第47話 丸出しだよ!

 ドアが開いて七十歳前後くらいの男性が出て来た。


 先ほど覗いていた時はよくわからなかったが、榛色の瞳に白髪交じりの茶髪の優しそうなお爺ちゃんだ。


「ワシがジャン・ターナーだが、なぜ貴族の坊っちゃんがギルドの依頼を?」


 そりゃ~気になるよね?


「驚かせて申し訳ありません。ギルドの見学をしていたら、僕でも出来そうな依頼があったのですが、祖父が依頼者が知り合いだから受けてみろと言ったんです」


「依頼者が知り合い?」


「依頼者はジョルジュ・ラダ・ジェリコー男爵です。あ、これが小包です」


 肩かけカバンから小包を取り出して渡す。


 実はお財布を活用出来るように、祖父からカバンを貰っていたのだ。

 備えあれば憂いなしだよ。


「ああ、ジョルジュからか。なるほど…え?……ジョルジュの知り合いの貴族って…まさか…」


「それはジョルジュさんから聞いてみて下さい。祖父とは同級生だったそうです。あ、ここにサインを頂けますか?」


 小包に付いている受領証を剥がしてサインを貰う。


 ジャンさんは心ここに在らずな感じだけど、とりあえず依頼達成だから帰ろうか。


「それでは失礼します」

「あぁ、ちょ、ちょっと待って下さい」


 いきなりスイッチが入ったように家に飛び込んで行ったよ。

 すぐに戻って来た手に紙で包んだ何かを持っている。


「こんな物で申し訳ないですが、いつも子供にあげてる物なんです。よかったらどうぞ」


「ありがとうございます」


「その、荷物を届けてくれてありがとうございます。お祖父様にも宜しくお伝え下さい」


「かしこまりました。それでは失礼します」


「ヴィンセント様、こちらです」


 どうやら逆方向に行きかけてたみたい。

 …同じ様な見た目の家ばっかりだから間違っただけだよ。


 皆に委ねて行けば帰れるから心配無いさ~。


 ターナーさんに貰った物を見てみると、金平糖みたいな砂糖菓子だった。

 砂糖は高いから、下手したら報酬の銅貨3枚より高いんじゃ?


 いつもあげてるみたいな事を言ってたよね。

 そんなに配達依頼なんてあるのかな。

 ギルドでも1件だけだったよ。


 先生に聞いたら、ギルドが宅配会社みたいな事をしているんだって。


 王都内だけでなく、他の町にあるギルドの支部と往復している定期便があり、週に1度くらいの頻度で荷物が届くそうだ。


 ギルドの定期便は距離や荷物の大きさによって金額が変わるが、隣町までなら片手に乗るサイズの小包で銅貨5枚で出せる。


 その町のギルドから更に個人宅まで届けるのは町の大きさによるが銅貨1~3枚くらいだって。


 ギルドに小まめに顔を出す人に送るなら、ギルドで受け取る様にするらしい。


 もし取りに来ない荷物は3ヶ月でギルドに所有権が移るから、大切な荷物は個人宅まで配達を頼む方が良いってさ。


 ちなみに定期便と言いながら、天候や魔物の出現によっては数日の誤差があるそう。


 ターナーさんはご高齢だからギルドに行く事が少ないから、個人配達をよく利用してるのかもね。


 お菓子は善意でくれたんだろうけど、この世界では"知らない人にお菓子をあげると言われても、ついていっちゃ駄目"って言う文化はないだろうか?


「ヴィンセント様って面白い事を言いますよね。護衛とか連れてる貴族の子供をお菓子で連れていくなんて無理ですよ?むしろ毒殺とかの心配をしますけど」


 うぇ!?毒殺!?物騒過ぎるよ!

 貴族怖い…


「まぁ、全く接点がありませんから、そのコンフェイトは大丈夫でしょう。ジェリコー殿との繋がりからヴィンセント様がやって来る偶然なんて予測出来ませんよ。そこまで読んで毒を仕込めるなら、何をしても防げそうにありませんね。ハハハ」


 ハハハじゃないよ!

 人を恐怖に陥れておいて!

 何気に金平糖の名前がコンフェイトだと判明したが、明日になったら忘れてそう。


 とりあえずステータスを確認すると、経験値はレベルが2でクラスが3でスキルは6も増えたよ。


 順調順調。


 さっき馬車から降りた辺りに戻って来たけど、待ち合わせは通りの向こう側だから、ルーカスさんが壁になるように前を行くのに合わせて着いて行く。


 人の流れを垂直に割る様に歩くから、左右からくる人や荷馬車を避けるのは大変だと思ったけど、向こうが避けてくれるから余裕だね。


 きっと僕と先生が貴族丸出しの格好で、従者を連れてるからだよね。

 ルーカスさんも鎧を付けてるから騎士丸出しだもの。


 部分鎧なんだけど、シルバーメタリックだから目立つよ。


 今度出かける時は、お忍びモードにしてもらおうと心に誓った。

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