15 哀れみには嘘が混ざる
「それはそれは、酷い有様でしたよ」
「甲高い悲鳴が聴こえて、私たちが駆けつけた時にはすでに侵入者の姿はなく、
「瞳を潰されたといっても、
「皆様が聴かれたのはどちらの御声でしたか」
「え、……そうねえ、雨も酷かったから……はっきりとは」
眼窩から頭のなかにまで傷が達していたのならば、即死だ。這いずって、声をだすだけの力があるものだろうか。
「なんにしても……
女官たちが口を揃える。
「あんなに綺麗だったのに、ねえ」
「最愛のお
「
「後宮にまできて、幼なじみの男に下賜されるなんて悔しいと喚いては、
「事件がよほどに堪えたんでしょうね……」
まだ十七だものと女官たちは眉を垂らした。
占い師に頼ってきたのは、下賜のことで思いなやんでいたためか。
裏をかえせば、
(昼椿だったら、宮にも侵入できそうだな。
誰が最も得をしたのかを考えるのが推理の鉄則だ。
(……でも、心理においては、そうともかぎらない)
女官たちは妙をおいて、もはや互いに喋っている。
「まあ、でも、あたしらには今まで通り、横暴なお
「違いない。今朝だって
「医官がきても男に傷をみられるのがいやだと追いかえすし、私たち女官でさえ包帯の巻きなおしだけはさせてくれなくて……化粧だって、昔から
「御可哀想に」
女官たちは一様に眉をさげ、唇か頬に触れながら、喋っていた。
これは嘘をついている時に表れる動きだが、哀れみの表現でもあった。哀れみという心理の裏には、優越感が張りついている。御自慢の顔が可哀想に。最愛の家族を喪って可哀想に。
それにくらべたら、私は幸せだ――
可哀想なものを鏡にして、自身の幸福を再確認するのは悪意ではなく、人のさがだ。だが不幸が重すぎると、優越を感じるのにも呵責がある。だから無意識に宥め行動を取ってしまうのだ。
(となると、女官のなかに疑わしいものは、……いないな)
御礼をいってから、妙は宮を後にした。
(はて、どうしたものか。どうにも理屈が通らない)
うす紅の春風が吹き渡り、思索に耽る
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