第63話 褒め殺しだよ!
どうやら先生がセザーニア邸に到着したようで、現在地が南西20mになっている。
邸内に入ったと思うのは、さっきよりもスピードが落ちたので馬車を降りたと推測出来たからだ。
これ、マジで便利だね。
でも出来ればカーナビの様に、ノースアップとヘディングアップが切り替え出来ればいいのに。
方角がわからない時に、南西になんて言われてもどっち方向に進めば良いのか判断出来ないよ。
僕から近付く時は、進行方向で右とか左とか表示される方が判りやすいよね。
何か切り替える方法はないかと、現在地の表示をタップしたり試していると、方角の箇所を長押ししたら変更出来た。
おお、これで便利になったと喜んでいたら、先生が部屋の前に到着したみたい。
「ヴィンセント様、オリバー先生が来られました」
「どうぞ、入ってもらって」
ノックの後でカレンの声がしたので返事をする。
「ヴィンセント様、おはようございます」
「オリバー先生、おはようございます」
ニッコリと笑うイケメンと、冷ややかな表情の侍女の対比が酷いです。
でも今朝のカレンは機嫌が良かったので、どうやらまたツンが発動しているようだね。
僕と先生が定位置に着くと、カレンが部屋を出ていく。
「ヴィンセント様、昨日はご挨拶もせず先に帰って申し訳ございませんでした」
「いいえ、僕の方こそご挨拶出来ず申し訳ありませんでした」
この辺は礼儀としての挨拶だから、きっちりとしておく。
「では、早速ですが宿題は出来ておりますか?色々ありましたから、出来ていなくとも叱ったりしませんよ」
「ちゃんとやりましたよ」
「流石はヴィンセント様ですね!」
ドヤ顔で宿題の書き取りと簡単な計算問題を提出する。
まあ、1桁の足し算と引き算だから、手間もかからなかったし。
むしろ書き取りの方が時間がかかったよ。
家族の名前と先生とカレンの名前をフルネームでだからね。
手紙を書く時は、自分の名前はもちろん相手の名前を間違うのは絶対に駄目だから、ちゃんと綴りを間違えないようにするのは基本なんだよ。
「素晴らしいです。ちゃんと間違えずに書けていますね。計算も1問だけミスがありましたが、落ち着いて考えれば大丈夫でしょう」
全問正解はまずいかと思って、1問だけミスした事にしたが、よく考えたら転生者ってバレてるんだから、こんな簡単な計算を間違う方が逆に恥ずかしいわ。
「すみません、全問正解するのは年齢的に変かと思ってわざと間違えました」
「ふふ。そんな事だと思いました」
僕が正直に告白すると、先生は笑って頭を撫でてきた。
「無理に大人ぶる必要はないんですよ。貴方の前世がどうであれ、今は子供なんですから子供っぽくて構わないのです。天才なんて言われたくない気持ちも理解出来ますし、普通の子供のフリは大変かもしれませんが、私も協力しますからね」
なんてイケメンなんだ!
くぅ~こう言う所にカレンも惚れたんだろうなぁ。
「オリバー先生…」
感動してウルウルと先生を見上げる。
「あ、私はカレン一筋なので、いくらヴィンセント様でも私に惚れては駄目ですよ!」
ほら、そういうとこだよ!
いつも残念な感じになるんだから!
「それより先生、新しいスキルの使い方を発見したので検証しませんか?」
こう言う時は無視するようにカレンに言われているので、先に昨日の実験結果について説明する。
「やっぱりヴィンセント様は天才ですね!ステータス画面を遠くに出すなんて事は思い付きませんでしたよ!」
さっき僕の気持ちを理解したと言ったばかりなのに、舌の根も乾かない内にそれを言うとは。
だが許してあげよう。
ここで指摘しても、スキルの検証が後回しになるだけだし。
結果としては、先生にステータス画面の辺り目掛けてキャンディを入れて貰ったら、入れるぞと言う明確な意思があれば入ったのだった。
これでお財布の使い方が広がるよ!
と思ったけど、他人にはステータス画面が見えないので、目の前にいるならまだしも、遠隔ではそこにあるのか判断が出来ないから、物を入れる事が出来ないと言う問題に気付いてガッカリしたよ。
「落ち込まないで下さい。ヴィンセント様の方からは遠隔でも物を取り出す事が出来るのですよね?」
「はい」
「なら、話は簡単ですよ。まずヴィンセント様が手紙を出して、ステータス画面を開く事を教えて下されば、手紙のあった上辺りから入れる事が出来ますよ」
「まさかそんな使い方が!?先生こそ天才ですね!」
「いえいえ。私のはただの応用です。ヴィンセント様の閃きの方が天才ですよ」
2人で暫く褒め合いっこをしたよ。
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