第50話 まぼろし~だよ!
それは美しく長い髪だった。
どうやら僕がバタバタさせた手が、偶然にも彼女のフードに当たってずれてしまったせいで、中に押し込めていた髪の毛が溢れたのだろう。
室内のはずなのに光を弾いているかの様に煌めく髪は、不思議な緑の瞳と尖った耳も相まってエルフみたいだね。
んん?尖った耳?
やっぱりこの世界にはエルフがいたの?
まさかドワーフって事はないよね?
まじまじと見つめても、エルフのイメージ通りにしか見えない。
「あの…」
僕が声をかけようとしたらハッとしたようにフードを被ると、男の方へ行ってしまった。
もしやエルフは人間に迫害されてるから、身を隠して生きているとかのラノベ的な展開なんだろうか?
でも先生も見えたはずなのに騒いだりしてないし、ルーカスさんもセルバスも特に2人を警戒してる様子はない。
ううん?そう言えば警戒してないのも変と言えば変だよね。
いくら幼女とは言え護衛対象に近付いて来たら警戒するはずだし、その前に店内に入って来た時も注意してる風でもなかったような?
ドアベルが鳴ったから見たけど、すぐに目を離してた気がする。
今も誰も注意を払っていないし…
その前にいた客には警戒していたのだから、これは変だよね。
まさか…何かのスキルを使われているのか?
見た目を変えているだけなら、ルーカスさんが警戒しない理由にはならない。
見た目は変えてないのに、警戒されないようなスキルって事?
相手のスキルがわからないし、下手に関わって変な事になるのも困るし…
よし、とりあえずエルフ耳は見なかった事にしよう。
「お待たせしました。銀貨3枚です。いつもありがとうございます」
どうやら男は目当てのアイテムを購入し終わったようだ。
常連客と言うことは、ここへは同じ見た目で何度か来ているって事だよね。
男がチラリとこちらを見た後に幼女を抱き上げる。
ドアベルを鳴らして足早に出ていく背中をなんとなく眺めていると、幼女と目が合って手を振って来たので振り返しておく。
何か反射的にしたが、貴族だと手を振るような挨拶はしないから、平民なんだと思う。
見た目だけなら、エルフのお姫様と言われたら信じてしまうとこだけどね。
「ヴィンセント様の好みは彼女のようなタイプですか」
先生がニヤニヤしながら言ってきた。
「別に好みとかではないです」
「でも仲良く手を振っていましたよね」
仲良くはないと思う。
結局は一言も言葉を交わす事もなかった訳だし。
「無視するのも大人気ないと思っただけです」
「大人気ないって、ヴィンセント様と同じくらいの歳でしょう」
「先生、ちょっとこちらへ来て下さい」
皆から離れた場所で先生に聞いてみる。
「おっ、恋の相談ですか」
「…カレンに先生はコイバナが好きだと伝えておきますね」
「ヴィンセント様を揶揄うのは止めますので、どうかカレンに変な事を吹き込まないで下さい」
「変な事って先生が言い出したんでしょう。そんな事より、先生は彼女の事がどんな風に見えていましたか?」
「私はカレン一筋ですし幼女には興味ありませんよ。もちろん僕達に娘が出来れば別ですが。きっとカレンに似た可愛い娘になりますから」
誰もそんな事は聞いてない。
ジト目で先生を見る。
「そうじゃなくて、何かあの2人は不思議な感じがしたので、先生の意見を聞きたかったんです」
「う~ん。特に目を引く所もない、平凡でどこにでも居そうな感じですね。」
「平凡ですか?彼らの容姿は目を引くと思うんですが…」
「髪も眼も平民によくいる茶色でしたよ。こう言っては何ですが、既に顔も思い出せないくらい特徴がないのが特徴って感じです。ヴィンセント様は時計もシンプルなデザインを選ばれてましたし、彼女のような地味な感じが好みなんですね」
茶色で地味?特徴がない?
やっぱり何らかのスキルで皆には幻を見せていたのか…しかも記憶に残らないくらい地味な容姿に。
「好みとかじゃないと言ってるじゃないですか。今後は先生がカレンとケンカしても、取りなしてあげませんよ?」
「申し訳ございません」
土下座文化があれば確実にやっていたくらいの勢いで謝られたよ。
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