遠藤初陽視点
俺の名前は遠藤
だが、そんな名前を逆さにしてなんやかんやすれば『ハッピーエンド』の俺である。そんな名前だからなのか、俺の周りにはカップルが多い。しかもその大半が俺の一押しによって成立しているのだ。そのため、俺は密かに『ハッピーエンド請負人』などと呼ばれていたりする。もちろんすべて同性カップルだ。
いくら男子校と言ってもだ。そりゃあ同性よりは異性の方が大好きな野郎共の集まりである。なんならカップル成立したやつだって、ほんの数ヶ月前までは他のやつらに混じって「彼女ほしい!」と叫んでいたりもする。
けれども、だ。
男子校というある意味特殊な環境下においては、この「本来は女子が好きなんだけど、何かクラスメイトのアイツも可愛く見える」みたいな現象が度々起こる。それを一時の迷いとするか、恋と思い込むかによって、その後の展開は大きく変わって来る。俺はその背中を押しただけにすぎない。
というわけで、目下、この俺を悩ませているのは――、
「どうしたの
「やるよ」
こいつらである。
同じクラスの
こいつらはどこからどう見ても両想いなのである。
それは俺が『ハッピーエンド請負人』だからわかるとか、そういうことではない。もうクラス全員知ってる。神田のクラスの方ではわからないけど。でも少なくともウチのクラスは全員知ってる。二人共、好き好きオーラがだだ漏れなのである。どうしてバレてないと思っているのかも不思議だし、どうしてくっつかないのかも不思議である。ウチの学校の七不思議の八つめはこいつらなんじゃないかって専らの噂だ。
だからもう背中を押すというか、気持ちの上では後頭部をがっつり押さえてキスさせるくらいの気持ちで十一月十一日でもないというのにポッキーゲームを提案したというわけである。もちろん、放課後のこの時間、神田がウチのクラスの前を通ることもちゃんと知ってる。南城、お前は俺に感謝しろ。
ああもうはよキスせぇ。
もどかしい。
正直もどかしい。
何やらペナルティまで設けて勇ましくスタートした割に、亀の歩みより遅いのである。何? 表面のチョコ溶かしながら食ってるわけ? 普通に噛んでるんだとしたら逆にすごい。
もういっそ、二人の後頭部をわし掴んでぶちゅっとやってしまいたい。ただ、いくら菓子とはいえポッキーだ。そんなことをすれば片方――最悪両方死ぬだろう。俺は人殺しになりたくない。
見守るしかないのである。
無駄としか言いようのない時間がどれくらい経っただろう。
あまりじろじろ見るのもよろしくないかもしれないと、スマホゲームに興じつつ、その時を待っていると――。
来た!
あと数センチのところまで来た!
まぁポッキーなんていうものは、両側から咥えれば残りは数センチくらいのものではあるのだが、これはもう数センチも数センチ、何なら1インチ(約2.54センチメートル)くらいまで迫っているのではなかろうか。果たしてインチに直す必要があったのか。その辺は雰囲気で感じ取ってほしい。ていうかポッキーゲームって何をどうした方が勝ちなんだ? 正直提案した俺自身もあいまいなルールではあるが、この際ゲームなんかどうでも良いのである。
はよキスせぇ。
これである。
どうする、両者ぴくりとも動かなくなってしまったぞ。
この二人はいつだって、この数センチ、いや、1インチが詰められないのだ。詰められない二人だからこそ、いつまでも『親友』どまりなのである。
行け、南城! お前から動けば茶髪チャラ男攻めだ!
やれ、神田! お前から動けば黒髪真面目君攻めだ!
正直どっちも美味しい。
手に汗握る展開である。
さぁ、どっちだ!
どっちが動く!?
固唾をのんで見守っていると――、
「こら、いつまで残ってるんだ!」
「!!?」
「!!?」
「!!?」
ガラッと勢いよく開いたドアから顔を出したのは、教頭である。
てめぇこの野郎。いまのでびっくりしてポッキー折れちまったじゃねぇか!
あのポッキーはな、ただのポッキーじゃなかったんだぞ!
あと数センチ……じゃなかった1インチで二人の関係が変わるかもしれなかったポッキーなんだ。それをお前……っ!
とにもかくにもなんやかんやで始まったポッキーゲームは強制終了となり、南城と神田は、何やら微妙な空気になりながらも仲良く二人で帰ったのだった。
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