16 イケメン時々拉麺
久方振りに春晴れとなった
「一度だけでいいから、
「まあ、ずるいわ。私はこうやってご一緒にお茶をするだけで辛抱しているのに。ね、渡るんだったら、私の宮にきてくださいな」
「はいはい、順に遊んでやるから、それで満足してくれ」
華麗なる妃嬪たちにかこまれ、愛想を振りまいている男がいた。
梅よりも紅い髪に熱を帯びた瞳――
(まあ、第一皇子で、なおかつ後宮の華たちをも凌ぐ超絶美形だもんな。そりゃあ、おモテになられますよねぇ……)
ほんとうならば、下級女官である
「ねえ、あなたも
「
「廃嫡? 第一皇子なのに?」
想わず、声にでた。
第一皇子は愚者だから、皇帝には選ばれないだろうというのが都での噂だった。すでに廃されているなんて、聴いたことがない。
それが真実だとすれば、なぜ。
その時だ。
彼はなにを想ったのか。悪戯っぽく唇の端をあげると、
「累神様が、わ、私に? いやっ、幸せすぎて……もう、だめ……」
妃嬪はか細い歓声をあげたきり、よめろいて崩れ落ちた。腰砕けというやつだ。気障なことをしても確かに彼ならば、絵になる。絵にはなるが。
(よくもあんなこっぱずかしいことを!)
きらきらとしているものにたいする拒絶感がいっきに押し寄せてきた。腰がもぞもぞするというか。とにかく落ちつかない。
気づかなかった素振りをして、咄嗟に視線を遠くにむけ、慌ただしくその場を後にする。小都の雑踏に紛れたつもりだったが、後ろからぐいと袖をつかまれた。
「ほんとにつれないな、あんたって」
「あれ、よかったんですか。折角、綺麗な華にかこまれてたのに」
「なんだ、妬いてくれたのか」
「え、なにがですか?」
ほんきで理解できずに瞬きを繰りかえすと、
「……ま、いいか。それでどうだ。調査は進んだのか」
「微妙ですね。……お腹が膨れたら、なんかわかるような、わからないような」
いいながら、
宮では食事が提供され、宮に属している女官にも賄いが提供されるが、毎食ではない。よって後宮のなかには、飯屋がごまんとあった。女官だけではなく、宮での食事に飽きた妃妾などが訪れることもあった。
飲み食いには銭が要る。下級女官の給金からすれば、拉麺は割とぜいたくだ。
「はいはい、わかったよ。奢ればいいんだろ」
「よっしゃ、ごちになります」
猫耳の髪がぴょこんとはねた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます