「星辰様……」
妙が哀しみに声を震わせる。
幼けない頬に穏やかな微笑を遺して、星辰は逝った。
窓から緑の火が舞いおりてくる。名残の蛍だ。微かなあかりが、累神の
純真な魂を
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