第59話 変人だよ!

「ほお。ヴィンセントはなかなか渋い趣味だのう」


「そうですか?」


「この鎖模様は、かの賢人ミレイが好んで使用していた物で、一時期流行ったのだよ」


 へえ、賢人とかいるんだ?


「ああ、どこかで見たと思ったら、賢人ミレイの記念碑の装飾も確かに鎖模様でしたね」


 父も賢人を知っているんだね。

 記念碑なんてあるなら、かなりの有名な人なんだろうな。


「賢人ミレイとは、どんな方なんですか?」


「まだヴィンセントは習ってないか。賢人ミレイは、100年程前に生活魔法を発見した事で、賢人の称号を当時の王より賜った方だよ」


 生活魔法を発見した人なの!?

 それは確かに凄い偉業だ。

 生活魔法があるおかげで、スキルがなくても魔法が使えるのだから。


「凄い人なんですね」


「生活が格段に便利になったと言われているからの。鎖模様の他にもクロスした棒とドクロや蜘蛛の巣のデザインを好んでいたのだが、そちらは一部の者以外には流行らなんだがな」


 え?なにその中2な病の人やメタルな人が好むデザイン。


「ああ、あのクロスした棒と鎖を着けてる人達は、賢人ミレイのファンだったのか」


 ファンとかいるんだ…


 あ~クロスした棒って十字架の事かな?

 この世界にキリスト教はないから、十字架って知らないのか…


 って、あれ?まさか賢人ミレイって転生者なの?


 それなら生活魔法を知っていただけなんじゃ…

 いや、でも、100年前ってラノベとかないから生活魔法の概念なんて知らないはずだよね。


 どういう事なんだ…


「ヴィンセント、どうかしたのか?」


「あ、いえ、賢人ミレイは、その、変わった人なのかなと思いまして」


 祖父や父は僕が転生者だと知っているのか、セルバスに確認するのを忘れていたから、転生者の事なんて言えないので誤魔化す。


「そうだね。色んな逸話を残しているよ。オリバーなら色んな話を知ってそうだから、聞いてみると良い」


 変わった人は否定しないんだ…

 賢人で変人なんだ。

 そして父は教える気がないんだね。


「それで、ヴィンセントのスキルに関して、何か進展はありましたか?」


「うむ。あったと言えばあったが、言えない事もある」


 とりあえず、当たり障りのない使い方を祖父が伝える。

 父に教えるのは、オリバー先生も同意している部分だからね。


 父は契約魔法に入ってないので、全てを教えると王太子に聞かれた時に困るからだって。


 初めから父も契約魔法に入れたら良いのにと思ったら、王太子の護衛と言う立場なので、契約内容を報告する義務があるから、知らないのが一番なんだとか。


 場合によっては護衛が契約魔法に縛られて、主人を護れないなんて事があるからだとか。


 まぁ、そんな事になる条件は稀なんだけど、過去に契約条件を破らせるように仕向けて、護衛にペナルティが起きた隙をついての暗殺があったらしい。


 なので、護衛に支障がない契約内容かどうか等を確認して、許可を貰わないと駄目なんだとか。


「なかなか面白いスキルだね。容量は少ないが、ヴィンセントがお財布にすれば相互間で共有するのか」


「本当に不思議なスキルよな」


「それじゃあ、私がお財布を預かって中に何か入れたら、ヴィンセントは別のお財布から取り出せるのかな?」


「それは駄目だと思って試していませんでした」


 カレンと試した時は、お財布に入らなかったらステータスにも中身が表示されなかったので、取り出せないと思い込んでしまった。


 空っぽの革袋をお財布にしてから父に渡して、そこに父が金貨を入れる。


 ステータスを確認しても、やはり表示は増えていない。


 だが、その革袋には金貨が入っているのだから、こっちのお財布から取り出せるはずだと思いながら、別の革袋に手を突っ込む。


「出来ました!」


 ふおお、これなら海産物が手に入るぞ!

 まさか父がこんな事を思い付くとは。


 父は脳筋だと思っていたけど、よく考えたら侯爵家の次男としての教育を受けているのだから、馬鹿ではないのだ。


 ちょっと失礼な事を考えていたら、祖父が何やら黙考している。


 いつもなら僕と一緒にはしゃいでいるのに、どうしたんだろう。


「ルーベンよ。この事は誰にも教えないようにしろ。スキルの使い方までは聞いて来ないと思うが、もし王族の誰かに聞かれた場合は、私に全て任せていると言え」


「わかりました」


「王族が僕のスキルを聞いて来るんですか?」


 この使い方を知られるのは確かにヤバいけど。

 例えば父が盗んだ物を、僕が取り出すとか出来ちゃうもんね。


 いや、距離が離れても出来るのかを確認していないから、見える範囲しか駄目な可能性もあるけど。

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