3‐19祭ときどきたこ焼き
「ふええ、まさか、ここまで盛大なお祭りだとは」
さすがは八年に一度の祭典だ。
もちろん、
「
星辰が弾んだ声をあげる。
「へえ、華やかだな」
「鳥よけに飾るんだとか。素敵ですよね」
何処をみても珍しい品物がならんでいるので、ぶらぶらと散策しているだけでも飽きそうにない。
「嬉しいのはわかるが、俺から離れるなよ」
「もちろんです。あ、あれはなんでしょう」
「こらこら、走るな……まったく」
ため息をつきながら、
北部からきたらしい露天商を覗いて、星辰がわあと眼をまるくした。
「これ、あざらしの靴です。大陸の北には夏がこないので、通年雪があるそうで、北の民族はずっとこの靴を履いているのだとか。文献ではみたことがありましたが、実物がみられるなんて想いもしませんでした」
「欲しいのか?」
「素敵だなとはおもいますが、……都ではめったに雪が積もりませんので」
「記念になるだろう。それに都でも時々は雪が降るからな。早朝だったら、結構残ってるからな、冬になったら雪を踏みにいこうか」
「ところで……
星辰が累神に耳打ちする。
「妙大姐に髪飾りなどを差しあげてはいかがでしょうか?」
「はは、妙はそういう物を渡されても、喜ばないだろう」
累神は苦笑する。いまだって、たこ焼きとかいう異境の食を屋台で頼み、嬉しそうに猫耳をぴこぴこさせている。
「でも、食べ物は残らないです。せっかくなんですから、特別感のあるものを渡すべきだと、ぼくはおもいます。だって、
「
「普段の俺は、張りつめていたか?」
「気を張って、おられるでしょう? 哥様は、誰とでも親しくされているけれど、ここからは踏みこまれたくないという線があって。それを破られないよう、絶えず緊張しておられるので……その、失礼なことをいっています、よね……ごめんなさい」
累神は視線を彷徨わせてから、息をついた。
「そう、か……完全に無意識だったが、そういうところはあっただろうな」
累神が妙に視線をむける。妙は熱々のたこ焼きを頬張って「うまぁ」と歓声をあげていた。屋台の男が嬉しそうに喋りかけてきて、妙はそれにこたえ、あれこれと感想をいっている。
「彼女は、見破ってくれる。俺が隠しているものを全部。それでいて、看破しても、踏み荒らさない。だから、俺は――ああ、そうか。……好き、なのか」
燃える星の眸を綻ばせて、累神が相好を崩す。
妙がちょうどたこ焼きをもって、累神たちのところに戻ってきた。
「星辰様、これ、めっちゃおいしいですよ。たこ焼きというそうです。東の果てではお祭りの時にかならず、これを食べるんだとか。星辰様もおひとつ、どうですか?」
妙はたこ焼きに爪楊枝を刺して、星辰に差しだした。かつお節と青のりが散らされたたこ焼きから、食欲をそそるにおいが漂う。
「え、あ、……いいでしょうか、食べても」
「いいんじゃないか。屋台の飯に毒をいれる輩はいないだろうし、妙に毒味をしてもらったようなものだからな」
星辰はたこ焼きをふうふうしてから、食べた。
「ん、すごく、おいひぃです。変わった味ですね」
熱いので、はふはふしながら、星辰は眼を輝かせた。
妙がよかったと微笑む。
「ですよね。屋台の
「いいんですか。ありがとうございます、妙大姐」
気分が昂揚しているから、星辰自身も気がついていないだろうが、徐々に唇が紫がかってきていた。不調とまではいかないが、そろそろ休憩を取らせないと。
妙は星辰を日陰に連れていき、休ませた。
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