9 「心理、ですよ」
事件を終えた
後宮は
「そうだ、
想いだして、いそいそと取りだす。
帰って落ちついてから堪能したいが、女官の先輩にばれて、取られでもしたら悔やんでも悔やみきれないので、歩きながら頬張る。
「うっまああぁ」
本物の餡はあずきだけではなく、丁寧に練った栗や蓮の実、なつめなどで造る。様々な果実、穀物のあまみがひとつになって、絡みあい、口のなかが極楽だ。
舌に触れた塩みは家鴨の卵黄である。高級な月餅には黄身の塩漬けがごろりと、まるごと埋めこまれている。これがまた絶品なのだ。
「にゃはあ……これはたまらんですねぇ」
頬っぺたが落ちないように気をつけながら、
(あの第一皇子は喰えないやつだけど、こんなに旨い物をもってるんだったら、また相手をしてやってもいいな)
今度はもっと愛想を振りまいてやろうと考えなおす。
現金だが、それもまた、人情というものだ。
食べ終わったところで突如、後ろから誰かに袖をつかまれた。抵抗する暇もなく、燈の絶えた路地裏に連れこまれる。
悲鳴をあげかけたが、紅の髪をみて、
考えてみれば、後宮に暴漢などいようはずもなかった。
「宮廷の月餅は旨かったみたいだな」
「神の託宣ねぇ、違うだろう?」
累神の瞳が燃えるように瞬いた。
「あんたの占いには、裏がある」
「ははは、なんのことでしょうか。神を疑うのは感心できませんねぇ」
観念した妙は愛想を投げだして、乱暴に髪を掻きあげた。
「心理、ですよ」
累神が詳しく話せ、と要求するように
「占いとはそもそもが〔ウラを
巷の占い師とは趣は異なるが、イカサマを働いているつもりはない。理窟があるか、ないかという違いだけだ。逃げだすつもりがないとわかったのか、
「心理、か。それはどういう理窟なんだ」
「人の身には、
故に、と
「
「七魄か。確か、喜怒哀、
「諸説ありますが、おおよそはそうですね」
さすがは第一皇子、放蕩者でも教育は受けているらしい。
「そう、難しいことではありませんよ。嬉しい時は人は笑うでしょう? 口角がこう、あがって、瞼がさがるので、細めた瞳の端にちょっとだけしわができます。これが喜びの
「だが、愛想笑いというのもあるだろう」
「そうですね。でも、愛想笑いの時は、瞳のまわりは動かないことがほとんどです。笑顔を繕うのがどれだけ巧みでも、口がさきに笑い、瞳が動くのは後になります。言葉は嘘をつけても、こういう一瞬の動きは偽れません」
「後は、例えばですね。さきほどの女官――
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