第51話 言えないよ!
気を取り直して時計の代金を払いにカウンターへ向かう。
銀貨6枚だったので、カバンからコインケースを取り出し、そこから更に銀貨1枚と小金貨1枚を取り出す。
もちろんカバンから硬貨を直接出せるのだが、お財布は多重で入れる事が出来る事を発見したんだよね。
マジックバッグにマジックバッグは入らない、みたいな事はなかったのだよ。
先入観でお財布にお財布を入れる発想がなかったんだけど、カバンを渡された時に無意識にコインケースを入れたんだよね。
入れてから二重にお財布が入る事に気付いたんだけど。
時間がなくて実験出来なかったけど、何重まで入るかとか容量は同じなのかとかも確認したい所だよね。
支払い終えて店の外に出ると、待ち合わせ場所に馬車が到着していたよ。
またルーカスさんが先頭で警戒しながら進んで馬車に乗り込む。
来る時はセルバスは御者の隣に座っていたが、帰りは中に乗るみたい。
代わりにルーカスさんが御者の隣に座っているね。
しかし先生との話しで色々とわかったけど、エルフ問題は解決していないんだよね。
彼らは姿を偽りながら王都で暮らしているっぽいけど、事情がわからないのでは、犯罪者を庇うような事になるのもまずい。
エルフ疑惑のあるセルバスに聞いてみるか…
って僕が勝手に疑惑を持ってるだけで、しかも根拠はエルフっぽい見た目と年齢不詳な感じだけと言うフワッとした理由だからな。
うん、妄想は程々にしておこう。
しかし、本物(?)のエルフを見たら、ますますセルバスがエルフっぽく見える…
それこそ前世で見た『青い池』のような水色の髪とか、金色の瞳も美幼女エルフと同じように光がキラキラしてる感じの虹彩があるしさ。
でもセルバスの耳は尖ってないからなぁ。
顎下までのボブカットで耳が隠れているけど、美幼女エルフの耳から考えると髪から飛び出るくらいの長さがあるはずだよね。
まじまじとセルバスを見ていたら、僕と目が合ったセルバスが聞いてきた。
「ヴィンセント様、どうかされましたか?」
「えと、その、セルバスってエルフを見たことある?」
うわ、僕は何を言ってるんだ。
こんな事を言われても見たなんて言うわけないよ。
ほらセルバスが困った様な笑顔を浮かべているじゃないか。
「申し訳ございません、ヴィンセント様。生憎とお話しに出てくるエルフしか存じません。なぜ私がエルフを見た事があると思われたのですか?」
「セルバスってエルフっぽいから何となく?それに若く見えるけどニーナより年上って聞いたから、何でも知ってるかと思って…」
5歳児っぽいムチャクチャな言い訳をしてみる。
「ふふ。流石に何でもは知りませんよ。エルフっぽいと言われたのは初めてですね。お話しのエルフは金髪に緑眼または碧眼が多いですから」
「そうなんだ。エルフは金髪なの?」
「伝承ではそう言われています。大昔にはエルフが存在していて、絶滅してしまったと言う人もいますね」
「何で絶滅しちゃったのかな?」
「そうですね。元々エルフは人数が少なくて、子供が産まれにくいからとか、人間に追い出されて魔物にやられてしまったとかも言われています」
「人間がエルフを追い出しちゃったの?」
「そうですね。人は自分とは違う部分がある事があると、排除しようとしてしまう事があるんですよ」
「でもドワーフや獣人はいるんだよね?」
「はい。この国ではドワーフや獣人に対する差別は禁止されていますから。王都にも人数は少ないですが住んでいますよ。ヴィンセント様がお会いになりたいのでしたら、今度はドワーフの鍛冶工房にご案内しましょうか」
マジで?!
「会いたい!セルバス絶対に約束だよ!」
ドワーフと鍛冶工房の組み合わせにテンションが上がるね。
出来れば獣人も見たいけど。
ああ、もふもふの耳と尻尾を触らせて貰えたら最高なんだけど!
特に犬系が好みなんだよね。
狼も狐もね!
特にオレのコレクションの白狐の…って、あぁ~PCとスマホのデータ!
「うわぁぁ!」
思い出したよマイコレクションの事を。
今までは前世の事をボンヤリとしか思い出せなかったから、他人事みたいに深く考えてなかったけど、死んだ後どうなったんだ!?
どうか、どうか、誰も見ないで処分してくれてますように…神様女神様お願いしますよ!
「ヴィンセント様!?」
「ふえっ!?」
僕が神にデータ消去を願っていたら、いきなりセルバスに肩を掴まれて変な声が出た。
「え?ちょっとセルバス、どうかしたの?」
「どうかしたのではございません!急に頭を押さえて叫び出して、どこか痛むのですか?!」
ものすごく心配されてるけど、言えないよ。
前世の記憶を一部とは言えクッキリと思い出したせいで、コレクションを身内に見られたかもしれない羞恥に頭を抱えていたとは。
何で自分の名前も家族の事も思い出せないのに、このタイミングでコレクションの事を思い出すかな?
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