2‐16これが本物の「心理」の薬
「
「母様……くるし、」
青ざめた
「毒か!」
信者を含めた患者たちは第三皇子の尋常ならざる様子に恐慌し、逃げだそうとするものもいた。
「
「違います……わ、私はただ、薬を……」
「薬と偽って毒をのませ、第三皇子を暗殺する魂胆だったのですね!
「お、お許しください! そのようなつもりは! だ、だって、これは……」
「
祭壇にたどりついた
「
「
星辰は意識が混濁している様子だ。呼吸は荒く、時々噎せこむように喉をはねさせた。脈が飛んでいるせいだろう。ひきつれた腕は麻痺して動かず、累神の指を握りかえすこともなかった。
「ばか、なにしてるんだ!」
「毒かもしれないんだぞ!」
毒、か。
皇帝陛下は昨春に崩御した。急逝だったため、都では様々な噂が飛びかった。そのなかには、陛下が毒殺されたのではないか、という不穏な噂もあった。だが、後宮においては、それはただの噂ではないのだ。
累神も、彗妃も、毒殺という危険を身近に感じている。
だが、これはそうではない。
「これ、
「
甘草は砂糖の百五十倍もの
「だからやばいんですよ。
都で働いていた時、不整脈を患っていた金貸しの
(妻はその後は遺産だけもらって、すぐに再婚したんだっけ。また
「すぐに医官を」
「わかった」
累神が医官を呼びにいく。妙はとにかく星辰をなでさすり、声を掛け続けた。
「だいじょうぶですから。落ちついて呼吸をしてください。すぐ楽になりますからね」
背後では
「万が一にでも、星辰が命を落とすようなことになれば、貴女を
怒りはわかる。だが、今まさに息子の命が危険に晒されているというのに、なぜ、側にいてやらないのか。
妙は苛だち、たまらずに割りこんだ。
「
「女官如きが私に指図をするつもりですか! この女が第三皇子を暗殺しようとしたのですよ、なぜ、
妙は辛抱たまらずに
「なんで、わからないんですか! 第三皇子だとか、処罰だとか! そんなことは、どうだっていいんですよ!
彗妃が戸惑い、瞳を揺らす。
沈黙は、一瞬だった。彼女は弾かれたように星辰のもとに駆けだした。ばち指の幼い手を握り締める。
「
「母、様……そこにおられる、のですか」
星辰が微かに瞼をあげ、かすれた声を洩らす。意識が戻ってきた。
「ええ、ええ、母はここにおります」
我が子に語りかける母親の瞳から、熱い雫がこぼれた。
「母を残して、逝かないで……」
(――――これが心理です)
声にはせず、
高額な薬には確かに心理効果がある。
だが、嘘は嘘だ。本物には敵わない。
ならば、本物とはなにか。
それは愛する者の声、家族の愛、誰かを思い遣る人の暖かさだ。
累神があらかじめ連絡を取っていたのか、程なくして医官が駆けつけた。星辰が運ばれていく。彗妃は星辰に寄りそい、最後まで声をかけ続けていた。
一部始終をみていた
絶望するように。
(ああ、そうか、夢蝶嬪がほんとうに望んでいたのは)
妙は
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