2‐23「俺を皇帝にしてくれないか」
「あいつの言葉に嘘はあったか」
「僕が殺すはずがない――あの言葉、嘘です」
「そう、か」
彼は濡れた
だが、妙を最も戸惑わせているのは――
「ひとつ、尋ねていいですか?
彼は
「事実だよ」
「一昨年は北部の領地に敵が侵攻してくるといって、軍をむかわせ、敵軍を撃退した。昨年も南部で地震があるといい、民を全員避難させることができた――もっともあれこれと先読みして、動くようになったのは四、五年前からだが」
「それまではそんなことはなかったんですか」
「俺が知るかぎりではな」
最愛の
「だが、これではっきりした。これまでは疑惑に過ぎなかったが、皇帝を暗殺したのは
累神は濡れ髪を掻きみだす。
「錦珠に野心があることはわかっていたが、そうまでして皇帝の
皇帝が崩御すれば、第二皇子である
「強硬派の官僚たちが錦珠を支持しているのも、錦珠の先読みをつかって、戦争を始めたいからだ。あいつが皇帝になったら、
「告発は……できないでしょうね」
「証拠がないし、
逢った時を想いだすような、黄金に燃える星の眸だ。
「
累神は妙にむかい、腕を伸ばす。
「俺を皇帝にしてくれないか」
累神は心理を隠すのが巧い。
だが、妙は累神と一緒に行動してきて、それなりには打ち解けてきた。段々とではあるが、彼の癖も理解できるようになった。
だから、わかる。
彼は嘘をついた時、左側に視線を落とすのだ。
大抵の者は嘘をつく時に右側を視るというのに。
だから――今の言葉は、嘘だ。
「なんで」
そんな嘘をつくのか。
彼は皇帝になど、なりたくない。皇帝になるつもりもなかった。それなのに、妙に頼むのだ。皇帝にしてくれと。
不意に。揺れていた累神の視線がさだまる。
星の瞳が、妙を映す。まっすぐに。
「俺が信頼できるのはあんただけだ」
それだけで、わかってしまった。
これは、これだけは、真実だ。
(嘘だったら、よかったのに)
帝族の継承争い。殺伐たる
毒殺だとか、暗殺だとか、そんなものとはいっさい縁のない
それなのに。
「――私は」
放っておけない。
濡れてもなお、燃え続ける髪をなびかせた男。星の瞳の第一皇子。旨い物を食わせてくれるからでも高貴な身分だからでもなかった。
なにもかもを諦めたような眼差しが、胸を刺す。いつのまにか、それは抜けない棘になった。
「たぶん、たいして、役にはたちませんよ?」
寂しげに漂っていた
「あんたが、必要だ」
また、何処かで雷が落ちる。
嵐を連れて、夏がきた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
これにて第二部完結となります。
続きは「小説家になろう」でも連載中ですが、ご感想、レビューなどの反響次第ではまたこちらにも第三部を投稿していくかもしれません!
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