2‐17ネグレクトからの承認欲
「血の道を損傷して脚には酷い痕が残ったが……大事には到らなかった。医官いわく気絶していたら、危なかったそうだ。あんたが
「声を掛け続けていたのは私ではなく、
「
「
(気のせいか?)
累神の心理は読み取りにくい。
彼は実際の感情とちぐはぐな動作をするきらいがある。例えば、「毒だ」といったときも彼は指を拡げていた。大事なひとに危険がせまった時、人は強く緊張して、指を握りこむものだ。だが、あの時
「それはそうと、私、彗様の頬っぺたをひっぱたいちゃったんですけど。よくよく考えたら、やばいですよね」
累神が信じられないとばかりに瞳を見張る。
「はたいたのか? あんたが?」
「や、やっぱり、怒られますよね」
「ははは、それは……ふっ、はは、いや、いいんじゃないか。後になって
「げ、……そ、そうでしょうか」
「あんたが不敬罪で捕まったら、第一皇子の権威やら賄賂やらで、なんとかしてやるよ」
「なにそれ、こわい」
まあ、彗妃が怒っていたら、妙はすでに牢屋いきになっていることだろう。
牢屋といえば。
「
彼女の罪は死刑になりかねないものだった。
「後宮の追放処分になるそうだ。死刑になる可能性もあったんだが、彼女に助けられた患者たちが官吏に訴えて、減刑された」
「そう、ですか」
「夢蝶嬪は「これは人助けだ」と言い張っていましたが――たぶん、彼女はまわりに肯定されたかったんだとおもいます」
無欲なんてそれこそが嘘だ。
彼女は承認欲に溺れていた。嘘をつくことにためらいがなく、みずからのついた嘘を疑わないところからも、誰かに認められたいという欲望が透けていた。
「誰もが持っているありふれた欲望だな」
「そうですね。でも、彼女が他と違ったのは切実さです」
「切実さ、か」
「彼女から母親の話を聴いたことがあるのですが、冷遇されていた母親を終始、遠くからみているようなかんじで、母親が幼かった彼女にどのように接していたかとか、そういう話が抜けていたんですよね。推察ですが、彼女は母親から
「話を
「そうですね。でも、彼女には、自身の髪に触れる癖がありました。ともすれば、よくある癖ですが、髪がひきつれるまで指に絡めたり、しきりに触れ続けるというのは幼少期に充分な愛情を受けられなかった人にみられます」
髪に触れる、触れられると心地よく、また安心感が得られる。だが、幼い頃から安心感を充分に与えられずに育つと、無意識に自分で自分に安心感をもたらそうとして、次第にそれが癖になる。
「それに彼女は、
あれは、みずからの
「幼かった
「そう、か」
「……あんたは、彼女を哀れに想ったか?」
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