エピローグ

 目を開くと、目の前には白い天井があった。学校かと一瞬考えたが、視界の端に、点滴がぶら下がっているのを見て、ここは病院なんだと気づいた。

自分のお腹に痛みを感じ、さっきまで?どれだけ寝ていたか分からないが、自分の記憶ではさっきなので、さっきまでの記憶がよみがえった。

僕は急いで飛び起きようとした 。

「大丈夫です。」

横から、起き上がろとした僕を、女性の声が止めた。声の主はアンニだった。

「アンニ、みんなは・・・」

その言葉を言う前に、横で香蓮と悟志が眠っているのを見た。窓を見ると、外は夜だった。

「鈴音は?」

「無事です。怪我がひどかったので、隣の病室で寝ています。」

僕はそれを聞いて、安心して目をつぶった。

「敵はどうなった?」

「異世界に送り返せました。警察官の方も無事です。ゼロさんも経験したように、魂によって変化した身体は、傷は引き継がれないようです。」

確かに、あの時、ゼロに変身したとき、貫かれた腹の傷はふさがっていた。しかし・・・・

「傷がなかったことにはなりません。」

アンニが僕の顔を、泣きそうな顔で見た。心配する顔は何度も見たが、こんな顔は初めて見た。

「死んでしまうかと・・・思いました。もう、無理を・・・」

「・・・するよ。」

僕の声に、アンニは驚いた。アンニは正義のためとはいえ、人が傷つくのをよしとしない。ずっと起きていたのも、僕に謝罪するためだ。そして、いなくなる。僕たちから距離をとる。

「アンニ・・・」

僕はアンニの手を握った。離さないように、強く握った。

「ゼロさん?」

再びアンニは驚いた。

「暖かい・・・本当に・・・ここにいるんだ。」

僕は握った手を見つめた。アンニは身体が少し後ろに下がる。

「ド・・どうしたんですか?」

アンニが戸惑いながら、早口で焦る。

「嬉しいんだ。アンニがここにいるのが、たまらなくうれしいんだ。」

「え・・・・?」

僕はアンニの顔を見て笑う。アンニはひたすら困惑していた。

「なんか・・・会った時は言えなかったけど、僕はアンニに会えてよかった。」

「何で・・・今?」

アンニは掴まれていない、残った手で口を抑える。目からは涙がこぼれていた。

「敵はまだいるんだろ?」

「・・・・・。」

「僕が、君を守るよ。」

「でも・・・・」

「大丈夫。」

僕はアンニの目を見て、はっきりとした声で言った。そして、寝ている二人を見た。アンニもつられて二人を見た。

「みんなもいる。」

アンニは何かを言おうとしたが、その言葉を飲み込み、涙を止め、僕を見た。

「でも・・・・これ以上・・・」

責任が、彼女にその一言を言わせなかった。彼女の身体が透け始める。あの時の様に消えそうだ。

「僕は・・・・」

アンニの肩が、震える。手から彼女の感情が流れ込んでくる。

「アンニを、本物だと思ってる。・・・・だから、私に守らせてくれ。」

掴んでいた手がすり抜け、つかめなくなった。僕はそれでも掴もうとするが、手はすり抜け続けた。

「私と戦ってくれますか?」

願いと、希望と、勇気と、色々な感情が混ざり合ったその涙を、僕は受け取った。

「当然だ。僕が君の騎士になる。」

アンニは笑った。目は泣いていたが、安心して涙をながした。

「零次君。」

名前を呼び、アンニは僕に抱き着いた。残念ながら、消えかけているから感触は一切ない。アンニは僕の耳の横でつぶやいた。

「ありがとう、私の騎士。」

アンニは光と共に、姿を消した。

僕は窓の外の月を見て、少しの間惚けていた。

「そんなにハグが嬉しかった?」

僕の肩がビクッと震えた。

「レイ、傷大丈夫?」

「いつの間に入ってきたんだよ!」

怒涛の言葉に、僕が振り向くと、そこには起きている香蓮と、悟志、そして、いつの間にか病室に入ってきた鈴音が居た。

「お前ら、いつから・・・・」

「僕が、君を守るよ。」

「暖かい・・・本当に・・・ここにいるんだ。」

「・・・するよ。」

何故か全員決め顔で、僕の言葉を真似した。恥ずかしさと、怒りで顔を手で押さえる。

「お前ら・・・・てか、何で鈴音が一番最初から聞いてんだよ。」

「いつ入ってきたんだろうな。」

悟志は笑いながら、僕の肩に手を置いた。

「まあ。でも良かったよ、みんな無事で。」

「これ・・・無事か?」

悟志の言葉に、僕は鈴音と僕の姿を見て呟いた。

「あのさ・・・・みんな・・・その・・・頼みが。」

僕は目をそらし、歯切れ悪く、ぼつぼつと呟く。

三人が静かになったのを感じ、顔を上げた。三人は僕の顔を、きょとんと見ていた。そして、三人は目を合わせ、笑った後、ニヤニヤしながら、再び僕を見た。

『当然だ、僕が君の騎士になる。』

三人は口をそろえて、そう言った。僕は恥ずかしさを通りこして、笑いだした。つられて三人も笑いだす。夜なのと、病院なのもあって、看護師さんに4人まとめて怒られた。

「ありがとな・・・みんなり」

僕はそうつぶやいた。香蓮も、鈴音も、悟志も、笑って頷いた。

まだ、この世界で起きた事件は、何も解決していない。敵はまだ沢山いる、戦いは始まったばかりだ。だから、これは序章に過ぎない、この物語はただのチュートリアルだ。僕がゼロになる、ゼロが僕になる物語、僕は女騎士だ。

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僕は女騎士 伊流河 イルカ @irukawa

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