第46話 信頼の証だよ!

 貴族の裏事情を聞いてる内に東地区に到着したよ。


 東地区は人の往来が多く活気があるね。

 転生して初めてこんなに多くの人を見た気がする。


 ギルド本部がある中央地区は、貴族向けの店舗や役所などがあるため馬車が多くて歩いている人が少なかったけど、東地区は荷車や歩いている人が圧倒的に多い。


 それと言うのも、東街道の先に9級のダンジョンを有する町があり、そこから北へ行くと例のロックタートルや貴重な動植物が生息する樹海があるため、冒険者の出入りが多く物資の行き来があるからだ。


 ギルドの支部もあり、そこに卸された素材を目当てに商人や職人が店を出して、冒険者や街の人の出入りがあるため雑多な雰囲気だ。


 西地区も似た様な雰囲気らしいけど、西街道は王都の北側にある山脈から海まで続く大きな河が流れていて、隣国からの交易品も入ってくるため、どちらかと言うと大きな商会が多いみたい。


 南地区は、南側に王都の抱える穀倉地帯があるため、農作物を保管する倉庫が並ぶ外街と、農業に従事する平民が住む下街でかなり雰囲気が違うらしい。


 それから東も西も下街は基本的に貧しい人が住んでいるから、絶対に近付かないように祖父母と先生に揃って言われたよ。


 僕はか弱い5歳児だから無茶はしないよ。


 馬車停めがある場所だと少し遠いから、一番近い路地の前で降ろしてもらった。


 祖父は仕事があるから、このまま祖母と一緒に帰るけど、後から迎えを寄越すからと待ち合わせの場所も決められたよ。


 それから念のためにと、護衛の騎士を1人付けてくれたよ。


 オリバー先生とセルバスだけでも大丈夫だと思うのに、過保護だよね。


 護衛の騎士は真面目な感じの、朱色の髪に青い瞳のイケメンだよ。


 ルーカスとお呼び下さいって騎士の礼をされたよ。


 騎士の礼は右手の拳で心臓叩く仕草に、貴族の礼を足した様な感じだよ。


 トンと胸を叩いてから、スッと足を引いて礼をするのだが、キビキビした動作がカッコいいよ。

 騎士同士だと胸を叩くだけらしい。


 路地を歩きながら騎士について教えて貰ったよ。


 正騎士の叙勲を受ける時は、国王陛下から剣を賜って宣誓を行うそうだ。


 宣誓は定型文があるけど、オリジナルでも構わないらしい。


 国と民のために我が剣に誓います的な感じを入れておけば、後は粉骨砕身とか粒々辛苦っぽい意味の言葉を付けるのが流行りなんだとか。


 先生がルーカスさんの宣誓はどんなのか聞いたら、恥ずかしいからと教えてくれなかった。


 そんなに恥ずかしい宣誓をしたの?


 そんな話をしながらも、ちゃんと周りの様子を見てるんだよね。


 路地を横切る時は前に出て確認するし、通り過ぎると後ろから襲われないような位置に戻る。


本来は2人以上で前後を守るんだろうけど、1人だと大変だね。


 僕は先生とセルバスに挟まれてるから、一番安全な位置にいるんだけど、気を抜かないルーカスさんは凄いね。


 僕は気を抜き過ぎて、既に元の大通りに1人で戻れるか自信はない。


 やがて1つの家の前で止まったから、ここが目的地らしい。


 何で地図を1回見ただけでたどり着けるのさ。


 受付の人は見せてくれただけで、地図の貸し出しはしてなかったんだよ。


 依頼書に住所が書いてないのは、強盗に待ち伏せされたりしない為だそうで、説明の時に教える様になってるんだよね。


 知らなかったけど大通り沿いには路地番号の看板があって、それで目的地の近くの路地がすぐに判るってさ。


 それから路地の交わる所の、石畳の色が違うのが目印になってるみたい。


 東西南北に合わせて青白赤黒の石が埋め込まれているから、方向がわからなくなったら、同じ方向の色石がある方へ進めばいつかは大通りに出られるんだって。


 後は地図を見た時に南に何回曲がる西に何回曲がるって感じで覚えていたら、簡単に目的地に着けるらしい。


 区画が決まっているからこそ出来るやり方で、王都に住んでる人くらいしか知らない情報だそう。


 前世でも人の運転で出かける時に道を覚えないタイプだったから、地図もなんとなくで見てたわ。

 全て委ねてしまうのは信頼の証だよ…


 セルバスが明るい水色のドアに付いている、三日月型のノッカーで3回叩く。


 決して僕の背丈だと届かないからじゃないよ、執事としての職務だよ。


 暫くしてドアの覗き窓が開いて、誰かがこちらを見てから声がした。


「どちら様でしょうか」


 明らかに貴族の格好をしているお子様の一行に、警戒してるみたいだよ。


「ジャン・ターナー様のお宅で間違いございませんか?」


 届け先の名前を確認すると、少し目を見開いてから肯定の返事をくれた。


「ギルドから小包配達の依頼を受けて来ました。受け取りをお願いします」


 今度こそポカーンとした目で僕らを見てるターナーさんに、祖父の知り合いはあくまでも依頼者で届け先の人じゃないもんねと遠い目になった。

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