10「私、神サマってきらいなんですよ」
「後は、例えばですね。さきほどの女官――
「確かに言われてみれば。……彼女の癖かとおもったが」
まったく何処からみていたんだ。という突っこみは後にする。
「あれ、〈
聴きなれない言葉に
「嘘をついている時、人が無意識に取る動作というものがあります」
喋りながら、
「例えば、喉に触れる。これは危険を感じて、急所を隠そうとする本能からくるものです。後は額に触れる、というものもありますね。こちらは焦燥による発汗を、無意識に確かめようとしている。そして、鼻に触れる――」
ちょんと、鼻さきをつついて、妙はいった。
「人が強い緊張をおぼえたり、恐怖を感じたとき、まずはどこが動くと想いますか」
「ふつうは瞳孔だろうが、この流れだと……鼻か」
「そうです。人は恐怖、緊張、欲望などで昂奮すると、鼻腔のなかが膨張します。むずむず感をともなうので、鼻に触れずにはいられなくなるわけです」
特に感情や欲望の抑制がきかないものほど鼻に強く魄が表れる。そうしたものは、妬みの激情を強くもち、後さきを考えない。まさに
「自身を宥めようとする無意識の働き。だから、宥め行動です」
「……案外と」
「単純、でしょう」
「
だからこそ、組みあわせます、と彼女はいった。
「鼻に触れているだけならば、確かに癖ということもありますからね。特に事件が起こった時では誰もが緊張し、動揺していますから」
神経を張りめぐらせ、全員の視線から指さきの動きまでを確かめる。蜘蛛が網をかけて震動を獲物の感じ取るように。猫が髭で風をつかみ、天候を読むように。
人の一挙一動を拾いあげ、
累神が面白いとばかりに眸を細める。
「理に適っているな。だから心理、か。……だが、これを神の託宣というのは、罰あたりだとは想わないのか」
占術は神の領域だ。理窟を捏ねて、神を騙ることは、詐欺罪にあたる。
まして後宮だ。
宮廷には
彼らを冒涜したと見做されたら、死刑にもなりかねなかった。殊勝な態度でこたえるべきだと頭ではわかっているのに、どうにも妙のなかで、神にたいする拒絶感が勝った。
「私、神サマってきらいなんですよ」
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