第7話
◇◆ ◇◆ 一七年前・十一月二十六日(土曜日) ◇◆ ◇◆
今日お兄さんの仕事はお休み。
朝早くから窓を打つ雨の音で目を覚ました私達。休みなのにいつもより早い時間にお兄さんと向かい合っている。
「リエラ、お前が俺と一緒にいたいって気持ちは今だけの事か?それとも、その、この先もずっとなのか?」
「私は…… ずっと一緒にいたい。この気持ちが、好きなのかどうかわからない。でも、お兄さんと家族になれたら、幸せになれそうな気がするの」
「家族って…… それ、結婚……」
「はい、やっぱり、お兄さんと、ずっと一緒にいたいです……」
気持ちが抑えられない。お兄さんと結婚、でも、そうか、家族になるっていう事は結婚するしか無いんだ。でも、お兄さんは……
「リエラはさ、俺との歳の差って気にならないのか?」
「歳の差…… 気にしてなかった」
「なら、俺がこう言ったらどうする?」
「なんです?」
「リエラ。俺と結婚してくれ」
「っ!本気にして、いいんですか?」
「こんな事、冗談で言えるかよ」
「嬉しい、嬉しいです。
「初めて名前呼んでくれたな」
私とお兄さんは止め処なく結婚を前提としたお話しをして午前中を過ごした。
でも、わかってる。これは実現出来ない事も。だって、未成年の私が結婚するためには親の同意が必要なことも。そして私の父はお金のために私を売った事も知っている。
午後になってお兄さんから「リエラの家に行って来る」そう言われた私の体はビクッと跳ねた。私は家に帰りたくない。その想いが伝わったのか「住所を教えてくれ。俺だけで行ってくる」そう言われても不安が
「俺を信じてくれないか?」
「でも……」
「そんなに心配なら、一つだけリエラに頼みたい事がある」
「頼みたい事、ですか?」
「ああ、リエラにとって
「わかりました。お兄さんを信じます」
◇◆ ◇◆
リエラには実家へ来る途中のファミレスで待っていてもらう事にした。
彼女の父親には事前に「彼女から相談を受けていて、その事で話がある」と伝えて約束を取り付けた。
そして今、リエラの実家の扉を叩く。
俺の気持ちを表すかのように雨足は強くなっている。
「はい」
不機嫌そうな男性の声が家の中から聞こえてきた。
「連絡をした
玄関の鍵が開くガチャリという音が聞こえたあと「入れ」というぶっきらぼうな声が俺を招き入れる。
「失礼します」
俺はリエラから聞いた話を彼女の父親に伝え、その上で彼女の希望を伝えた。想定していた通りに「認めない」という返答が返ってきた。
「どうしても彼女を自由にしてもらえませんか?」
「他人のお前にとやかく言われる謂れはない」
「そうですか。それならこれを持って出るところに出させて頂きます」
取り出したボイスレコーダーの再生ボタンを押す。そこから流れ出したリエラの声はこれまでの事を淡々と語っている。当然その中には、彼女が不当に扱われていた事も語られている。
「ぐっ」っと呻き声を上げた父親は憎々しげに俺を睨みつけてくる。
だが、俺もここで怯む訳にはいかない。
「
結婚資金として貯めていたお金の中から二百万を差し出す。父親の喉が「ゴクリ」と音を立てた。喉から手が出るとはこういう状況を言うのだろう。
「どうですか?認めていただけますか」
「わかった。リエラはお前に任せる」
「では、こちらの書類に署名と捺印をお願いします。そのあとは、もうリエラには関わらないでください」
俺の提示した書類に署名、捺印を済ませた父親は俺を睨んだあと、それを俺の方に差し出してくる。不備がない事を確認した上で結納金を差し出す。
「これでもうあなたはリエラに関わらないでください。破るようでしたら然るべき対応をとらせて頂きます」
「ああ、わかった。お前も俺には関わるな」
こうして何とか話をつけてリエラの実家を後にした。
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