3‐6民は食をもって天をなす
夏の夜風は心地いい。
軒にならんだ提燈は祭りみたいに賑やかだ。
ここは上級妃の宮ばかりが建ちならぶ区域だ。睡蓮が咲き誇る
「
「どういうことですか」
「
「……それは、事件のにおいがしますね」
「
「だとすれば、暗殺未遂ですよ」
「違和感はあったんですよね。なんで、あの時にかぎって、
患者が第三皇子だったから、夢蝶嬪も張りきったのかとも考えたが、
「よさげなものを宮廷医官から購入した後、第三皇子がきたら、これをつかってみようとなるのが心理です」
「
だとすれば、刺客は後宮内部にいるということになる。
「星辰の暗殺を狙うとすれば、
「それだったら、後宮のなかにも結構いそうですね」
橋を渡りきって
庭では百日紅が咲き群れている。ちりちりと燃える火種のような莟に視線をむけ、
「実際、まもなく皇帝がきまるというこの時期に
「敵の思惑どおりということですか」
それはそれとして、妙は意外だったことがある。
「都では、ふつうに
「
「
耳慣れない言葉だったのか、
「それはどういうものだ」
「巷というのは広そうでいて、非常に狭いものです。なぜかというと、同等の知識、意識を持ったものが群れるからです。群のなかでは意見が一致しやすく、ともすれば、それが世間一般の意見であると勘違いしてしまう――これを
累神が感心して唸る。
「あんた、ほんとによく知ってるな」
「群集心理のひとつですから。ただ、これ、勢いがつきだすと強いんですよね」
「根拠もない反響なのにか?」
「類似したものに
だから、噂の滝だ。
「
「ああ、
想いかえせば、昨日も先輩女官にたいして、錦珠は優しい言葉をかけていた。鯉に餌をやるみたいに愛想を振りまかれて、先輩はまんまとうかれていた。
「公約というと、どういうのですか?」
「確か、貧しい家庭に補助金を配る、だったかな」
「わあ、それは露骨に強いですね」
「俺としては貧富の差を縮める根本解決にはならないと考えているんだが。有事の際ならばともかく十万程度をばらまいたところで、経済効果があるかどうかは疑わしい」
「民はその時その時、腹を満たすので精一杯ですからね。さきのことまでは考えていません。すぐにでも助けてくれそうな施政者に頼りたくなるもんなんですよ」
そういうものかと
「民は食をもって天をなす、とはよくいったものだな」
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