大雪




 もしかしたら。

 あいつはこの手の先に居るのではないか。と。


 何度も何度も何度も。

 あいつに似た化け物の、あいつの脱け殻の胸に蹴りの一撃を喰らわして。破壊させて。消して。


 分かっている。

 あいつではないのだと。

 けれど。

 あいつを殺しているのでは、と。

 俺のこの足で。

 何度も何度も何度も息の根を。


 もしかしたら。

 あいつはこの手の先に居るのではないか。と。

 疑ってしまう。

 期待してしまう。


 この。

 俺と同じ大きさの手を取れば。 

 取ってしまえば。


 楽になれる。

 

 もうあいつを。


 違う。

 違う違う違う。

 俺はあいつを殺してなどいない。

 吞まれるな吞まれるな呑まれるな。


 早く。

 早くあいつを見つけなければ。






 不規則に点滅する赤ランプに照らされながら、俺は廃工場の壁に背を預けた。

 先程まであいつの偽者がそうしていたように。

 ひどく冷たかった。

 トタン壁に接する背中だけではなく身体のあちらこちらが。

 まるで。


 まるで、死者に触れているようで。


 冷たすぎる温度に耐えきれないと悲鳴を上げた身体は望んだ。

 同じ温度になりたいと。

 同時に。

 同じ温度になりたくないと。


 拒絶する身体が熱を求めたのだろうか。

 涙が生まれ出た。


 上氷のように薄く。

 荒波のように厚く。

 松葉のように細く。

 暁露のように丸く。


 火傷しているのではと錯覚してしまうくらいに。

 熱かった。











(2022.11.28)


  

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