エンタメの国の【吊るし上げ】ロックオン・フェスティバル!

 七色の髪を待つ魔法使いが、空中に映し出された大画面の映像に向かって、小さな杖を振っている……、杖が向いた映像には、丸い黒点ポイントが出現し、今どこに注目して欲しいのか――を、分かりやすく示してくれている。


「最近、アタシに寄せられてきたコメントがこちらねー……まあ例のごとく、誹謗中傷、もしくは批判コメントなんだけど、しかし中身がないわね、薄いというか……。

 取り上げられたニュースだけを切り取って、第一印象で意見を言っている感じ。なんにも分かってない……。えーと、この方はアカウント名【地獄のお兄さん】さん、らしいですけど……、お名前にセンスがないようですね」


 と、虹の魔法使いが次々に批判コメントを紹介していく。

 全てを否定し、貶しているわけではなく、納得した意見にはきちんと肯定を示している。

 指摘された部分をきちんと反省し、改善点をこの場で考え、言葉にしている。

 曖昧に「次から直します」で終わっていないところは、彼女らしさが出ていた。


 だけど、言われた側が納得するような意見は、十件あっても一件あるかどうかくらいだ。それ以外は的外れだったり、間違った指摘だったり、周りに流されて言った一言だったりなど、ただ単に他者を攻撃したいがゆえに言っているだけのコメントだった。

 そういうものに関しては、コメント自体に添削を入れている。つまり批判コメントを批判している……、評価をしていると言うべきか? 彼女の場合は『五段階・評価』である。


「このコメントは、言っていることはちょっと的外れだけど、でも文章的には上手いわね……大喜利的にも笑っちゃったから……評価は『四』でいいんじゃないかしら。【顎の下のベーコン】さん、コメントありがとうございまーす」


 コメントとアカウント名は必ず一致させている……、評価は関係なく、誹謗中傷コメントだろうと、絶賛コメントだろうと、誰がなにを言ったのかをはっきりさせ、それを周知させている――これが目的だ。


 匿名とは言え、アカウントとは人物の内の一つの看板だ。鍵がついているものなら問題だが、全員が見れるように設定しているコメントを、影響力のある人間が大々的に紹介したところで問題はない。だって、彼女が紹介するよりも以前に、全世界へ発信しているのだから。


 売れている本、売れていない本を紹介しても問題がないように。

 既に流通しているものなのだから、どこでどう紹介しようと問題ないだろう?


 別に、これは趣味であり、お金を取っているわけではないのだから。


「あ、おっとこれは……『人のコメントを晒して、アカウントを紹介しないでください』……ですって。事前に言っているんですけど、もしも嫌であれば、アカウントにその旨を書いておいてください。

『私は誹謗中傷をしますが、虹の魔法使いさんのチャンネルで紹介をしないでください』みたいにね。そうすれば紹介はしないから。

 あと、ダイレクトメッセージはここで晒すかもしれません、と一言、注意を書いているので、紹介されても文句を言わないでくださいねー。

 紹介されるのが嫌なら書かなきゃいいだけの話なので、簡単でしょう?」


 誹謗中傷コメントについて、虹の魔法使いは別に否定的ではない。

 言う自由があるのだから言えばいい……、ただし、そのコメントをこうして紹介する者もいるので、リスクゼロで言うことは難しいですよ、と主張しているわけだ。


 匿名だが、そのアカウントでしたいこともあるだろう……、安易にするコメントはそのアカウントが機能しなくなるかもしれない……。そういうリスクも背負うべきだ。

 だから誹謗中傷『専用』のアカウントを作るべきだが……、それこそが、虹の魔法使いにとっては『おもちゃ』である。


 多種多様な意見がある世の中だ。

 特にここ、エンタメの国には、体現者、芸術家がたくさんいる。そこに寄せられる声は多いし、あらゆる角度から意見がある。


 そう、ここはエンタメの国であり、コメントも芸術であり、エンタメだ――。

 そしてそれを批判するのもまた、エンターテインメントとしての可能性がある。


 誹謗中傷のコメントにも『センス』が必要になってくる時代である。


 虹の魔法使いが起こした革命とは、批判コメントの大喜利化――。


 いかに面白く、楽しませるコメントを書けるのか……、これが周知されていけば、ぶっ飛んだコメントも、大喜利の答えとしてパッケージされるだろう……。

 元々の誹謗中傷コメントに、殺傷能力がなくなってくれるかもしれない。


 誹謗中傷コメントに誹謗中傷コメントがつくという時代が、すぐそこまできている――。



「さあっ、みなさん今日はここまで。

 誹謗中傷コメント、どしどし応募、お待ちしてまーす!!」



 絶対になくならないものを弾にした武器を作ってしまえば、なにもしなくても弾は装填されていく。そういうカラクリを成立させてしまえば、一生使える、『商売道具』だ。

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