2‐15嘘に嘘を重ねる
殿舎のなかも信者に埋めつくされていた。いるだけで、熱気を感じるほどだ。水の調べも、患者たちのざわついた喧騒に埋もれている。
女官を連れて現れた
噂が拡散するほど、
最初に祭壇に呼ばれたのは
「御布施です、お納めください」
祭壇にあがった
「こ、これは」
「信仰の証です。かならず、息子を助けてください」
彼女の頭のなかでは秤があがったりさがったりしているはずだ。第三皇子の疾患を治癒し、助けたとなれば、どれほどの名声を得られるだろうか。だが、ほんとうにできるのか。できなかったら詐欺に問われるだろうか。
信者たちは期待に満ちた面持ちで祭壇を仰視している。
かならず第三皇子は救われる、
天秤が、かつんと傾いた。
「――もちろんですとも」
夢蝶嬪が胸を張って、微笑む。
「華光の薬水に治せない病などございません」
ああ、また、嘘を重ねるのか。……疑いもせずに。
「
できもしないことを、できると想いこんでしまうのだ。
夢蝶嬪が杯を満たす。透きとおっていた急須の水が、杯に移されたと同時に琥珀のような黄金に輝きだした。観衆が歓声を洩らす。
「……あれはどうやったんだ」
「あの急須、注ぎ口にも彫刻があるじゃないですか。光が屈折して、周囲の風景が映るので、何かが仕掛けてあってもバレにくい。
ふたりが喋っているうちに
「如何でしたか。甘かったでしょう。効能がある証拠ですよ。かならず、ご健康になられますから、ご安心くださいね」
星辰が頷きかけたのがさきか。
「っ……う」
胸を押さえて、
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