第58話 流石だよ!

 起こされたのは夕食前だった。


 馬車が侯爵邸に到着した時も、寝たまま運ばれたとか恥ずかし過ぎる。


 そう言えば前世の子供の頃も、よく遊びつかれて寝落ちしてた気がする。


 寝る子は育つから良いのだよ。


 父とか祖父母や伯父なんかも背が高いから、きっと僕も高くなると思う。


 ミュシャに案内されながら、小柄な母に似ない事を女神様に祈っておく。


 そう言えば今日もお泊まりするのか、確認するのを忘れていたよ。


 昨日と同じ食堂に入ると、思いがけない人達がいた。


「お父様!お母様!」


「ヴィンセント、走っては駄目ですよ」


 思わず駆け寄った僕を注意しながらも、笑顔で抱き締めてくれる母に自然と笑顔になる。


「申し訳ございません。お会い出来たのが嬉しくてつい。いつ来られたのですか?」


「ふふ。ヴィンスはお昼寝をしていたから、少し驚かせようと思ったの」


「凄く驚きました」


「ヴィンセントがなかなか帰って来ないから、迎えに来たんだよ」


「そうだったんですね。お父様、申し訳ございません」


「さ、沢山話したい事があるでしょうが、先ずは席に着きましょう」


「はい、お祖母様」


 皆で席に着く。

 いつもは父と母が向かい合わせで座るのだが、今日は僕を挟んで両隣に座る。


 向かいには父の前に祖父が、僕の前に祖母が座る。


「そう言えば先生は一緒じゃないんですか?」


「ああ、シスレー殿は今日は帰ったよ。ヴィンセントにも挨拶したかったと言っておったぞ」


「そうなんですね。僕もご挨拶したかったです」


 これ以上カレンを怒らせない方が良いと判断したのだろう。

 邸に帰ったらカレンの機嫌が悪いのも嫌だから、先生には頑張って欲しい。


 話しが終ると直ぐに前菜が運ばれて来て、大人にはワインで僕にはジュースを注いでくれる。


 ジュースはサッパリとした蜂蜜レモンだった。


 何も合図をしなくてもベストタイミングで給仕がされるのは、流石は侯爵家だよね。


 夕食はフランス料理のコースみたいに順番に運ばれてくるが、昼食はイギリスのアフタヌーンティー風だし、色んな文化が混ざっている感じだね。


 今日のメインは牛に似た魔物の肉のローストで、柔らかい肉質なので子供でも楽に噛みきれるよ。


 デザートは夏らしく、オラジンのシャーベットだった。


 氷属性の魔石が手に入ったから、作ったんだって。


 魔石は魔物から取れるんだけど、ほとんどが無属性の魔力なのだが、稀に属性を帯びた魔石が出るそうだ。


 寒い地域の魔物か、特定のダンジョンの魔物からしか氷属性の魔石は取れないから希少なんだとか。


 和気藹々と夕食を済ませて、少し祖父と父と話しをする事になったよ。


 祖母と母は女同士の話をすると言って別れた。


 祖父の部屋に行くと、父と並んで座る。

 お茶が用意されて、他の皆を下がらせる。


「ギルドの依頼はどうだった?」


 先生から説明されなかったのかな?


「ああ、報告は受けているが、お前の口からも聞きたいんだよ」


「セルバスやルーカスがいたので、道に迷わず簡単に行けました。ただ受取人のターナーさんは、配達人が僕でビックリしてました」


「そうか。まぁ伝言は届けてあるから、ジョルジュが説明してくれるだろう」


「ターナーさんはコンフェイトをくれました。いつも子供にあげてるって言ってたので、優しい人なんですね」


「うむ。彼はジョルジュの妻の父親だと聞いている。ジョルジュは、ギルドに登録出来ない者への依頼に貢献しているんだよ。子供でも出来る荷物の配達や、店の掃除なんかを出しているようだ」


 なるほど、貧しい人に収入を得る機会を作るために、わざわざ同じ王都内の身内に配達依頼をしてるんだね。


 だから貴族の僕が来てビックリしてたんだ。

 それじゃあ、僕が横取りするのは駄目なんじゃ?


「気にしなくて良い。あれは依頼をしてから3日は経っておった。他に割の良い依頼があったから残っていたのだろう」


 なら良かった。

 と言うか、祖父はあの時サッと依頼を見ただけで、そこまで判断してたの?

 流石は宰相だね!


「コホン。それで、帰りに雑貨屋に寄ったのだろう?どうだった?」


 僕が尊敬の眼差しで見てたからか、祖父が照れたように話題を変える。


 しかし、雑貨屋での出来事はエルフの秘密を含むので、当たり障りのない部分だけを伝える。


「色んな物があって楽しかったです。あと、この時計を買いました」


 ポケットから出すように見せかけて、お財布から時計を取り出して見せる。


 この取り出すテクニックは完璧だよ!

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