14 鴛鴦の瞳は語らない
「
見舞いの言葉も程々に、
「事件の晩の
「なんで、わざわざ、あなたに話さなければいけないのよ」
だが現場にいた彼女の証言は、事件を解くにあたって、きわめて重要なものだ。
それに心理の真髄とは疑うことである。視線、言葉の選びかた、無意識での動きに疑いをむけて、なぜそうしたのか、
「
話を拒絶すれば、
「たいした証言はできないわよ。襲われたのは眠っているときだったもの」
包帯に触れながら、彼女は喋りだす。
「雨続きで、月のない晩だった。だからかしら。不審な男が侵入してきたことに誰も気づかなかったわ。いつもどおり眠っていたら、燃えあがるような痛みが弾けて……」
「なぜ、侵入者が男だとわかったのですか」
「……息遣いが聴こえたからよ」
話の間で割りこまれたからか、
「なにがなんだか解からずに悲鳴をあげていたら、側で
「
「
朝蘭嬪は
「姐様は「誰かきて」「助けて」と叫んでいた。けれどそれはすぐ、絶叫に変わったわ」
「……まさか、姐様が殺されるなんて」
続々と女官がやってきたが、すでに犯人は逃げた後だった。おそらくは廊子から庭に降りたのだろう。現場には血にまみれた
「お辛い話をさせてしまい、申し訳ございませんでした」
証言に嘘があるかどうかは、大抵目線で解かる。
人がなにかを想いだす時、視線は無意識のうちに左をむく。記憶を
となれば、多少強引でも弁舌で探るほかにないか。
「再度、確認させてください。奇襲されたとき、現場にいたのは
「そうよ。それがどうしたっていうのよ」
妙がわずかに瞳を細める。
(……変だな。現場には侵入者がいたはず)
言葉のいき違いということも考えられるが、これだけ重要なことが抜け落ちているとなれば、気に掛かる。念のためにもうひとつ、網を張っておくべきだろうか。
「ご面倒ですが、最後にもう一度、逆順に事件のながれを教えていただけますか」
「……え、ええっと、
証言がしどろもどろになる。逆順をたどれば、侵入者が逃げだした、もしくは女官が集まってきたところから始まるべきだ。なぜ、斬られたところからになっているのか。
「……ああ、もうっ、いいでしょう? 事件のことなんか、もう想いだしたくもないのよ! あれは終わったことだもの」
朝蘭嬪が苛々して袖を振る。これいじょう神経を逆なでするべきではない。つまみだされたら、女官たちにたいする聴きこみにも支障をきたす。
「ご協力を賜りまして、ありがとうございました。事件を無事に終わらせられるよう、誠心誠意努めます」
続けては、女官たちに事情聴取だ。
疑いは等しく。何事も想いこむことなかれ。
それが心理の基本なのだから。
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