3‐18「あんたはそんなことまで見破ってくれるんだな」

累神レイシェン様」


 星辰シンチェンが帰ってから、ミャオはあらたまって累神に声をかけた。

 硬く、張りつめた妙の声を聴いただけで、累神には妙がなにを考えているのか、わかったらしい。静かに振りかえる。


「――考えついたのか」

「はい」


 妙は唇をひき結んでから、ほどいた。


「日輪にまつわる例の予言は、錦珠ジンジュが宮廷巫官をつかって拡散させたものです。日蝕が起きた時、民衆に「あの神託は新たな皇帝の誕生を示唆するものだったのだ」と理解させるために根まわしをしておいたわけですね。ここからわかるように錦珠は完全に占星師、宮廷巫官きゅうていふかんを味方につけています」


 なにせ、錦珠が産まれた時、占星師は彼こそが福の星だと宣告している。占星師としては錦珠が皇帝となれば、予言が実証されるわけで、その時からすでに一蓮托生の身だ。


「ですが、日蝕の日時については、こちらも把握できています。だから、横取りできるんですよ」


「日輪を統べ、随える皇帝とやらは錦珠ではなく、俺だと言い張ることもできるわけか」


「そうです。ただ、それには理窟が必要です。理窟、というよりは、もうひとつの神の託宣というべきでしょうか」


 累神はわざわいの星だ。

 民はそれを知らないが、宮廷はその神託を重く捉えている。


「日蝕というのは真昼に太陽が隠れて、また現れる、という現象ですよね。これは日輪が入れ替わる、とも捉えられるわけです。日蝕によって、禍の星と福の星が入れ替わったと神の託宣を騙れば、民は納得するはずです」


 累神が感心して、唸った。


「完璧だな」


 だが、妙は静かに息をついた。


「いえ、勝率は五割ほどです。民だけではなく、宮廷のお偉いがたまで巻きこまなければならないわけですから」


 由緒ある占星師と、何処の馬の骨からもわからない占い師、どちらに信頼を寄せるかといわれたら、占星師にきまっている。かといって、第一皇子つきの占い師、というのも今度ばかりは徒となる。


 ここからは、どう地道に勝率をあげるか、だが――


累神レイシェン様、ひとつ、教えてください」


 妙は真剣な眼差しで累神をみた。

 事のウラを映す鏡のような瞳に累神を映して。


「累神様は、ほんとうに皇帝になるつもりはありますか」


 彼女は、累神がついた最大の嘘に触れた。


「……参ったな」


 累神は緩やかに口の端をあげる。抑えきれない歓びを漂わせて。


「あんたはそんなことまで見破ってくれるんだな」


 彼がなぜ、嘘をつくのか。なぜ、嬉しそうなのか。それでいて、瞳の底が昏いのはどうしてか。妙には読み解けない。


「私は、ねえさんの命を奪った錦珠ジンジュのことを、許せません。彼を皇帝にしないためならば、ほんきで、なんでもやります」


「俺もそうだ。錦珠を皇帝にするわけにはいかない」


 髪を掻きあげて、累神が笑いかける。

 彼に嘘をついている素振りはない。なのに、虚ろだ。


「あんたと一緒だよ」


 なにが、これほどまでに抜け落ちているのか。


 妙にはまだ、読み解けず。

 それでもいまは、彼を信頼するほかになかった。彼が、命を賭して妙を信頼してくれているように。

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