2‐4後宮に胡散臭い噂、漂う
「みて、ほら、あの姿絵」
「まあ、格好いい。口紅の広告なのね」
「知らないの? 姿絵が素敵すぎて、後宮中で話題になってるのよ。入荷するとすぐに売りきれてしまうんだとか」
「誰の絵姿かしら」
「
後宮の町角に飾られた
側を通り掛かった
よほどに敏腕の絵師に描かせたに違いない。
「私、実はさきに予約してるのよ」
「まあ! 私のも一緒に予約してくだされば、宜しかったのに」
話題になっているようで、なによりだ。妙は満足して、町角を通り過ぎた。
…………
……
それからしばらく経ち、
「大好評です。いやはや、さすがは累神様が認めた
「貴公の
「いえ、私個人のご相談なのです。私には
「
「ああ、御存知でしたか」
「会ったことはないが、帝族の
「左様でございます。ただ、その
豪商は言葉を濁す。
「それは心配だな」
「
「なんだ、それは」
「妹はその妃嬪に多額の布施をしているらしく、この頃は私にも無心をしてくるのです」
さっそく食事を始めていた妙は海老焼売を飲みこんでから、尋ねた。
「変じゃないですか? 後宮のなかで商売をするのには許可が要りますよね。でも、そんな胡散臭い商売に許可がおりるとはおもえないんですが」
「仰るとおりです。なので布施は金銭ではなく、絹や宝飾といった物品で募っているそうです。これならば、規則にも抵触しません。実に姑息な手段です、許しがたい」
「へ、へえ、そうなんですね」
妙は咄嗟に視線を逸らす。妙がやっている占い師商売とほぼ一緒だ。妙が報酬として受け取っているのは食物で、ぼったくりを働いているわけではないが、どことなく気まずかった。
累神もそれを察したのか、横で苦笑する。
「まあ、実際のところは金の問題ではないのです。ただ、妹が怪しげな商売に騙されているのではないかと気掛かりで」
豪商の男には後宮内部の事情を探ることはできない。
「
「そうだな。
「助かります」
豪商が頭をさげる。
(まあ、私には関係ないな)
妙はそう結論づけ、蟹の
だが、豪商はこう続けた。
「信じ難い話なのですが、妃には
猫耳に似た
「それ、私も一緒に調査しにいってもいいですか」
「構わないが、めずらしいな」
いつになく真剣な妙の眼差しをみて、
「助かります」
累神が何かを言いかけたが、妙はすぐに匙を持ち、食卓に向き直る。まだまだ料理は残っている。勝負はここからだ。
「ほんとにこれ、最高においしいですね」
妙は結局、提供された料理を完食した。
会食の場においては料理を残すのが礼儀なのだが、海老の尾まで残さずにたいらげる食欲と根性は、豪商が「いやはや素晴らしい」と感心するほどだった。
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