第60話 うっかりだよ!
少し緊迫した雰囲気に、ゴクリと息をのむ。
「うむ。普通はあり得ないが、聞いた事のないクラスとスキルだけに、もしかしたら聞かれるやもしれんのだ。教会は漏らさないとは思うが、人が関わる限りどこからか漏れる事はあるからな」
「どうしても学校の授業でクラス別に別れるからな。黙っていても授業で判明してしまう事もあるんだよ」
どうやら父は普通の騎士として誤魔化してたが、咄嗟に使ったスキルで聖騎士だとバレたそうだ。
それ単なるうっかりだよ!
「学校に行かないと言う選択肢もあるが、嫡子である場合は難しいからのう」
学校は貴族社会での
変な噂を立てられたりすれば、その後の貴族社会での立場が悪くなるから、殆どは学校に行くそうだ。
「その辺は文系のクラスだと誤魔化す事も出来るからの。学校に行くまでに対策は出来るから、心配せずとも私に任せなさい」
どうやら他人がクラスやスキルを詮索するのは駄目だが、貴族には見栄もあるから、何系のクラスと言うフワッとした説明をして、農民とかじゃないよアピールをするんだって。
まあ、どこにでも自慢したがる輩はいるので、堂々と公表している上位クラスの人はいるが、あまり上品な行為ではないとされている。
唯でさえ身分と言うものがある上に、クラスと言うある意味では身分すらひっくり返してしまう要素があるせいで、何だか面倒くさいね。
「父上に任せておけば大丈夫だよ」
祖父が何やら悪い笑みをしてるが、その辺はお任せします。
「ふむ。では、この話しはここまでにして、ヴィンセントにはこれを渡しておこう」
手渡されたのは手紙だけど、父に宛てた封筒とはデザインが違う。
「これは馬を購入する時の紹介状だ。王都の側に良い馬を育てる牧場があるから、見に行くと良い」
「お祖父様、ありがとうございます!」
「ルーベンよ、ちゃんと連れて行ってやるのだぞ」
「わかりました」
王都だと貴族が多いから、馬の需要も高くて牧場も沢山あるんだって。
人気の牧場は供給が追い付かなくなるから、一見さんお断りな感じで紹介状が必要みたい。
頼りになる
「それと、これをシスレー殿に渡して欲しい」
お使い用の手紙まで用意してくれるなんて、やはり祖父は流石だね。
TPOによって封筒を使い分けるのも貴族としての
何だか色々と考えなきゃいけない事はあるけれど、とりあえず面倒な事は祖父や先生に任せておけば良いって事だよね。
僕は自分のクラスとスキルの検証と、子馬の事を頑張ります。
「それから、近い内にジューン達がこちらに来ると連絡があった」
ジューンて誰?
「ジューンが?何かありましたか?」
「次女が今月5歳の誕生日だから、祝福をするのに連れて来るそうだ」
何だかどこかで聞いた話のような…
「そうなんですね。こちらには全く連絡を寄越さないので、ヴィンセントと同じ年の娘がいるとは知りませんでした」
「アヤツは誰に似たのか頑固だからの。まだあの事を怒っておるのか」
何か父が怒らせた人なの?
「あれは私に言われても、どうしようもなかった事ですよ!」
「それは解っておる。あれが仕方のない事だったのは皆が知っている。だが女と言うものは、感情を優先するものだ。そして、そんな時に言い訳しても余計に拗れるものよ…」
祖父が何だか自身の経験であるかのように、しみじみと言っているよ。
「確かに…」
父もなにやら思い当たる節があるようだね。
何だか、疲れた顔をしているよ。
「あの、ジューンさんとは誰の事なんですか?」
一向に話が見えないので、ここは一番大事な事を聞く。
「ギルドに行く途中で話した、私の娘でルーベンの妹の事だ」
なるほど、あの時に言ってた叔母の事か。
てっきり御披露目の7歳まで会うことはないと思っていたよ。
「ヴィンセントはジューンの事を父上に聞いていたのかい?」
「話しの流れで、叔母上の事と同じ年の子供がいる事をお聞きしたのですが、お名前や王都に来る事までは知りませんでした」
「ルーベンよ。まさかとは思うが、一度もジューンの事を話した事がなかったのか?」
「あ、いや、その…話した事はなかったかもしれません」
「全くお前は…」
祖父が何やら諦めたような微妙な顔で父を見ている。
「その、向こうからも連絡がないですし、話題にするような機会がなくてですね」
「まさか、あれから一度も連絡を取ってないのか!?」
「いや、あの後すぐに手紙は出したんですよ!でも返事がなくて、怒りが冷めるのを待つしかないと思っている内に、色々と忙しくなってしまって…」
「お前と言うヤツは…いや、こうなった理由は解った。それならばジューンが王都に来たら、きちんと話しをするのだぞ」
「ええ、解っています…」
父がよっぽど酷い事をして叔母を怒らせたのだろうか?
でも祖父は何やら知っているっぽいけど、父を攻めたりしない所を見るに悪い事をした訳ではなさそうだし、謎だなぁ。
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