なんやかんやで体育館倉庫に閉じ込められた二人

南城矢萩視点

 体育館倉庫である。

 俺の目の前には、バレーボールがぎっしり詰まったカゴや、ずらりと並んだハードルがある。体育館倉庫なのだから当たり前だ。


 なんやかんやで俺と夜宵やよいはこの体育館倉庫に閉じ込められたのだった。


「困ったね、はぎちゃん」


 不安そうに眉を下げ、夜宵がへにゃりと笑う。


 時刻は十七時を過ぎたところだ。さっき、『ゆうやけこやけ』が流れていたから間違いない。運悪く本日はテスト最終日だったために、部活動も休みだ。ウチの学校はテスト最終日も部活がない。「どうせお前達、徹夜で勉強したりして疲れてるだろ? 今日はもうゆっくり休め」というありがたい配慮というやつだ。


 だから、少なくとも生徒はここに来ない。宿直の先生が見回りには来るかもしれないが。


 そんな状況下に、いま置かれている。


 俺達は、マットを敷き、跳び箱を背凭れにして並んで座っている。拳三つ分くらいの距離をあけて。


「困ったな」

「まさかどっちも荷物全部廊下に置きっぱとはね」

「そうなんだよな、クソっ、スマホあの中に入ってるのに!」

「僕もそうなんだよね。だから、助けを呼ぼうにも……。でもさ」

 

 そう言って、扉を指差す。


廊下あんなところに学生鞄が二つも置いてあったら、宿直の先生もさすがにおかしいと思ってくれるんじゃない?」

「確かにな」

「中を開ければ個人を特定するものが入ってるし、そうしたら親にも連絡は行くだろうし。さすがに探してくれるでしょ」

「じゃなかったら、俺は親を恨む」

「だからまぁ、気長に待とうよ。ジャンパーもあるし」


 着てて良かったよね、なんて言って、夜宵は肩を擦る。寒いのかもしれない。こいつは昔から体温が低めで寒がりなんだった。


「もっとこっちくれば」

「へ?」

「い、いや、その、別に変な意味じゃなくてさ。夜宵、結構寒がりじゃん。風邪引きやすいし。くっついてた方が多少温かくねぇ?」

「うん、まぁ、そうだけど。なんか虚弱みたいで恥ずかしいな」


 照れたようにそう笑いつつ、ずりずりと距離を詰めてくる。肩が触れた程度で温かくなるか、と言われたら、ぶっちゃけそうでもないのだが。


 ないと思っていたのだが。


 っつ!

 

 暑いのである。

 いや、熱があるとかじゃなくて。

 何ていうか、興奮しすぎて?! 絶対いま俺体温38℃くらいあるって!


 ていうか、夜宵めっちゃ良い匂いするんだけど! こんなの思春期の男子から香って良いやつじゃねぇから! おい、どんなシャンプー使ってるんだお前! これ以上俺をドキドキさせるな!


 なんで俺がこんな興奮して暑くなってるんだ、と思わないでもないのだが、好きなやつと例え一部でも密着していればこうなるわけで。いや、夜宵が寒がってたら意味が――、


「な、なんか暑いね」


 暑いとな!?

 えっ、やっぱり俺の体温そこまで届いてた!? だとしたら40℃くらいあるだろ! 学ランも着て、さらにジャンパー着てんだぞ!?


 隣を見ると、夜宵はジャンパーのファスナーをきっちり上げて鼻から下をすっぽりと隠している。露出している部分が真っ赤だ。


「や、夜宵!? 熱でもあるんじゃないかお前!? 真っ赤だぞ!?」


 慌てて前髪を掻き分け、額に触れてみるが、思った以上に熱くはない。


「ないってば、大丈夫。でもさ」


 す、と夜宵の手が伸びる。何だ何だと思っているうちに、ひんやりと冷えた手の甲が俺の頬に触れた。その冷たさに、びくりと身体が震える。


「萩ちゃんだって顔真っ赤じゃん」

「そ、そそそそれはその、何ていうか」

「何ていうか……何?」


 眼鏡の奥の潤んだ目で、じっと見つめられる。頬に触れていた夜宵の手は、行き場がないのか、なぜか俺の肩の上だ。

 何かを訴えるような、伝えようとするような、そんな顔を見れば、もしかして夜宵の方でも俺のこと好きなんじゃないだろうか、なんて勘違いしてしまいそうになる。


 だけどもし、いま俺が手を取って、それをあいつが拒まなかったら?


 勘違いじゃなくて、確信になるんじゃないだろうか。


 いつまでも親友のままじゃなくて、もし、その先に進めるなら。


 そんな欲が出て、肩の上の夜宵の手を取った。

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