2-6奇蹟か詐欺か
殿舎は神殿を想わせる造りになっていた。
「
信者たちが歓声をあげる。
青い蝶を模した
信者たちは跪いて腕を掲げ、拝みだす。熱烈な信者に戸惑ったが、夢蝶嬪は慣れているのか、微笑を崩さない。
夢蝶嬪が壇上にあがる。
蝶の袖を拡げ、彼女は殿舎に集まる者全員に語りかけた。
「また病める者達が
「あ、あの、わ、私は……」
「つらかったですね。もうだいじょうぶですよ」
夢蝶嬪は緊張している妃妾を優しく抱き締めた。
続けて、彫刻の施された
「こちらの杯を御持ちになって。
夢蝶嬪は杯と揃いの急須を傾け、透きとおる杯を満たす。
「掲げてごらんなさい」
彫りきざまれた
「まあ、水が光を帯びて……」
「なんて神妙な」
観衆が感嘆の声をあげた。さきほどまで信者たちの様子に戸惑っていた患者までもが有難いと拝みだす。
だが、
(窓から差してきた日光が玻璃の杯に映って、拡散してるだけだ。ちょっと考えたらわかるだろうに)
強い
「光の移ろわぬうちにお飲みください」
「あ、ありがとうございます」
妃妾が感極まりながら、水を飲む。
「甘い……なんて、あまやかな御薬なのでしょう」
「あまやかに感じられたということは、心と身がこの妙薬を
「あ、あ、あれ……」
あれほど酷かった震えが、とまったではないか。
信じられないとばかりに妃妾が手を握って、解いて、確かめる。
「これが
「やらせ、か?」
「……そうか」
累神が祭壇に視線を戻す。
「医官から処方された薬を飲んでも、いっこうにとまらなかったのに、ああ、ほんとうに奇蹟はあるのですね」
「だいじょうぶですよ。またこんなことがあれば、いつでもお越しください。私は、貴女のこころの拠りどころになりたいのです」
感動して涙ぐむ妃妾を抱き寄せ、
(本物――なのか? いや、結論をだすにはまだ早すぎる、か)
妃妾が頭をさげ、祭壇から降りていった。交替に別の妃嬪が祭壇にあがる。その妃嬪は五歳ほどの男児を連れていた。
妃嬪が後ろ暗そうに視線をさげ、夢蝶嬪に訴える。
「その……息子がなかなか、落ちつかず」
「
今、
あれが、豪商の妹だ。
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