第61話 いっぱい居たよ!
「こほん。それにしても祝福のために王都に来るとは、珍しい事もありますね」
「そうだな。私も出不精なシャルダン伯爵の事だから、領都の教会で祝福を受けると思っておったが、もしかしたらお前との関係を修復する気になったのかもな」
「そうだといいんですが…シャルダン伯爵も来られるのでしたら、王都に用があるついでなのでは?」
「そこまでは手紙に書いてなかったから、直接聞いてみるしかないのう。今から手紙を出しても行き違いになるだろうし」
「そうですね。はぁ…では、ジューン達が来たら連絡を下さい」
「お前の事情もわかっておるから、今から辛気臭い顔をするでない」
何だか父の顔を見ていると、僕の方も嫌な予感がしてくるんだけど。
ピエールみたいなパターンは勘弁して欲しいよ。
「さて、あまり遅くなるとクラウディアが泊まって行けと言い出すから、そろそろ出た方がいいだろう」
「そうですね。では、今日は帰ります」
「お祖父様、今日はありがとうございました!」
「ああ。また何時でもおいで」
「はい!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
漸く我が家に帰って来たよ。
案の定と言うか、祖母が泊まって行けとか言い出したりしたが振り切ったよ。
なんだか1泊しかしていないのに、中身が濃くて数日経っているような気分がする。
「ふあ」
欠伸が出てしまった。
夕方に爆睡してたから大丈夫だと思ったが、普段なら寝てる時間のためベッドを見ての条件反射だ。
「お疲れのようですね、ヴィンセント様」
「そうかも」
「では、今日はクリーンだけにして寝ましょうか」
「うん」
カレンは今日はお休みにしておいたので、セルバスがお世話をしてくれている。
セルバスは本来は父の執事だから、僕のお世話は他の侍女にでも頼めば良いのに、何か話があるのかな。
着替えさせて貰いながら、問いかけるような目で見る。
「ふふ。ヴィンセント様はお見通しのようですね。転生者の件でお伝えするのを忘れておりましたのですが、旦那様や奥様は気付いておりませんので、シャガーリオ侯爵様も知りません」
セルバスって本当に心が読めたりしないよね?
「セルバスは報告しなかったの?」
「それは、ヴィンセント様に了承を頂いてからと思っております」
「なんで?」
「それは、私が踏み込んでよい話ではないからです」
どういう事?
どうやらセルバスは、エルフの子が転生者と言う事で里を追い出された話を聞いて、もし僕が転生者であった場合に、家族の間に修復出来ない傷が出来る事を憂いてくれているみたい。
それに前から疑ってはいたが、確認をするつもりも報告をするつもりもなかったんだって。
もし僕が転生者である事を自分から言う場合は、フォローしようと思ってはいたが、僕が普通の子供を装っているのを感じていたので、黙って見守ってくれていたらしい。
いやー!
子供っぽい行動をわざとしてたのがバレてたなんて!
恥ずか死ねる…
「い…いつから気付いてたの?」
「そうですね。初めに違和感を感じたのは、2歳になる少し前の頃ですかね」
「なんで?どこかおかしかった?」
「私は直接お世話をしていませんので、乳母の話からは大人しくて手のかからない子供だと思っておりました。ですが歩き出してからの話を聞いて、違和感は感じました」
普通の子供は危ない物や場所を知らないため、平気で何処にでも行こうとするし口に入れたりするのが、僕には全く当てはまらなかったと。
そして、3歳を過ぎてから直接会って喋っているのを聞いたら、ますます違和感は大きくなっていたと。
「大人しい子供も早熟な子供もいるでしょうが、ヴィンセント様は私達の言葉を理解しているとしか思えない反応だったのです。そして、その頃に父から転生者の話を聞いたので、もしかしたらと思って色々と噂話なども集めてみました」
で、まあ、王都や他の街なんかにも、自らを転生者だと言う子供がいると言う話がチラホラとあったと。
その中には、裏付けを取れた物もあるそうだよ。
え…皆バカなの?
なんで自分から転生者だと言っちゃうの?
自然にバレたならしょうがないけど、そんな怪しい話を普通するかな?
と言うか、そんなに転生者っていっぱいいるの?
「私はこれまで聞いた事はありませんでした。ですが、噂の出た時期や裏付けの取れた話から、該当するのは今年5歳になる子供のようです」
「それって…」
「はい。何故かはわかりませんが、ヴィンセント様と同じ歳の子供に、転生者が現れたと思われます」
女神様は何も説明してくれなかったし、死んだ時の事は覚えてないしで、何が起きて集団転生なんて事になったんだろう?
「ヴィンセント様は、転生する理由の心当たりはないのですよね?」
「なんで死んだかすら覚えてないからね。その、転生者だと言ってる子は何か言ってたの?その子達はどうなったの?」
「直接会った訳ではないので、そこまでは確認出来ていません。ですが、拘束されたりと言った事はありませんよ。貴族の場合は、普通の子供でも御披露目まで情報は殆ど出て来ませんから、噂以上に転生者がいる可能性はありますが」
それもそうか。
前世で読んだ小説とかのイメージが強くて、知識を利用するために監禁みたいな展開を心配したけど、そこまでする程の価値がある知識なんて一般人が持ってる訳ないわ。
ラノベでありがちな銃の構造なんか、図面もないのに細かいとこまで覚えている人なんて、どんな確率だよ。
「ですが、良からぬ事に利用しようと近付いてくる者もいますので、迂闊に喋るのはいけません」
確かに生活に便利な道具でも、使い方によって危険な物になる事もあるよね。
ダイナマイトも土木工事のために発明したのに、戦争に使われたりとかさ。
悪い事を考える人にとって、利用価値の高い知識を持っていると思われるのは危ない。
だからこそ、僕もバレないように振る舞って来たのだから。
セルバスにバレてたのはメチャ恥ずかしいけど!
バブってたのは転生者だとバレないためだからね!
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