2‐2食いしん坊女官 時々 商売
都の喧騒はごった煮の鍋のようなものだ。
後宮も
暮らしなれた
「取引先と商談があってね。あんたは気にせず、食ってるだけでいい」
円卓に続々と豪華な料理が運ばれてきた。海老チリに酢豚、
(すごい……
どれも死ぬまでに一度、食べられるかどうかといった豪華な品々だ。今、腹いっぱいに食べなければ、後生の後悔になるとばかりにがつがつと食べ進める。さすがは
累神と喋っているのは、みるからに裕福そうな
「
「それなのに、後宮ではいまひとつ、売上が振るわなかったと。そういうことだな」
ふたりとも食事には箸もつけず、商談を続けている。
(もったいないな)
富を振りかざすため、敢えて食べもしない量の料理をならべさせているのだ。これは責任をもって、残さず食べなければ、と
「はは、すでに御耳に届いていましたか。左様です」
豪商はおおげさに眉を垂らした。
「後宮は今、小都といわれるほどの規模になっています。新たな市場としてこれほど素晴らしいところはありません。新たな策を打ちだしたいところなのですが」
「都のやりかたでは、華やかな物品に飽いた妃嬪がたには通じない、か」
「左様です。もっとも、わが
妙は焼売を頬張りながら、思いだす。
そういえば、後宮の大通でそんな宣伝掛け
麗しい女の姿絵を飾る、艶やかな紅。
妙でも印象に残っているくらいなのだから、効果がなかったわけではないだろうが、立ちどまって眺めている妃妾は誰もいなかった。
「階級の高い妃嬪がつかっているとなれば、話題になるのではないかとおもうのですが。如何せん、私には後宮に踏みこむことはできませんので。累神から後宮の妃嬪に御声掛けして、絵姿を描かせていただくことはできますかな」
「女の絵師ならば、後宮に入ることも可能だろうが……」
第一皇子である
「それにしても」
豪商が
「貴公が
「ああ、これでご理解いただけるだろうとおもってね。あなたのところの御令嬢は素敵な御方だが」
茹で海老の殻を剥く指をとめ、妙が頭を傾げた。
(ん?)
話題が不穏なほうに移っている。不穏というか。
(こいつ、まさか)
嘘をついている素振りひとつなく、彼はとんでもない言葉を続けた。
「俺は、彼女を愛しているので」
からんと箸が落ちた。ほうけたように口をあけた妙が箸を取り落としたのだ。
(縁談を断るために私を連れてきたのか!)
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