第64話 郷に従ったよ!

 さて、そろそろ本題に入ろうかな。


「そう言えば新しいスキルを覚えたんでした」


「な、なんですって!?」


「ええ。つい先程の事なので、僕も使い方を把握していると言えませんが、なかなか便利なスキルですよ」


「こんなに早くスキルを覚えるなんて、やはり転生者は特別な何かがあるのでしょうか?」


 そう言えば祖父もレベルアップまでスキルは覚えなかったと言っていたし、初めからスキルを持ってるのは上級職に多いとか言ってたっけ。


 これが転生特典なのかは判らないけど、どっちにしても戦闘には向いてないスキルなので、ダンジョンで無双みたいな事は出来ないよね。


「それで、新しいスキルとは何と言うのですか?」

「配達です」


 焦らす必要もないので伝える。


「配達…ですか」


 何か微妙な反応だけど、ハズレスキルとかじゃないよね?


「配達は運搬系のスキルとして、それほど珍しくはないですね」

「そうなんですね」


 先生はスキルが配達なのは意外な感じのようだが、いくらなんでも突拍子もないスキルばかり出たりしないでしょ。


「ええ。確かこのスキルがあれば、配達先に行く時に迷わないと言っていましたね」


 現在地がわかるのだから当たり前だね。


 運搬系のスキルだと、何が出来るかによって給料も変わるから、スキルの申告をする人が多いらしい。


 その中でも配達間違いがなくて便利なスキルと言う事で、重宝されているんだとか。


 あれ?僕みたいにステータス画面を切り替える事が出来ないのなら、どうやって現在地を確認しているのだろう?


 先生に聞いてみたら驚いていた。


 そもそもスキルは何となく使い方が解るから、ステータス画面で確認する事がないのだそう。


 確かに、お財布スキルはステータス画面から物を入れなくても、お財布に設定した鞄などで出し入れ出来るから、ステータス画面はオマケのようなものとも言える。


 それじゃあ、ステータス画面から操作するのって、スキルの使い方としては間違っているって事!?


 ゲームのイメージで、ステータス画面から魔法やアイテムを使うのが当たり前みたいに思っていたかも。


 ええ?じゃあ、この世界の配達スキルは、何となく配達先の人が向こうにいるとか判るって感じなの?


 んんん?あ、何か判るかもしれない…


 なんてこった!

 一々、画面を開いて後何メートルとか確認しなくても良かったんだ。


 目の前に配達先があると感じる…って、そうだよ、うっかり手紙渡すのを忘れてた。


「先生、どうやら僕のスキルの使い方がおかしかったみたいです。それから、これはお祖父様から先生宛に預かった手紙です」


「あの、ヴィンセント様?何か落ち込んでらっしゃいます?」


「いえ、自分の頭の固さに驚いただけです」


「まさか!ヴィンセント様の発想はとても柔軟ですよ!私達では思い付かないような使い方ですし」


 それは前世の知識からの発想なので、柔軟な訳ではないんですよ。


 そうだよ!異世界に入っては異世界に従えだよ。


 先ずはこの世界の人のようにスキルを使わないと、何か見落としてしまう事があるかもしれない。


 基礎が出来ていないのに、いきなり応用から入るのは駄目だよね。


 と、言う事で先生に一般的なスキルの使い方を聞いてみる。


「先程も言ったように、何となく使い方が解るので、その通りに使っていると、ある時不意に新しい使い方が解ったり、スキルが増えたりするんですよね」


 なるほど…つまり全ては考えるより感じろって事ですね?


 凄く脳き…ゲフン…本能…身体に染み付いたやり方なんだね。


 う~ん。

 お財布を使うよと思うと、確かに何となく使い方が解る。


 配達も同じだな。

 お?渡す物を手に持つと、更にハッキリと方向が判るね。


 これなら迷わないのも頷ける。


 でも距離感は判らないな。

 なんとなくボンヤリと向こうの方って感じるから、移動したら近付いているとかを感じるのかな?


 凄く遠くにお使いを頼まれたらどうなるのか気になるよ。


 と言って、もし頼まれても届けに行けないから困るけど。


 でも、何となくだけど、このスキルは配達先が判るだけではないような気もするんだよね。


 スキルの経験値が足りないからか、今は何が出来るかわからないけれど。


 きっと、ある時不意に新しい使い方が解るのだろうから、今は置いておくよ。

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