3‐22絶望!星辰にむけられた刺客!
堀に落ちて横転した馬車をみつけ、
堀の側に累神がいた。
それが最後の刺客だった。
息も絶え絶えに累神が振りかえる。
「
妙はひとつ、安堵の息をついて、累神のもとにかけ寄る。
「いったい、なにがあったんですか」
「刺客だ。
物音がした。
累神は剣を構えなおす。民家の裏から新たな刺客が襲いかかってきた。今度は九人だ。累神は刺客を睨みつけながら、妙に言った。
「
「累神様はどうなさるんですか」
「そうです、
「あれは
いったい、どういうことかと妙が言葉の真意を尋ねるまでもなく、刺客が斬りかかってきた。ここにいては巻きこまれる。それどころか、累神の足手まといだ。妙は唇をひき結び、星辰の腕をつかんで逃げだした。
「
「累神様を信じて、逃げましょう」
剣を扱うことはおろか、喧嘩もできない妙には、ほかにできることがない。
累神は刺客をひき受けて、退路をひらいてくれた。
だが、その時、民家の屋頂に弓隊が現れた。刺客たちは星辰と妙めがけて、いっせいに矢を放つ。
(やばい)
妙は
盛大な水しぶきがあがる。
堀は想像していたよりは浅かった。妙の腰程の水嵩である。
「星辰様、御無事ですか!」
抱き締めていた星辰に声を掛ける。
「っ……」
星辰が苦しげに呻く。
星辰のわき腹には、矢が刺さっていた。
妙は絶句する。星辰様と叫んで矢を抜きかけて、いや、だめだと頭を振る。何かが刺さった時は、無理に引っ張って動脈を傷つけたら命にかかわると、誰かに教えてもらったことがある。
「逃げないと! 星辰様、歩けますか」
「
いわれてから確かめれば、袖がちぎれて、腕からぼたぼたと血潮があふれていた。矢がかすめたのか、落ちたときに負傷したのか。
「私はへっちゃらです。いざとなれば、
意識してから、傷がずきずきと痛みはじめた。だが、妙は強がって星辰の肩を抱き、水を掻きわけながら進む。しばらく進んだところに階段があった。刺客がひそんでいないか、慎重に確かめながら堀からあがる。
いつのまにか、日が落ちてあたり一帯は暗くなっていた。今晩は月がない。星ばかりが瞬く暗がりに身を隠して、妙は側に建っていた民家の戸をたたいた。
「助けてください! お願いします、どうか」
懸命に助けをもとめる。
だが、面倒な争いに巻きこまれまいと息を殺しているのか、家の者は顔を覗かせるどころか、声ひとつかえしてはくれなかった。
誰も助けてくれない――
「すみま、せ……げほっ……」
ひどい血潮の量だ。
妙は絶望に唇をきつくかみ締める。
(大通までいけば、衛官がいるはず。でも、これいじょう歩き続けるのは無理だ。どこか、隠れられるところを捜さないと)
妙は星辰を連れて、民家の倉に身をひそめた。
物陰に星辰を横たわらせる。星辰はぜひゅうぜひゅうと異常な呼吸を繰りかえしていた。咳をするごとに血潮を喀き、眼からは光が損なわれていく。
「なんで、こんなことに……」
先ほどまで、あんなにも幸せだったのに。
「ごめんなさい。狙われて……いたのは、ぼくなのに……御二人を、巻きこんでしまって……ほんとうにごめんなさい」
星辰が声をしぼりだす。
「そんなの、違います。なんで、星辰様が狙われないといけないんですか。星辰様がなにをしたっていうんですか」
悔しさに声がつまる。
「ひどすぎます、こんなの」
だが、嘆いてばかりはいられなかった。
「
なんとしてでも、星辰をちからづけないと。
「
「でも」
「約束してくださったんです。どこにいても、迎えにいくって。累神様が約束を破るはずがないじゃないですか」
「そう、ですよね」
星辰が微かに微笑んだのが、息遣いでわかる。
だが、望みもむなしく、次第に星辰の呼吸は細くなってきた。すでに意識が遠ざかってきているのか、彼は心細げに尋ねる。
「
「いますよ。ずっと一緒です、離れませんから」
星辰の手を握りながら、妙は懸命に声をかけ続ける。
突如として、倉の戸が蹴破られた。
「累神様……」
胸に過ぎった希望は果敢なく、打ち砕かれた。
刺客だ。
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