第49話 対象外だよ!

 キャンプ用品改めダンジョン用品コーナーを離れ、ふと目についた物を手に取ってみた。


 これってアレじゃない?


「おや?こんな所でも売ってるんですね。魔道具店くらいしか取り扱っていないのかと思っていました」


「これって時計ですよね」


 形が前世で見た懐中時計にそっくりだった。


「ええ。手の平サイズまで小型化するのが、なかなか難しかったんですよね。細かい時間表示を組み込んだら、どうしても魔道回路が大きくなって…」


 何か専門的な説明を始めた先生の話しを聞き流しながら、懐中時計の蓋を開いて見る。


 秒針はないが長針と短針があり、目盛りは12に区分されているのも前世と同じだな。


 ゼンマイを巻くためのネジが付いてないのは、この世界では電池代わりの魔石を動力にしているからのようだ。


 その辺は妙に先端技術ハイテクなんだよね。


「…と言う感じで小型化に成功したんですよ。ヴィンセント様もしや買われるのですか?それなら私が作って差し上げますよ?」


「ありがとうございます。でもこのデザインが気にいったので、これを買います」


「そうですか?ヴィンセント様はシンプルなデザインがお好きなんですね」


 確かにツルリとした蓋の縁を囲むように鎖模様が彫られているだけのデザインは、貴族が好む物ではないかもね。


 でも長く使うなら結局はシンプルな方が飽きが来ないと思う。


 他には特に欲しいとは感じる物がなかったのでお会計をしてもらおうと振り向いた時に、ドアベルの音がして新たな客が入って来た。


「いらっしゃいませ」


 店員の声に入って来た人の方を見てみるが、僕の位置からはフードを被った頭部しか見えなかった。


 新たな客はこちらを見た瞬間に硬直した。


 まぁ庶民的な店に貴族がいたらビックリするよね。

 しかも護衛の騎士までいるし。


 そのまま回れ右をするかと思ったけど、店内に入って来たのは勇気あるのか急ぎの用があるのか。


「ミラさん、アレは入ってますか?」


 どうやら常連客らしい男は店員の所まで行くと、コソコソと聞いているが店内が静かなせいで聞こえてきた。


 店員はミラさんと言うんだね。


 フード付きの外套を被っている男がコソコソ言ってると怪しい取引みたいなんて思いながら、時計の代金を払うために並ぼうかとカウンターに近付くと眼が合った。


 それは鮮やかな緑色に金色の光が散りばめられた様な不思議な色の瞳で、吸い込まれそうな瞳って実在したんだと思った。


 どうやら男は子連れだったようで、僕と身長が変わらないその子とちょうど視線が合う高さだった。


 子どもの方もフードを被っているが、見えている顔からすると女の子のようだ。

 これで男の子だったら詐欺だと思う。


 男の方も今の角度からだと見えている顔は二十代前半くらいで、我が父と張り合える程のイケメンだね。


 見えている髪の色は、2人ともそっくりな金色だから親子なんだと思う。

 女の子も美幼女だし美形親子だ。


 あ、幼女は守備範囲外なので、いくら美形でも小さな恋が芽生えたりしないからね。


 前世の記憶がなければ恋が始まる場面だが、アラフォーな自我がある僕にとって子どもは対象外なんで、甘酸っぱい想い出とは無縁の人生になりそう。


 出来たら20年後に会いたいところだ。

 いや、この世界だと十代で結婚が普通だから、20年後だと手遅れだな…


 十代でも精神的には自分の子どもでもおかしくない年齢だから対象外だし……今生も生涯独身かもしれない…


 いやいや、今の僕は政略結婚してでも跡継ぎを作らないといけない立場だから、恋愛対象かどうかは関係ないんだよ。


 って、まだ5歳なのに何を考えてるんだか。


 うん、目の前の美幼女の未来予想図が美少女過ぎるから血迷っただけなんだよ。


 うん?目の前?


「わわっ」


 いつの間にか美幼女が目の前に来ていた事に驚いて後退りしたら、バランスを崩して後ろにひっくり返りそうになる。


 咄嗟にバランスを取ろうと手をバタバタさせる。


「きゃっ」

「リリッ」


 しかし頭が重い幼児体型のせいか、体勢を戻す事が出来ず倒れると思った所で支えられた。


 ふぃ~助かった。


「ありがとうございます」


 仰け反りながら先生にお礼を言う。

 この角度でもイケメンですね。


「どういたしまして。ふふふ。ヴィンセント様も男の子でしたか」


 何やらニヤニヤしてるけど、変な勘繰りしないで下さい。


 考え事をしてたからビックリしただけなんだからね!

 なぜかツンデレ風に心の中で言い訳をしてしまう。


 身体を起こして貰うと、目の前にキラキラと太陽の様な煌めきがあった。

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