第3話
◇◆ ◇◆ 一七年前・十一月二十二日(火曜日) ◇◆ ◇◆
朝ご飯のおかずにだし巻き卵に挑戦してみた。
結果は上手く巻く事が出来なくて不恰好なものが二つ。見た目のマシな方をお兄さんに。お味噌汁は台所にあったインスタント。
「見た目はアレだけど、美味しいよ」
「むぅ、絶対に上手に作れるようになるもん」
「はいはい、頑張れ」
「それまで、お兄さんが見ててよ」
「はいはい、はぁ!?」
「えっ!?お、お兄さんっ」
「い、いや、今のは、言葉の綾だからなっ」
なんとなく恥ずかしくて目を合わせる事が出来なかった。
「じゃあ、俺、仕事に行くわ」
「うん、お兄さんいってらっしゃい」
「ああ、いってきます」
幸せな家庭っぽい。いいなぁこういうの……
◇◆ ◇◆ リエラ(お留守番) ◇◆ ◇◆
昨日に引き続き、お兄さんの元カノの荷物を片付ける。
歯ブラシやお箸なんかの日常的に使っていたと思われる物はどんどんゴミ袋に入れていく。
ボディソープ、シャンプー、コンディショナーなんかは「俺のよりそっちのが高くていいヤツだ」と言われたけど元カノさんのは使いたくなくて、お兄さんのを使っている。
「コレも要らないよね」
私は、私を受け入れてくれたお兄さんに甘えて、こうして居場所を作ろうとしている。だから「元カノさんの痕跡は無くしたい」思っていた言葉が他に誰もいない部屋に響いて溶けた。
午後になって指定の集積場所にゴミ袋を持って行き、その足で昨日のスーパーに向かった。
昨日は気がつかなかったのだけどスーパーの入り口にレシピを書いた紙があった。何種類か選んでその材料を買って帰る事にした。
それから衣料品コーナーに向かって下着を数点購入する事にした。お洒落なのは無かったけど、えっちなのはあった。一枚だけそれもカゴに入れた。
「お兄さん、どんな反応するかな?」
裸にワイシャツで迫っても手を出してこなかったお兄さんの事だから取り乱したりしないんだろうなぁ。想像するのが楽しい。
◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆
一九時過ぎ、そろそろ帰って来るかなと思ってカレーを温め始める。ご飯もあと少しで炊きあがるからお兄さんが帰って来る事が待ち遠しい。
ふふっ、どんな反応するかな。
玄関の方からガチャっと鍵の開く音が聞こえてきた。
今日は玄関まで迎えに行こうと決めていた。タタっと足音を立ててお兄さんの元へと向かう。
「ただい、まぁ!?おまっ、その、格好はっ!?」
「おかえりお兄さん。どう?グッときた?ね」
裸エプロン(に見えるように)して見たんだけど、お兄さんの反応は予想外(まさか狼狽えてくれると思わなかった)で照れるよぉ。
「……あんまりそんな風に揶揄ってると襲われるぞ、お前」
「お兄さんが襲ってくれるの?いいよ…… お兄さんなら、ど・う・ぞ」
「ばっか……」
なんとも言えないこのバカなやり取りが私は愛しくなり始めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます